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5話

5


 もの凄い飢餓感と寒さで目が覚めた。G-SHOCKで確認するとあれから三日たっていた。そして俺の予想通り雪が降っている。吹雪というほどではないがそれなりに降っていて、既に20センチくらい積もっている。オオカミ達がいない。どこにいるのか気になるところだが、それより腹が減っている。体中怪我と筋肉痛で無茶苦茶痛いがそれ以上に腹が減っている。とりあえず1リットルほどペットボトルから水をラッパ飲みする。渇きは癒えたが腹が減りすぎて落ち着かない。こんなに腹が減ったのは初めてだ。左手でバックから缶詰とクッキーを取り出して食う。


「うめー」


ありきたりの缶詰が、クッキーが無茶苦茶美味い。空腹は最高の調味料とはよく聞くが確かにその通りだ。缶詰を5つ食ったところで少し冷静になる。非常食を食い尽くすのはまずい。確かに今は非常事態だが、他にも食えるものはある。ならそっちを先に食うべきだ。


鍋に五合分の米を入れ、火を起こす。冷静に考えれば、俺の体はボロボロなのだ。一度に味の濃いものを大量に摂取してしまえば、体がびっくりしてしまう。本で読んだうろ覚えの知識だが、飢えた人間が大量の食事をするとショックで死んでしまうこともあるという。冷静になれ俺。BE COOL BE COOL


 50分程で米が炊けた。無洗米は味は確かにおちるが本当に便利だ。多少緩い感じになってしまったがおじやにする予定なので問題なし。水と味噌、塩、醤油にイノシシと角クマの肉を投入しさらに10分程煮込む。最後に生姜を入れて完成だ。めっちゃいい匂い。苦労して作った甲斐がある。早速実食。アツアツのおじやを鍋から直接スプーンでいただく。味噌の香りが口の中一杯に広がる。一口噛めば、いい感じに蕩けた米の甘み、シビエ特有の旨みが一体となり口内を駆け抜ける。これまたシビエ特有の臭みあるにはあるが生姜によってかなり緩和されておりむしろ一種のアクセントなっている。またできたてのアツアツであることと、生姜のおかげで体の中からポカポカしてくる。疲労と寒さで弱った体には最高の一品だ。手が、口が止まらない。イノシシ肉も美味いが、それ以上に角クマの肉が美味い。多少筋ばって固いのだが、噛めば噛むほど味がでる。クマ肉特有の癖もあるのだが噛めば噛むほど、喰えば食うほど力がわいてくる感じがする。


 気づけば全部食ってしまった。体のことを考えて食い過ぎに注意していたのに、あまりの美味さに我を忘れて完食してしまった。やっちまった感が半端ない。しかし後悔はしていない。これで死んだとしても美味いもの食って死んだのだから本望だ。てかこの程度で俺が死ぬわけない。俺の胃袋は宇宙だ。


 火を消して炭を回収しておく。水分さえ飛ばせば再利用可能なのだ。じいちゃん曰く、よい炭とは何度でも使えるものなのだそうだ。鍋を外の雪で簡単に洗った後、怪我の経過を確認しておく。右腕と左腿の傷はさすがにまだくっついてはいないが、化膿もしておらず順調に回復しているようだ。とりあえず包帯を替えておく。肋骨と尺骨も当然折れたままだ。汗をかいているので包帯を替えておく。


 昔、俺が4歳のころ居眠りのトラックに撥ねられたことがあった。時速80キロの大型トラックに撥ねられる幼児。普通なら死んでしまう、運よく生きていても日常生活に支障をきたす怪我負うところだろうが、俺は骨折と内臓にダメージを負ったものの2か月の入院で全快した。両親は泣いて喜んだが、医者はなぜ生きているんだと首をかしげたという。今回はそれ以来の大怪我だが、しっかり栄養と休息さえとれば回復するだろう。


 包帯を替え終わるとオオカミたちが戻ってきた。それぞれ口に角の生えたウサギをくわえている。この雪の中狩りをしてきたようだ。この調子なら食糧は全く心配しなくよさそうだ。最悪加工した肉がくさってもどうにかなる。オオカミ達を撫でているうちに強烈な睡魔が襲ってきたので逆らわず寝ることにする。



 こっちの世界に来てから90日(地球時間で)経った。怪我もようやく全快した。体に違和感がないので裂傷も骨折もきれいにくっついてくれたのだろう。自分の体力、回復力に感謝である。


 オオカミ達との関係も良好だ。オスの方をタロウ、メスの方をシッペイと名付けた。名前の由来は昔話の化物退治に登場名犬するである。2頭ともこの三か月で成長し20センチばかり大きくなった。しかしまだまだ甘えたい盛りなのだろうかなり積極的にスキンシップをとってくる。俺じゃなかったら普通に死んでる。


 しかし困ったこともある。米がなくなってしまった。肉はタロウとシッペイが狩ってきてくれるので問題ないが主食がなくなったのは痛い。俺はお米好きなのだ。回復のためかとにかく腹が減ってバクバク食っていたら気づいたらなくなっていた。こっちの世界に米があるかどうかわからないのでかなりショックである。


 困ったことの二つ目として、雪が止まないことがあげられる。2メートル近く降っているし、気温もマイナス20℃だ。持ってきていた防寒具だけでは凌ぎきれなかっただろう。角クマの毛皮とタロウ達のぬくもりがなければ間違いなく死んでいた。そろそろ雪もやんでくれてもいいだろうに。

 そして最も俺を悩ましているのが、トイレットペーパーがなくなってしまったことだ。もともとキレがいいのであまり紙を使わなくてもよかったのだが、手に入るあてもないので常にギリギリの戦いを繰り広げていたのだが、遂に先ほどの戦いにおいて使い切ってしまった。これからどうやってケツを拭こう...


 まあ悩んでもどうにもならないことは考えないようにしよう。前向きに今できることをするだけである。具体的にはストレッチと体幹トレーニングだ。流石に3か月近くの療養生活で俺の体は萎え、固くなってしまった。筋力を戻すためにトレーニングをするにしても間接や筋が固いと怪我をしやすくなってしまう。一流の競技者こそ柔軟と基礎トレーニングを徹底するというから俺もそれにあやかろう。もともとかなり柔らかい方だし、体を動かすのも好きだし、ストレッチと腹筋、背筋、腕立て、スクワットに励もう。


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