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7話


夢中で氷を壊していたら、二日で洞窟周辺をきれいにできた。体の方も若干の筋肉痛と、殴った手足が痛むことを除けば問題ない。早速食糧を調達に行こうと思う。タロウとシッペイに声をかけると嬉しそうに吠えて俺の足元にすり寄ってくる。


 とりあえず今日の目標は食べられる植物を確保することだ。野菜不足、言うなればビタミン不足は冗談抜きで生死に直結する。有名なところでは大航海時代の船乗り達をおそれさせた壊血病だ。新鮮な野菜、果物を長期間摂取することができずビタミンCが欠乏することによって発症する壊血病によって、幾人もの命が失われたそうだ。現状梅干しがあるのでなんとか大丈夫だが、早急なビタミンの確保が望まれる。


一応洞窟のまわりに、じいちゃんが持たせてくれた、ホウレンソウ、小松菜、春菊の種を蒔いておいたが発芽するかどうかすら怪しい。食わねば死んでしまうのでとりあえず自分の丈夫さを信じてそれっぽい草が生えていたら食ってみるつもりだ。



 タロウとシッペイに周囲の警戒を任せ、俺は一心不乱に食えそう野草を探す。急激に気温が上がったといっても、地球の常識ではあまり植物が生育するのに適した気温ではない。しかし、日本でも雪解けのころに、フキノトウやセリといった山菜を収穫できる。またじいちゃん曰く、「新芽は基本なんでも食える」とのことである。それに従って目についた新芽やフキノトウっぽい何か(地球のフキノトウの5倍サイズ)を収穫している。灰汁が強そうなので生で厳しいが湯通ししておひたしにでもすればなんとか食えそうだ。


 採取用のリュックがそろそろ一杯になりそうなので帰ろうと、警戒中のタロウとシッペイに声をかけようと見れば、何かを見つけたらしくポイントしている。二頭の視線の先を確認するべく双眼鏡で見てみるといつぞやの緑のちっさいおっさん(ゴブリン)達が鹿を囲んでいる。


 山菜を採りにきたのだが、肉まで獲れるとは、自然の恵みに感謝だ。タロウとシッペイに行けと合図を送ると、2頭は疾風の如き素早さで駆け出して行った。パワーと耐久力こそ人外のそれであると自負している俺であるが、スピードは人の領域なので遅れて追いかける。足場も悪い山道なので俺がたどり着くまでに5分ほどかかってしまい、狩りは終了していた。ゴブリンたちは事切れ、地面に屍をさらしており、鹿もタロウに首を、シッペイに後ろ脚を噛まれ死んでいた。


 優秀すぎる二頭のおかげで俺の出番なし...


 褒めて褒めてと寄ってくる頭を撫でて、早速血抜きを行う。後ろ脚をロープで縛り、木に吊るし、首の動脈を切ると、ドバドバと大量の血が流れ出す。続いて肛門周りを切り取りつつ(腸を傷つけないよう注意しながら)腹を裂き、横隔膜を切り離すとボタボタと内臓がこぼれ落ちる。肝臓と心臓を確保し、後は2頭に与える。肉食動物は草食動物の内臓を食べることでビタミンなどの栄養を補う、彼らにとっては一番のご馳走というわけだ。俺も肝臓をスライスして、塩をふりかけて食べてみる。寄生虫など怖いといえば怖いが折角のビタミンと鉄分だ、ここはいくべきだろう。血抜きをしていないので生臭くはあるが美味い、十分に食べられる味だ。心臓をナイロン袋にいれて鹿を担ぐ。有意義な狩りだった。



 肉ってのは熟成させなければ旨みがでない。


 昨日仕留めた鹿を洞窟近くの沢から引き上げ洞窟の中に吊るす。日本であれば冷蔵庫という文明の利器があったので難なく熟成と保存が行えたがこっちの世界にはそんな素敵なものはない...


 幸い暖かくなってきたとはいえ、気温は氷点下をいったりきたりしているのでなんとかなるだろう。


 なくなって初めて大切さに気づくとはなんとも間抜けな話だが、科学技術ってのは本当に偉大だ。日本ならガスコンロをひねるだけで簡単にお湯が沸かせ、なおかつ強弱の調節まで行えるが、こっちでは薪に火をつけ、時には足し、時には引き、空気を送ったりと相応の労力を使いようやくお湯を沸かすことができる。まだ大量にライターを持ってきたおかげで種火を簡単に起こすことができるので楽をさせてもらっているが、もしなければと思うとゾッとする。


火や食材の保存のための冷蔵庫だけでなく、もっと単純に水の確保も大変だ。蛇口をひねればいつでも清潔な水が飲める日本ってのは本当に天国かもしれない。幸い洞窟の裏を十分ほど歩いたところに湧水地があったのでよかったがそれでも面倒くさい。人間は一日に2リットルの水を必要とするというが、俺は体もでかく代謝がいいため4,5リットルは水を飲む。怪我をしている時は水を得るだけでも苦労したものだ・・・ペットボトルは偉大なり。


 こっちの世界にきて初日に確保した肉も残り100キロくらい、4か月で200キロ近い肉消費するってどんだけと自分にドン引きしてしまったが、特に太ったりしていないのでよしとする。回復にそれだけのエネルギーが必要だったのだろう。


 昨日採った野草は問題なく食べることができた。というよりむしろ美味かった、野草独特の苦みがあるものの、醤油をかけておひたしにしてみたらご飯が欲しくなる出来栄えだった。特にフキノトウっぽいやつは春菊のような味で鍋に入れてもいい味を出してくれそうだった。これで当面の野菜問題は解決できたと思う。一般に食中毒とか食当たりは、摂取後6〜8時間といわれているので問題ないということだろう。


 今日は道具のメンテナスを行う。ナイフや山刀は研ぎ、治療に使った包帯類は熱湯消毒の後洗濯し、破れた服は裁縫しておく。こっちの世界で新たに手に入れることができるとも限らないので長く使えるよう手入れすることは重要だ。最悪、人類とよべるような生物が存在しない可能性さえある...


 いかに俺が強くとも、武器や生活用具がなければ生き抜くのは困難だ。折角、全力が振るえるのだから少しでも生存確率を上げておくべきだろう。

 5時間ほどかけて手入れを行い、飯を食って寝た。



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