表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/12

8話

やっとたたかいます。


 蒔いておいた野菜が発芽した、というよりもの凄い勢いで成長している。発芽までの時間は地球のそれと同じくらいだが、そこからの成長スピードが尋常じゃない。発芽から3日で収穫できるサイズまで成長し、さらに翌日には倍くらいの大きさになってしまった。


この世界には植物を異常に成長させるなにかがあるのかもしれない...検証できないのでわからないが。そして肝心の味だが、美味いの一言に尽きる。ホウレンソウも小松菜も春菊も地球で食べたものより味が濃いよう感じれられる。野菜大好きな俺としては有難いかぎりである、これで野菜不足も解決したと考えていいだろう。



 本日より本格的な周辺の探索と狩りを行いたいと思う。気温も一昨日くらいから20℃を超し、陽光も降り注ぎ、風は木々の新緑を揺らしている。2週間程前まで雪が降り、氷点下を遥かに下回る気温だったとは思えない、今日の天気だ。地球、日本の環境を基準に考えない方が賢明だろう。地球とこの世界の違いを考えても仕方ない、ポカポカ陽気で絶好の探索日和ということだけわかっていれば十分だ。


 というわけで、タロウとシッペイを連れて探索にくりだす。今までは洞窟から徒歩2時間圏内で狩りと猟をしていたが、今日は思い切って範囲を倍くらいに拡げてみたい、というのも、現状の探索範囲で俺の脅威となる生物はいない。この世界で初日に出くわした角クマクラスは勘弁だが、まだ見ぬ強敵との死闘に期待したい。


 森の中の道なき道を2頭と一緒に進んで行く。木の根や草のツタ、ぬかるんだ地面など歩き難いことは歩き難いが、じいちゃんの山を駆け回り遊んでいた俺には問題ない、タロウとシッペイにおいては言うまでもない。漫画とかではよく、気配とか敏感に察知し索敵、警戒を行っているが、生憎俺にはできない。一般人より多少、五感が優れている程度だ、なので周囲の警戒は2頭に丸投げしている。現状2回ゴブリンから襲撃されたが、いずれも2頭が教えてくれ、さくっと撃退している。俺は全く気付くことができなかったが...


ちなみに、何度も仕留めているゴブリンだが、一度も食っていない。殺したからには食うをモットーとしている俺だが、人に近い外見をしているこいつら食うことには流石に抵抗を覚えてしまう。また、2頭も食っていないのでひょっとしたら不味かったり、毒を持っているのかもという懸念もある。よっぽどの食糧不足にでもならないかぎり食べることはなさそうだ。


 洞窟を出発して3時間、ようやく求めいていたエモノを発見した。


体高2.5メートル程で、ダチョウのように飛べないのであろう体の大きさに比して小さめな翼、逆に素早く駆け回ることができると容易に予想させる発達した長い脚と鋭い爪、人の頭くらいなら一口で食い千切れそうな嘴、をもつでかい茶色のニワトリ。脚で3メートルくらいの薄緑色の蛇を踏みつけ食事の真っ最中でこちらには気づいていないようだ。


 俺としては正面からの素手によるバカ正直なドツキあいがしたいところだが、野生の動物が付き合ってくれるとも限らず、最悪こちらの姿を見ただけで逃げ出してしまうかもしれないので、先制攻撃として投石をお見舞いすることにした。コントロールに自信がないので2センチくらいの石をいくつか掴んでまとめてぶん投げる。散弾の如き威力をもった石は全弾巨大ニワトリ命中した。しかしダメージを受けたようには見えず、クケーと奇声を発しこちら突撃してくる。


「おもしれー」


 投石をまともに受けても意に介さないタフネス、こちらをエサとしてしか認識していないであろう突進に、俺の闘争本能が刺激される。やはりこの世界は最高だ、存分に全力を振るうことを許してくれるのだから。


「お前らは手をだすな」 


 2頭をその場に残し俺も拳を握りしめて駆け出す。距離は一瞬でつまり、双方の攻撃が届く距離になったとき、


「クケー!」


「!?」


ニワトリの叫びが発せられ、俺の体が硬直してしまう。動かない、瞬きすらできない。首を食い破ろうと迫る嘴を認識できているのに、指一つ動かすことができない。死ぬ...


