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黄泉霊録  作者: ツアンサ
黄泉夜家
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黄泉夜家

冥土の屋敷の寝室。

其処には、くっ付け合う様に敷かれた蒲団の上で、銀髪の霊夜を挟む様に穏やかに寝息を立てる霊夜、凍霊、輪廻の姿があった。


「穏やかに寝れる事を祈るよ。お休み、凍霊、輪廻、霊夜」


霊矢は三人を起こさない様に静かに静かに、襖を閉めるのだった。


今だけは、幼き彼らに安息の時間を……。


「……霊矢。その霊夜達は……」


リビングに戻って来るなり、戦に霊夜達の事を訪ねられた。其も当然であろう。

霊夜が悲痛に叫び続けていた言葉。「皆を返せよーっ!!」黄泉夜霊夜は、黄泉夜家は皆殺しにされ、唯一生き延びれた霊夜は、たった独り。たった独りだけにされてしまったのだ。


元々は、黄泉夜家に仕えていた本名、黄泉夜戦が、冥土家に仕える形で、今では過去とは云え、霊夜を除き唯一の黄泉夜家の生き残りとして生きている戦にとっては不安で仕方なかったのだろう。


その表情に浮かぶ不安からも容易に伺える。


「……安心しろ戦。霊夜は凍霊と輪廻が、霊夜の手を繋ぐ形で穏やかに寝息を立ててるよ」


見るかい?と言って映像撮影機。所謂、カメラを独自に改造した物を弄り目の前のスクリーンに写し出す。

「……ふふっ霊夜と寝れて輪廻も嬉しいでしょうね」「家の凍霊も、霊夜君と寝れて、況してや手を握って寝てるんですから嬉しいでしょうな」


修羅と霊矢が、微笑ましく眠る霊夜達を見る中、戦は何も言わず只見詰めていた。


「……霊夜様、輪廻様」


靄が掛かったかの様に、霊夜と過ごした日々は思い出せないが、穏やかに寝息を立てる霊夜と輪廻の姿に、戦は不思議と心を救われた気がした。


「……所で霊矢。お前が、わざわざ戦を安心させる為に我等をリビングに呼び集めた訳じゃないだろ」


霊夜達の穏やかに眠る姿に、微笑ましい雰囲気が広がる中、畜生の一声によって、微笑ましい雰囲気は一瞬で飛散した。


「……もう少し、霊夜君達の微笑ましい寝顔を見ていたいとは思わないのかい?今だって、凍霊が霊夜の手を握るから腕を抱き締めるに変わってるんだよ」

「早く話せ、霊夜の写真上映会は終了だ」


霊夜の腕を抱き締め幸せそうに眠る凍霊の姿を語る霊矢だが、畜生の有無を言わさぬカメラの電源を切ると言う行動に、流石に霊矢も諦めが付いたのか、やれやれと言いながら改めてリビングを見回し言った。


「確かに、私が皆を呼んだのは戦を安心させる為だけではない」


そう真剣な表情で言い出した霊矢に、集められた面々も真剣な表情になる。そして続けて言われた言葉に驚愕した。


「戦の為だけではない。皆を冷静にさせる為にあの霊夜君達の上映会を行ったんだ」


「っ!!」


面々は霊矢の有無を言わさぬ力を持って言われた言葉に息を飲んだ。図星だった。


「修羅と畜生は輪廻様に支えし者。私自身も、凍霊の親と言う形では有るが、凍霊に支えし者。そして、戦は元は、霊夜様に今は輪廻様に支えし者。皆、主の怒りに悲しみを感じて、直ぐにでも元凶を討ってやると考えたんじゃないか?」


力強く問い掛けてくる霊矢。言葉は問い掛けの形をしてる物の、その確信した表情は、自分も含め、そう考えたに違いないと表れていた。


長い長い沈黙。広い筈のリビングが狭く感じる程の圧迫感にして重苦しい雰囲気が漂う。


「……あぁ、そうさ」


最初に口を開いたのは誰だったか。


「霊矢のおっさんの言う通りさ!!……その通りさ。霊夜の、あんな痛々しい姿を見させられて怒らない訳ねぇだろ!!」


そう怒鳴ったのは最初に、上映会を終了させた畜生だった。


「あの霊夜が知らない者に拉致されて、此処の屋敷に来るまでに見せた表情を思うと、許せねぇんだよ!霊夜を傷つけた人間共がな!!」

「……っ!!」


その畜生の怒りの叫びに、同じ様に思い浮かべたのは修羅だった。


あの時の霊夜は確かに、笑顔だった。


「じゃあ、冥土の屋敷に向かうとするか」


「今、救急車に運ばれると面倒だな。宜しく頼むぜ」

悪戯好きな霊夜らしい笑みを浮かばせ、此処、冥土の屋敷に駆け出して行った霊夜。


「俺が防ごうとしていたのに俺が黄泉夜家が守ろうとしていたのに人間が裏切りやがったんだ!!」


「何でだよ!!なぁ、何で守ろうとしていた人間に皆は殺され、俺も殺されかけなきゃいけないんだよ!!皆を返せよーっ!!」


報告し始めた時の霊夜の、あの余りにも痛々しい姿。

悲しみに泣き喪った事に泣き裏切られ傷付けられた事に泣き悲痛に叫び続けた霊夜の姿を見て、怒りが一気に膨れ上がったんだ。


その言葉に誰も否は唱えなかった。皆、同じ同じ様に、再び怒りが燃え上がり始めていたからだ。


「だが、今、闇雲に霊夜の怒りを晴らす為に向かう訳にはいかん」


だが、怒りの炎は燃え上がり始めるも、彼等は冷静だった。


「もう霊夜を一人に何か絶対にしない。霊夜の前で死んだりしないから!!」


今、闇雲に霊夜の怒りを晴らしに向かって、晴らせたとしても其は、間違いなくこの面々の誰かが命を散らせるだろう。最悪、全員纏めて殺されるかも知れない。


もしその事を霊夜が知れば、自分が、あんな事を叫んだ所為で死んだと、その傷だらけの心を更に責めたに違いないだろう。深い傷は致命傷に変わり、霊夜は耐えられなくなってしまう。そして霊夜は自ら命を絶つだろう。


当然、霊夜を喪えば、霊夜を一人にさせない為に輪廻と凍霊も自ら後を追う様に命を散らせるだろう。


三人の選ばれし霊魂が死に、黄泉から人界に進行した奴が人界を滅ぼすだろう。

「そんな最悪な結果になる訳にはいかないのだ!!」


そう強く自らにも言い聞かせる様に霊矢は言った後に、再びカメラの電源を入れた。但し写し出されたのは、微笑ましく寝息を立てる霊夜達の映像ではなく、報告していた時の部屋に入っていた一匹の蝿だった。


「この蝿が、侵入していた事に霊夜達は知らなかった様だが、この蝿は恐らく……」


其処まで言い黙り込む霊矢。


そして、間を少し置いて、霊矢は口にした。


「あの蝿は間違いない。黄泉から人界に進行した。奴の使い魔だ!!」


敵は徐々に、ゆっくりと、でも確実に確かに動き出し始めていた……

霊夜「スースー」


輪廻「霊夜、スースー」


凍霊「霊夜様……スースー」


修羅「霊夜達は寝ちゃってるな」


畜生「霊夜は一番辛かったんだろうな」


戦「守ろうとしていた人間に裏切られたんですからね」


修羅「だが私達は、霊夜を霊夜達を裏切りはしない」

戦「次回も宜しく頼む……」


舞台裏でした。



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