14話 「オルグ強し!」
丘の周りを囲うように集まっている領民やこの日のために来た行商人、吟遊詩人達は、周りと話しながら時が来るのを待っていた。
そして、太陽が真上に来たころ王都へと続く細い街道の上空に動く黒い点が見えてきた。
その黒い点が徐々に大きくなると領民たちから歓声が起きる。
その黒い点が視認できるようになると、そこには通常の飛竜の3倍以上の大きいさの鮮やかな赤色の龍
それも、この国を治める一体だった。
その龍は、丘の上空に着くや否や丘に向かって特大のブレスを浴びせた。
観客に焼き尽くさんとする紅蓮の炎が迫る。
この時点で気の弱い商人や吟遊詩人たちは気絶するし、恐怖でへたり込んだり、錯乱するものがいる。
変わって領民たちのほうは、幼い子供などが恐怖で気絶をしたり、泣き出す子もいたが、大人で取り乱すものは少なく、むしろ楽しそうだ。
紅蓮の炎は丘の頂上を飲み込み観客へと迫る―――が、丘の中腹あたりで不可視の何かにぶつかり、炎が轟音を上げながら上下左右に広がり四散していく。
その不可視の壁の近くには、何人かの人がいる。
双子を含むアルトリュ―チェ家の人たちだ。
不可視の壁は、現領主の妻のマリヤとその家臣の一人クレンドが創り出した丘を取り囲む魔法障壁だった。
龍種のブレスをも防ぐ力量に観客から歓声が上がる。
魔法障壁に防がれた紅蓮の炎は、丘の頂上で未だ暴れ続けていた。
丘の頂上には、ここの領主のオルグがいた筈だ。
一部の人たちは不安そうに頂上を見る。
突然、丘の頂上を蹂躙していた炎が消し飛んだ。
頂上には、大剣を振り下ろしたオルグの姿があった。
再び観客から歓声が上がる。
オルグの服は焼失したのか、上半身は裸だった。
オルグの肉体は、引き締まり無駄な肉が無いとばかりに凝縮された
見事というばかりの鋼の肉体だった。
それはもう、ネマが鼻血を噴出しながら倒れたほどだ。
慌てて、ナックスが後ろに倒れるネマを抱きかかえる。
何気に両手に花の状態だ。治癒魔法をかけつつ、気絶しているメイド二人を敷物の上にそっと寝かしている。
炎を浴びていたオルグだったが、上の服が焼失した以外は火傷ひとつも見当たらない
龍が今度は凝縮した炎の塊を吐き出すが、オルグが意図も簡単に切り裂き剣圧でかき消す。
観客の一部からどよめきが起きる。
ユーグやユリエの念話も盛んに行われる。
2、3度炎の塊を撃ち出すが全て剣で防がれた龍は、丘へと降り立った。
着陸する寸前に尻尾でオルグを牽制するもオルグは難なく避ける。
そして、龍が地面に足をつけた。
『GUGYAAAAAAAAAA!!』
龍が吼えた。
その声は、物理的にオルグを吹き飛ばす。
龍から発生した衝撃波に離れていた観客たちにも届く
多数の悲鳴が聞こえる。
吹き飛ばされたオルグは空中で態勢を整えて無事に着地している。
龍がいる地面はオルグのいる方向に放射線状に抉れている。
龍の尻尾が風を切りながらオルグの側面からくる。
オルグはそれを大剣で掻き揚げることで、防ぐ
大剣と尻尾の間で火花と耳障りな金属音が鳴り響く。
尻尾で攻撃、躱す、前腕で攻撃、防ぐ、ブレスの上に噛みつき、横っ飛びで避ける、大剣で龍の脇腹狙って切りつける、前腕で防ぐ、飛び上がり上空から大剣を振り下ろす、僅かに切り裂かれる、お返しとばかりに噛みつき、鋭い歯が右腕をかする、脇腹へと特攻、前腕で薙ぎ払われる、態勢整えて追撃をかわしながら前腕の鱗を弾き飛ばす、龍が雄たけびを上げる、衝撃波で吹き飛ばされる、空中で態勢を整えさらに高くジャンプする、龍が空中に炎の塊を吐き出す、大剣で炎を掻き消し斬撃を飛ばす、龍の顔の鱗が何枚かが弾き飛び血が流れる、龍が尻尾で空中にいたオルグを吹き飛ばす、何メートルも水平に吹っ飛び地面に激突する、比喩や誇張でもなく地面に蜘蛛の巣状にひびが入りオルグが落ちた場所は土煙に覆われる、土煙を吹き飛ばしオルグが頭から血を流しながらクレーターから飛び出す、オルグが笑う、龍もそれに応じるように好戦的な声を上げ口の一部を釣り上げる、そして再び両者はぶつかる。
……………あたりは固唾をのむように見守る。周囲はしんと静まり、風の音と剣と硬い何かがぶつかり合う音が響き渡る……
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
そして、戦いから始まってから30分ほど経っただろうか
両者共に傷だらけになり龍の眉間にオルグの剣が半ば鱗に刺さった状態で、オルグの首筋に龍の爪が当たってる状態で決着が着いた。
――『両者、引き分け!!』
いつの間にか2人?の近くにいたセバスが判決を下す。
観客から歓声が沸く
マリヤがオルグに駆け寄り治癒魔法をかける。
龍はいつの間にか縮み、鮮やかな赤色の髪と赤い瞳の男性が立っていた。服は、赤と白の浴衣のような服を着ていた。
2人は、いくらか会話をし、固い握手を結んだ。
観客から割れんばかりの拍手が起こる。
―――その光景をユーグとユリエは、2人のメイドが倒れている横で呆然としていた。
『………えっ?どういうことユーグ?』
『………俺にもわからん』
次は、ユーグかユリエ視点で行きます。
指摘、感想待ってます。