「あがっ」


しかし狙いがそれたのか嘴は首ではなく、右肩の肉を抉りとっていった。どうやらギリギリのところでタロウがニワトリに体当たりをくらわして、嘴を逸らしてくれたらしい。手を出すな、なんて言っておいて命を救われるとは情けないことだが、今は反省している場合ではない、殺し合いの真っ最中だ。


 体当たりで体制の崩れたニワトリの首に腕を回し、脚も胴体に絡める。これで嘴と爪による攻撃を食らうことはない。そのまま一気に首を締め上げる。奇声を発しながら暴れまわっているが先ほどのように硬直することはない。肩を支点にして脛骨を折るようイメージして力を加えていくと徐々にニワトリの抵抗が弱まっていき、やがてバキっという音ともに完全に脱力した。


 危なかった。時間にして2分程の戦いだったが、タロウの援護がなければ初撃で首を裂かれ死んでいただろう。決して油断していたわけではないが、戦意による高揚からどこか冷静でなかったのかもしれない。角クマが爆発を使ったように、なんらかの特殊な攻撃がある可能性を完全に失念していた。奇声による麻痺がニワトリの特殊攻撃だったのだろう。特殊攻撃については今後も狩りをしてく上で警戒していかねばならない。いい教訓になった。


タロウとシッペイを一撫でして労い、右肩の傷を手当し、ニワトリを解体する。今まで捌いたことのないサイズの鳥だったので若干不安だったが、毛焼きが面倒くさいことを除けば問題なかった。血の匂いに惹かれて他の獣が襲ってくることも警戒していたが、幸い襲撃はなかった。ついで蛇の方も解体しておく。蛇肉は見た目に反し白身魚と鶏肉の中間のような味わいで好物なのだ。皮を剥ぐのが面倒だが、それ以外の処理は簡単というのもポイントが高い。下処理を終えた獲物を持ち、洞窟に帰ることにする。


 あ、ちなみにニワトリからは角クマと同じように、心臓付近から丸い玉(灰色)が回収できた。




 帰りに摘んだ野草を煮込む。緑色のドロドロした青汁もどきが完成した。別に飲もうというわけじゃない、毛皮の鞣しに使うためのものだ。


 鞣し...大昔からある動物の毛皮の加工方法、一番原始的な手段は噛むことらしいがそれはさすがに遠慮することにして、「タンニン鞣し」っていうのを試してみたい。具体的には植物のタンニン(渋み成分)を抽出し、塗布し、毛皮の腐敗、硬直化などを防止する手法だ。はっきり言って、ざっくりとした知識しかないので成功確率は僅かなものだろう、やらないよりマシというレベルだ。しかし愛用していた角クマの毛皮(絨毯)が気温の上昇に伴い悪臭を放ちながら腐敗してしまったのでできることをやろうというわけだ。先ほど狩った、ニワトリ(コカトリス)、大蛇の皮を加工していく、結果は後日わかることだろう・・・成功しますように!


 続いておまちかねのお食事タイム、本日のメニューはコカトリスの串焼き、コカトリスのステーキ、大蛇の味噌鍋、春菊のおひたしの4品。美味そうではあるがそろそろ文明的な食事(油料理とか)をしたい今日このごろである...


 気をとりなおして、まずは串焼きから一口、炭火でしっかりと炙られ肉汁したたるそれを噛み千切ると、皮がパリッと軽快な音を立て、ジュースのように肉汁が口内を充たし、柔らかな、しかし噛みごたえのある肉が触覚を楽しませてくれる。


 美味い!肉には全くクセがないにも関わらず旨みが凝縮されている。多量の脂(肉汁)があるが飲み込んだ口内はさっぱりしており次の一口を無意識に求めてしまう。今まで食った肉で間違いなく最高といえるだろう。


 串焼きを五本平らげ、味噌鍋に手を伸ばす。ぶつ切りにした蛇肉と野菜、キノコ(帰りに採取したシイタケっぽいやつ)が入った一品は、味噌の香りを漂わせ、日本人である俺の食欲を刺激する。


 まずはスープからと一口すすると、うん、単純な味噌汁だ。野菜やキノコの旨みは感じられる、期待した蛇の味が感じられない。不思議に感じ肉を齧ってみると納得した。もの凄く淡泊なのだ。白身魚のような...そうカワハギにそっくりだ。あっさりとした上品な味でこれはこれでありだ。


 そしてメインのステーキかぶりつく。美味い...しかし味は串焼きと一緒なので新鮮味に欠けるし、食感も直火で炙った串焼きと比べれば劣る。食べる順番を間違えた。まあ美味いことに変わりはないのでがつがつと平らげる。


 結局追加で肉を焼き、10キロほど食ってしまった。太りそうで怖い。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