残虐なる悪意を刈り尽くせ!!
「嫌、嫌、来ないで来ないでよ!!」
棚は倒れ食器は割れ床に無惨な状態で散乱し硝子の破片が逃げ場を奪う。
部屋の壁に追い込まれる形で、ガクガクと青ざめ身体を震わす少年。
「…………………」
そんな少年をニィーと場違いな程の笑みで見つめる男の姿。
男の身に付けた衣服には、赤黒い液体……反り血がベッタリと付着している。
そう少年の前に立つ男は、連続殺人犯として指名手配されし男なのだ。
「お前も弱い……つまらない」
ボソボソと、少年を見ながらつまらないと繰り返し呟き少年に向かい駆け出す男。
「がっ……」
当然、少年は逃げようとするが少年より早く、男が少年の首をグルグルとロープで絞め上げた。
「死んでしまえ」
冷たく呟き首を絞めるロープに、ギリギリッと力を強め更に気道を圧迫する。
「がはっ…息が息が出来ない……」
必死に首を絞めるロープを外そうとしていた少年だが、男の力の強さにびくともせず遂に目を見開くとガクリと床に倒れた。
「……死んだな」
男はつまらなそうに呟き少年が生きていない事を確認すると近くの硝子で、少年の首をザシュと切り裂き噴き出す血でメッセージを残し去って行った。
比良坂町での連続殺人。十件目の犠牲者だった。
「死亡したのは、破魔夜昌浩君十七歳。首を絞められた事による窒息死。死亡後に首を切られた模様。
血の付着した硝子が落ちてる所から首を切ったのは、落ちてた硝子と見て間違いないでしょうね」
比良坂第二警察署で、佐鳥は報告を聞いていた。
「報告は以上です、佐鳥警部」
そう言って退室していく部下を見ながら、佐鳥は思案する顔を浮かばせる。
「しかし、気になるな。あの恐らく黒が残したであろうメッセージ」
佐鳥が気になって仕方ないのは、連続殺人犯が誰かに向けて残したメッセージだ。
【我は黄色き泉からの者。千五百の死体を、犠牲者を出したくなくば柱の我と殺り合おう】
「千五百の死体だ何て不吉ですよね。黄色い泉からの者。ってのも意味が不明ですよね佐鳥警部」
不吉な、そのメッセージが現す意味が分からずにいたのだ。
警部補である山口の意味がわからんーと言う言葉を聞きつつ佐鳥は考える。
警部として此れ以上、町民の生活を恐怖に陥れる連続殺人犯を絶対に野放しにしてはならない。
絶対に逮捕しなくてはならないと警察と言う者のプライドが燃えているのだ。
千五百人の犠牲者と言うのは恐らくは、千五百人を殺してやる。と捉えて良いだろう。
しかし、黄色い泉とは何だ?
黄色き泉等、聞いた事がない。黄色の泉……黄泉っ!!
そう推理すると佐鳥の頭に、同時にある記憶が蘇ってきた。
「警部さん、警部さん、助けて助けてぁぁぁぁぁ!!」
目の前で身体に寄生していた蝿によって、無惨な肉片に変わり果てた女性。
死の大軍と化した蝿から必死に逃げる中、次々と死んでいった同僚や上司。
比良坂署は無くなり一緒に捜査してた藻部捜査官も自宅で首吊り自殺した。
自分も出口を塞がれ絶対絶命の状況に追い込まれたが、霊矢警視総監に助けられ九死に一生を得たのは極最近の事だ。
あの時は霊矢警視総監に助けられたが、今回も助けて貰えるとは限らない。
「佐鳥警部!!メッセージの意味が分かりましたよ」
そう自信満々な表情で、意味が分かったと言ってくる山口。
「本当か!山口警部補」
其に驚きの声を上げ、山口をじっと見るは田中巡査部長。
「良し聞かせてくれ、山口の推理を」
そう言う佐鳥は、自身の推理が違ってあって欲しいと何処か願っていた。
「先ずは、黄色き泉。此れは黄泉を示してます。次に千五百人の犠牲者。此れはイザナミが、黄泉から人界に行くのを防がれた時に言った言葉を指しているのでしょう。そして最後の柱、此れはイザナミと共にいた八柱を示すんですよ!!」
此れが私の推理です。どうですか、佐鳥警部。
自身の推理に完璧だとうんうん一人頷く山口に、田中は呆れの視線を向ける。
「山口〜それじゃあ連続殺人犯は黄泉の住人。つまり死者だと言いたいのかよ」
田中の反応は、正しいと言えよう。死者が人間を殺して回る等、余りに現実離れしている。佐鳥も何も知らなかったなら同じ反応を示すだろう。
「そうすっよ!!犯人はイザナミと共にいた八柱の死者の一人に違いないんすよ!!」
自分の推理に余程自信が有るのか、犯人は死者だと譲らない山口。
しかし佐鳥は知っている。比良坂署の唯一の生き残りとしてイザナミは人界に来ているのだと。其を黄泉夜霊夜達、死神が倒すべく戦っているのだと。
「……私は山口の推理を信じよう」
佐鳥が遂に口を開いた。其は山口の推理を認めた瞬間であり、
犯人は恐らく彼ら、黄泉夜霊夜達を呼び出そうとしてるに違いない。
即ち、イザナミが関わってる事件だと認めた瞬間だった。
「何を言ってんすか!!佐鳥警部まで犯人が死者で、イザナミ八柱だ。ふざけないでください!!」
何が黄泉のイザナミ八柱だ。そんなのが犯人な訳がない。
其を認める佐鳥警部もどうかしてる!!
田中には到底信じられず、二人がふざけている様にしか思えなかった。
「良いです、もう一人で捜査してきます!!」
バンッ!!
田中の心情を現す様に乱暴に閉められた扉。
そして部屋内には佐鳥と山口しか残っていなかった。
「……山口、お前には言う。この事件は俺達は深入りしない方が良い」
神妙な顔で、深入りしない方が言う佐鳥。其は比良坂署の時と同じ様に犠牲者を出したくない。と言う強い思いからの声だった。
「……佐鳥警部?」
神妙な顔で言ってきた佐鳥に突然の深入りしない方が良い発言に、疑問符を浮かばせてしまう。
(一体どうしたんすか、まるで何かを喪う事を恐れてる様に見える)
山口の読みは当たっていた。しかし山口も田中も比良坂署の惨劇の真実を知らない。
だから、そこまで喪う事を恐れてる佐鳥を不思議に思うのは仕方ない事だった。
「……山口、俺はもう目の前で大勢の人間が無惨な肉片にされるのを見たくないんだ」
「なっ……肉片っ!?」
何かを耐える様に絞り出すように佐鳥が言った言葉に、山口は驚愕を隠せなかった。
「全く、山口も佐鳥警部まで二人してふざけている!!」
そう憤りながら歩く田中の目に、ある人物が映り込んだ。
「(連続殺人犯!!)」
喪う悲劇が再び訪れようとしていた。
霊夜「…………」
輪廻「随分今回も遅れたわね」
凍霊「どうやら最近始めたゲームに気が向いていて我々を忘れていたらしい…」
霊夜「……………」




