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しんしんと降り積もりつつある雪を窓を通して横目で一瞥し、今まで酷使した目を休めるよう瞼を閉じ大きく息を着く。
次に目を開けた時に見えたものは机の上にあるルーン文字が歪み、黒く変色しているコンロと、机を挟み対面の簡素な椅子に両手に温めたココアの入ったカップを持ち、前かがみで興味深そうに、かつ不安そうにこちらの手元と顔を交互に見ているウサギの耳の生えた獣人さんだった。
天井を見ていた目を再度コンロに向け、ルーン文字を一つ一つ丁寧に修復していく。
「……ルーン文字が焼き切れているようです、これならすぐに直せますね……っと、これで大丈夫です」
銀に刻み込まれたルーン文字を刻み直し、起動させてみると、コンロ本来の機能である火力を調整することはおろか、火花を出すことすら出来ないものが正常に動き始めた。
「わわ、ありがとうございます!これで美味しい料理を作ることができますー!」
椅子から飛び上がり、コンロを抱え、グルグルとその場を回転するほどオーバーに喜びを表現する兎の獣人さんを見て目を細め、空いた紙に数字を書く。
「次からはあまりルーン文字の部分を触らないようにしてくださいね、で、お代は……特に手間のかかることはしていないのでこの位で……」
「わ、安い!それでお願いしますー!」
お客さんから本来の3割位引いた修理代をいただくと、兎の獣人さんは上機嫌でコンロを抱きしめ、正に脱兎の如く店の玄関を走り……いや、跳び抜けて行った。
「扉は強く開けないでくださいよー!」
とはいいつつも、全くお客さんのいない時は外まで出て見送るのが礼儀だ。
俺も空いた玄関から外に出る。
と、一面の銀世界に気付くと同時に若干暖かい室内に向け氷点下の外気が侵攻を始めた。
「さぶっ!上着上着!」
俺は先ほどの獣人のように素早い動作で扉を閉め、防寒具を取りに行こうとする、が、十分古ぼけた扉はただ先ほどの開閉で完全に壊れてしまったようで、蝶番のネジが外れ、音を立てて扉が外に倒れた。
「……」
外を歩いていた人、獣人、妖精達はみなこっちを見て絶句している。だけどきっと、それ以上に俺は放心していた。
その建物には、鉄と木の板で作られた看板が吊るしてあった。
[マテル修理店・魔道具、修理し〼]
初めての私の小説を読んで頂き、ありがとうございます。
読まずに飛ばした人も、興味を持ってくださり、ありがとうございます。
序章ですが、まだ小説慣れしていないのもありまして分量がかなり少ないです。ご了承ください。
この小説は週1で更新したいと思っておりますが、不定期に近くなりそうです。間が空かないよう尽力させて頂きますので、よろしくお願いします。
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