17話 「ユリエは足手まとい」
――キイィ……
静かにドアが開く
開けられたドアから以前より体が大きくなってるユーグが中から出てくる
少し細くなった顔立ちのぷにぷにとした白い柔肌、クリクリとした黒い瞳に首筋にまで白銀の光に当たるとキラキラと光るサラサラの髪、その姿はとても可愛らしく、いつも双子のユリエと一緒に姉のエリナ筆頭に女性陣に可愛がられている
出てきたユーグは、キョロキョロと廊下を見てから部屋の中の方を見て、途端に呆れた表情をした。
「ゆるゅえ、にゃにやっちぇんだ?」(ユリエ、何やってんだ?)
まだ舌足らずだが部屋の方へと声をかける。
「うりゅちゃいなー……ちょっとおちゅただけよ」(うるさいなー……ちょと落ちただけよ。)
そう言ってユリエが頭をさすりながら目に涙を溜めながら部屋から出てきた。
「なきゅなよ?」(泣くなよ?)
「なきゃないよ!」(泣かないよ!)
心配と呆れが入れ混じった表情でユーグはユリエを見る。
(人を踏み台にしてドアを開いた拍子に後ろに転げ落ちるとはな……)
因みに、精霊に頼まないのは単純に人に浮いている所などを見られたくないからだ。
『今廊下に誰もいないみたいだから早く行こうぜ。仕事中のフェルミ達に見つかると連れ戻されるぞ。』
念話を使ってユリエに伝える。頭に直接届けるので噛むこともないし、距離も関係がなく、声が周りに漏れることはないので非常に使える。
この1年ほどでユーグは念話のON/OFFができるようになったが、ユリエはちょくちょく思考を垂れ流しになる時がある。
『はーい。……やっぱこっちの方がいいなー。ユーグ声も可愛いし聞いててもいいけど、噛みまくるから聞き取りづらいんだよね。』
つまりこういうことだ
ユーグはジロリとにらむ。少し顔が赤くなっている。
ユリエは目が少し赤くなっているがキョトンとした表情でユーグを見つめ返す
これで言っているつもりが無いのだから直しようが無い
ユーグは一つ大きなため息をついて危うげに足だけで歩いて廊下を歩く。
『あっ。待ってよ―。』
ユリエは先に進むユーグに壁に手を付けながらよたよたとユーグの後を追っていった
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暫く進むと装飾されたドアを見つけた。
『ここって何の部屋だ?』
『さぁ?………あっでもどこかで見たような気も……』
『……結局どうなんだよ』
『もう開けちゃえ!ユーグ四つん這いになって』
『はいはい。わかったよ』
ドアノブの真下に踏み台として四つん這いになるユーグ。
その上にフラフラしながら背中に片足を乗っけて両手でよじ登る。
そして、ユリエがユーグの頭の上に立つ。
が、フラフラしていて非常に危なげだ。
『………おいこら。頭を踏むな。せめて背中におけ』
『いやだって、ユーグの背中不安定だもん』
『お前は水平の床に立ってもフラフラだろうが。やっぱお前が下になれよ』
『やだ。無理。重い』
『重くねぇよ!お前と一緒ぐらいだよ!』
『失礼ね私は重くないよ!』
『そうじゃねぇよ!!……もう分かったから早くドア開けろ』
ユリエの相手が疲れたのかユーグの声から疲労感がひしひしと伝わってくる。
『それじゃ。あっけまーす!――ってあれれ?ふぎゃ!キャアア!』
――ガチャ。
――ズル(ドアが前へと開くのでドアノブを回して押したユリエがそのまま前と落ちていく音)
――ゴン!(重い頭が重力に従って床へと落ちた時の音)
――ゴロゴロ……(頭を床にぶつけた勢いで床を2,3回転する音)
――ガタンッ!(部屋にいた赤髪の男性が座っていた椅子を倒した音)
――バサバサバサ(机の一角にあった書類の束が男性が立ち上がった衝撃で床に落ちる音)
――『あちゃあー……』(部屋の外で立ち上がったユーグがだした呆れた声)
「いちゃい!!」(痛い~~ッ!!)
またもユーグから転げ落ちたユリエはとうとうポロポロと目元から涙を流す。
「ユリエ!だ、大丈夫か!?セバス早急に治癒魔法だ!!」
「かしこまりました。」
部屋の隅にいたセバスがいつの間にか頭を押さえて床をゴロゴロとしているユリエの目の前に出てくる。
セバスの手が淡く光り、ユリエの頭が白く光る
「ありぇ?いたくない?」
床から起き上がって不思議そうな表情で首を傾げるユリエ
心底ほっとした表情のオルグ
『ユリエ置いて一人で次行くか』
そして、その横で静かにユーグの逃走劇が……
――そ~~……(廊下を静かに移動しようとするユーグ)
――ガシ!(逃げ出そうとするユーグの手を掴むセバス)
……始まらなかった。
「げっ!」
「どこに行かれるのですか?ユーグ様」
「はなちぇ~~~!!」
「離しませんよ」
ニッコリとほほ笑むセバスの手を外そうとユーグがジタバタするがびくともしない
「ちぇー……」
諦めて項垂れるユーグ
――1年たってもまともに家の探検ができない双子だった。
まだ続きますよ。




