「死に際のクレープ」
感想の中で、「以前のプロローグもいい」という声があったので、組み合わせました。
サブタイトルは同じで、内容はまた違ってます。
紛らわしいかもしれませんが、すみません。
以前のは、保存をして削除しました。
肌寒くなり葉が紅葉してきた秋の季節
部活も終わった夕方
そんな時間に、とある女子生徒が疲れたようにため息をつきながら、とある学校の校門から出てきた。
「ハァー……精神的に疲れたー……先生ホント毎日毎日しつこいなぁー」
「うわ……まだ7時前なのにもう暗くなってきてるよ。部活とかとっくに終わってるみたいだし……何でこんなに拘束されないといけないのよ。私が」
女子生徒の名前は、麻木香奈
この学校に通う受験真っ盛りの高3である。
そして彼女は、とある理由でここ最近職員室にちょくちょく呼ばれているのだ。
「やっぱ、二日連続で呼び出し無視したせいなのかな~?今日はやけに先生の準備や熱意がすごかったし……」
彼女が、最近職員室に呼び出される理由は、彼女の進路変更が原因だった。
彼女は、文化祭が終わり、部活を熱心にしていた3年生も本格的な受験勉強に入る中、突然担任の先生に国内有数でも難関大学から就職へと進路変更をすると伝えたのだ。
彼女の突然の進路変更に先生たちは慌てた。
別に彼女が難関大学に合格できるほどの実力がないわけではない。むしろ今までの模擬テストで志望大学はA判定をずっとキープしていた。
そして、彼女はこの大学を高1の終わりからずっと志望していた。
初め先生たちは彼女の奇行を受験のストレスだと思い。
考え直すように説得し、カウンセリングの人を呼んだりと色々と手を尽くしたが、彼女の決意は変わらなかった。
「別に大学行かなくてもいいじゃん、志望理由だって、お爺ちゃんを心配させない為だったし、奨学金まで貰ってでも大学行く気にはなれないんだよなぁ~」
実は、彼女夏休みの終わり頃に唯一の家族だった祖父を亡くしていたのだ。
彼女の両親は、彼女に物心がついて間もない頃に事故で亡くなっていた。
母方の祖父母は、既に亡くなっており、父方の祖父が育て親となり、彼女を厳しくも大切に育てた。
そんな祖父を彼女は心配させないために大学を志望していたのだ。
しかし、祖父は夏休み前に眠るように安らかに亡くなった。
彼女には両親と祖父の遺産が残ったが、大学に行くにしても不安が残るぐらいのお金しかない。
そして、彼女は決めた。奨学金を貰いながら大学に通うより、高卒で働くことにしたのだ。
だから彼女は、決意した次の日つまり、文化祭が終わってから数日後に先生にその旨を簡潔に伝えたのである。
「まっ、あと2、3か月もすれば先生も諦めると思うし。それに就職の内定を貰えれば、先生も納得してくれると思うし、就職活動頑張ろう!!」
彼女は、両手で自分の頬をペチペチと叩いて気持ちを切り替える。
「よーしっ!クレープ屋さんはまだ空いてると思うし、イチゴクレープ食べに行こー!!」
そう言い、彼女は駆け足で走っていった。
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「おばちゃーん!まだイチゴクレープってある~?」
彼女は商店街まで来ると、クレープ屋にいる年配の女性に声をかけた。
「香奈ちゃんお帰りー。イチゴクレープならまだあるよ。」
女性は、彼女が小さい頃からの知り合いで、小さい頃に祖父に連れられて食べてた時からここのイチゴクレープが大好物で、高校生になった今もほとんど毎日食べに来るのだ。
女性は、彼女が来たことを確認すると、早速イチゴのクレープを作り始める。
「うわぁ~♪いい匂いがしてきたぁ~♪」
クレープを焼く時の甘い匂いが漂ってくる
彼女は、カウンターの前にへばりついて深呼吸をして顔を綻ばせる。
しばらく待つと出来立てのイチゴクレープを持って女性がカウンターに来た。
「はい。できたよ。286円だよ。」
女性は、彼女にクレープを渡すと、レジに金額を打ちこむ。
「はい。286円!ありがとう。おばちゃん!じゃあねぇ~」
彼女は、出来立てのまだ温かいクレープを片手で持つと、もう片方で女性にぴったりの金額を渡し、店を出た。店を出る時に彼女は後ろを振り返ると女性に向かって大きく手を振って帰っていった。
女性も彼女に手を軽く振りかえした後呟いた。
「香奈ちゃんは、お爺ちゃんがいなくなっても明るいねぇ~」
女性は、歩きながらおいしそうにクレープをパクついてる彼女を見て悲しそうに微笑んだ後、また店の奥へと潜っていった。
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「ん~~♪やっぱりおいしい~♪」
彼女は、両手で持ったクレープを大事そうに持って少しずつ味わうように食べいた。
「あ、青だ。渡らなきゃ」
そう言って、彼女が駆け足で横断歩道を渡ったのは、交差点で帰宅する車が多く通る場所だった。
キィィイイイ!!
