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Repairer=Escaper!(旧:修繕師と非日常)  作者: スライム一号
序章:日常と逃走劇の始まり
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7

「帰ってこいよ、みぃんな待ってるぜ」


 ……いつの間にか頭痛は収まり、すっと冷静になる。

 激昂すると返って冷静になる、というものだろうか。


 ナイフに力を込め直し、言い返す。


「お断りだね、俺は兵器になり得る魔導具なんて作りたくない」


 ……障壁を今だ破ろうと杭を突き立てる青年が言葉を聞き下衆な笑みを浮かべる。

 やはり、こいつらはそんな奴等なのだ。

 力を求め、力づくで打ち倒す。


 視界に入る槍が錆びで痛んでいる。


「魔導具は兵器と切っても切れない関係だ、いつまでも家庭用品なんて作っていると腕が鈍るぞ」


 ……もう何を言っても無駄だろう。


 展開している障壁を平たく、広く伸ばす。相手は今だこの破壊不可の障壁を破り抜くことに気を取られている。


「今までので十分だろう?その機械の使い方もお粗末じゃあ修理工としても、なにより個人的に願い下げ……だっ!」


 展開した障壁をナイフの一閃と共に敵ごと飛ばす。こちらを見て不愉快な笑みを浮かべつつこちらを見て叫んだ。


「じゃあ逃げてみろよ!どっちにしろ俺達からは逃げられないだろうがなぁ!」


 吹き飛んでいく音源と共にフェードアウトしていく不快なノイズに耳を塞ぎつつ、後ろにいるベルとエリーを見る。


 エリーは感情の無い目でこちらを見、ベルは俯きながら視線が泳いでいる、かなり混乱しているように感じる。


「トルクガ」


 ベルがそう言った。


「トルクがあれを作ったのカ?」


 ベルはいつの間にかこっちを見ていた。

 ベルも俺と同じように魔導具の扱いはかなり丁寧だ、その魔導具が兵器に、戦争に利用されて怒り狂わない筈がない。


 エリーは言わずもがな、オートマタだ。

 同じ魔導具として決して浅く無い溝を作ってしまっただろう。


 正直に言うべきだろう、ゆっくりと口を開き、言い聞かせるように言った。


「そうだ」


「トルクッ!お前ッ!」


 途端ベルは怒りをあらわにし、杖を振りかざした。

 しかし、その下のエリーは微動だにしなかった。


<……トルク様が過去に何を犯そうが今ここで言い争うことは非生産的です。マスターも抑えてください>


 ベルはこちらを睨みつけつつも、分かっているが、納得は出来ないといったように息を大きく吐き、杖を下ろした。


「まア、積もる話は後にしよウ。今はどうするべきカ、ダ」


<判断はトルク様に委ねましょう>


「立ち向かうか、逃げるか、だな」


 一人と一体はこちらを向き頷く。悩んでいる時間は無い、意を決した。


「逃げる。何が何でも逃げる」


「そうカ。デ、当てはあるのカ?」


 俺の返答を大体予想していたのか、よくわからない表情でベルはそう返した。


 当てなどない、今、俺はこの街と、先ほどの男が言っていたところ以外居場所が無いのだ。


 ベルはわざとらしく重ねて大きくため息をつくと、俯いたままこちらに重ねて質問する。


「アレハ……自らの意思で作ったのカ?」


 少し予想外の質問だが俺の返答は決まっている。

 アレは、先程の男の右腕についていた魔導具のことだろう。


 ふとエリーを見ると、不安そうに、だが憮然と構えていた。


「断じて違う。脅迫されて作った」


 ベルはまたもや大きくため息をつき、こちらに何時ものにやけ顔を浮かべた。


「全ク、済まなかったナ、取り乱してしまっタ。それデ、行く当てが無いんだろウ?」


「ぐっ」


 いつものベルには戻り少し安心したが、正面切って言われるとなんと言うか心に響く、幾許の精神的ダメージを負った俺をよそに、ベルは続ける。


「ワタシの研究所のポータルを使うといいゾ、近くの少し大きな街ニ……ネクトに続いていル。ただシ……」


「ただし?」


 ポータルとは大まかに魔導具の一種で、魔素を充填することで大きな円の中に居る人や物を遠くの場所へ転送することができる優れものだ。


 少々、必要な魔素が多いがベルなら大丈夫だろう。


 ネクトはこの小さな街と比べると3倍程ある街だ、人を隠すなら人の中……という考え方だろう。

 願ったり叶ったりだが。


「ワタシとエリーを連れていケ、話をつけてやル」


 同行人が増えるようだ。


 -----


 いざ街を離れるとなると、郷愁も感じるものである。

 10年以上連れあって来たのなら尚更だ。


 マテル修理店の機材には一通り盗難防止の魔法をかけ、鉄の看板には閉店を示して来た。


 ボロ屋だったが、雨風を凌いでくれた……かどうかは微妙としか言えないが、と別れを告げ、ベルの研究所の一室に入る。

 とすでにベルとエリーが準備をしていた。


「遅いゾ」


 ベルのそんな言葉で意識が現実に戻される。俺は底まで深呼吸して言った。


「悪い、手間取った。そっちは大丈夫か?」


<先ほどポータルの準備が出来ました、マスターがついさっき魔力を充填したところです>


 エリーは大きな円の中にルーン文字を重ねて描いたポータルの中でザックを背負い込み寝そべっている。


 ベルは部屋の中の棚に手ぶらで腰掛けている。

エリーの背負うザックの中身は二人分の荷物だろう。


 俺も荷物を背負ったままポータルの中に入り、準備が出来たことを告げる。


「じゃア、行くゾ……起動」


 ポータルが赤い光を発し、徐々に光が強くなる。


 さて、ポータルとは最も扱いが厳密な魔導具だ。僅かな魔力の充填の誤差で大きく到着地点が異なってしまう。


 それと今の状態を整理してみよう、洞窟の異変で空気中の魔素が平常状態とは言い難い程濃い。


 それを合わせるとどうなるか。


<警告。ポータル、半暴走状態です。到着地点に大きな差異が発生する恐れがあります、街中では無いことに注意してください>


「……ワタシとしたことガ、基本的なことを見落としていたナ」


 こうなる。慌てるとさらに暴走し、とんでもないこと……上半身と下半身が別々に転送されたり、になってしまうので冷静に、を心がける。


 エリーは俺の脇に挟まれ、ベルは俺のカイロの入ったポーチに入り込みながら、俺と共に

 赤い光に包まれていくのであった。


 この街で最後に浮かんだのは、郷愁と、多大な不安と、そしてわずかな新生活への期待であった。

年内に序章は終わらせたかったので二話連続更新という形を取らせて頂きました。


来週、ストーリーの変更の影響で少し書きだめを作りたいので更新をお休みします。


やっと序章終わりました!


誤字脱字、感想、改善点等々お気軽にどうぞ。

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