甲高いブレーキ音と地面を滑るタイヤの音が、下校する制服姿の生徒達が目立ってくる夕方の街に響き渡る。
そして、その音は彼女のすぐ近くで聞こえてきた。
「え」
黒色のワゴン車から発せられる音だった。
そのワゴン車は、赤信号なはずなのに、彼女のいる横断歩道へと突っ込んできていた。
ワゴン車の進路上の真正面に驚きで固まった彼女がいた。
ワゴン車を運転しているスーツ姿の男性は、言葉にならない声を上げながら必死の形相で車を逸らそうとするが、車を止めるにしても逸らすにしても彼女との距離はあまりにも近すぎた。
バンッ!
鈍い音共に彼女はワゴン車に跳ねられカバンやクレープと一緒に宙を舞う。
ワゴン車は彼女をはねた後、横にそれてガードレールに激突する。
通行人のどこからか甲高い悲鳴が聞こえる。
「かはっ………」
宙を舞った彼女は、地面へと叩きつけられ胸から空気を吐き出す。
彼女の左腕は、あらぬ方向をむいて、素肌が見えていた太ももや腕は、コンクリートを滑った影響で赤く擦れている。
「うっ………」
彼女は、うめき声をあげて僅かに体を動かすが、うっすらと開けた目は焦点が定まっておらずぶれている。
彼女が倒れている地面は頭から流れ出る赤黒い血でジワッと赤く染めていく。
誰かが「救急車!救急車を呼べ!」という声が聞こえてくる。
幸いなことに、彼女が轢かれた場所は、大きな総合病院からそう遠くはなく
すぐに救急車が駆けつけ、治療を受け、彼女は一命は取り留めた
――筈だった。
しかし、彼女の悲劇はこれで終わらなかった。
なんと彼女が倒れている方へとトラックが右折してきたのだ。
トラックを運転している若い金髪の男性は、携帯を片手に運転をしており、携帯の電話に夢中らしく周囲の確認が散漫しており、右折した進路上にいる彼女に全く気付いていなかった。
予想外のトラックの行動に見ていた通行人は唖然とし、先ほどよりも多い数の悲鳴等があちこちから聞こえてくる。
彼女は、視界の右端から徐々に迫ってくる黒い何かを捉えながらも、朦朧とした意識でそれを危機として認識をすることができず、彼女はただ自分の倒れた先にある食べかけの中身がコンクリートの地面に飛び散ってしまったイチゴクレープの残骸だけを見ていた。
彼女は、僅かに動く右腕を動かしクレープの方へ手を伸ばそうとする。
彼女の意識が永遠の闇に包まれる直前
彼女は、口から血を吐き出しながら、小さく口を動かし呟いた。
「わ、たしの、クレー、プ」
感想よろしくお願いします。




