11話 「現在浮遊中」
――キィィ……
静かにドアが開く
ドアからキョロキョロと出てきたのは、白銀のサラサラの髪に黒目のクリクリの瞳が可愛らしい全体がぷにぷ二としているユリエ……ではなくユーグ
その周りでは色とりどりの光の玉がフワフワと浮いている。その中でも、一際緑色の玉が光っている。
その光が徐々に弱まるとユーグは次第に地面に落ちて行った。
そう、ユーグは浮いていた
………見間違いではない確かに浮いていた。1メートルほど浮いていた。丁度ドアノブの高さと同じだった。
(ふっふっふ、3日間特訓した甲斐があった。これで扉を開けるのも楽チンになった。………ちょっと持続時間が短いが使いどころだが。)
ユーグの額が所々赤くなっているのは、練習中に何度か頭から墜落したためだ。
ちなみにこれは、緑の精霊に頼んで風を起こして浮いていて、緑の精霊の光が弱まると風が途切れて墜落するのだ。
降ろしてもらう時に少しずつ弱めてもらうのがコツだ。
(ユリエは寝てたし、俺はさっさとドラゴンに会いに行くか!)
ユーグは若干興奮気味にハイハイと外につながる扉へと向かう。
事前に外に出て、ドラゴンがいる場所までのルートは把握済みだ。
(待ってろ。ドラゴン!)
ユーグにとっての全速力で扉に向かっていた。
――もし、その時のユーグを見ている人がいれば、真剣な顔でペタペタと前へと突き進んでいく姿に愛らしさを感じただろう。
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とりあえず、ユーグがドラゴンに会った時の話をしたいと思う。
それは、二人の母親であるマリやが倒れ、魔力が暴走した2日後に
丁度エリナに薬を飲ませるために、半ば暴走気味に王都に竜で飛んで行ったオルグにいつの間にか魔力が全快していたマリヤが魔法で、オルグにエリナの病気が治ったことを伝えたのだが、
エリナの完治にオルグは王都目前で踵を返し文字道理竜(正確には飛竜)に乗って飛んで帰ってきた。
そのとき、先に知らせを聞いていたマリヤが初めて部屋を出た双子と病気が完治した子供たちを連れて外でお出向かいをした。
それから舞い降りてくる少しくすんだ緑の鱗、ギョロリと鋭いエメラルド色の爬虫類の瞳
背中から生えている大きな翼、体を支える強靭な足にズラリと並んだ鋭い牙、頭から突き出た2本の角
西洋の竜、まさしくRPGに出てくるドラゴンだった!
ユリエとユーグはそれはもう興奮していた。
ユーグに至っては『ドラゴンキタ――――!!』と念話で叫びまくったほどだ。
その背中からオルグが下りてきたというのに2人は、鼻をひくつかせながら興奮気味に飛竜を凝視し、オルグの存在など頭から抜け落ちていた。
竜に双子の関心を奪われたオルグは、ちょっと…ほんのちょっとだけ落ち込んでいた。(ライルやエリナちゃんと父親の帰りを喜んでくれた。)
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――キィィィ……
外へつながるドアを開くと、草花の匂いがユーグの鼻をくすぐる。
外は、太陽が丁度真上に来ておりポカポカと暖かった。
(……ホントに地球と違って、自然豊かだな……)
コンクリートで覆われた地面やゴミで汚れた近所の川が脳裏に浮かぶ
(空気も地球より澄んでいるようにかんじるな)
しばし、豊かな自然に魅入っていたユーグは、ドラゴンに会うことを思い出し、再びハイハイと進む
オレンジ色の精霊に頼んで、竜舎までの道を魔法で踏み固めてもらう、砂利を除いて貰うことも忘れない
未だに柔らかい肌に小石が刺さるのは地味に痛いそうだからだ。
(ここまで来たらあと少しだぜ。)
そうして、ユーグは作った小道をハイハイで進んでいく。
『しまったーー!?お父さんの部屋だったーー!』
……ユーグからの念話が聞こえるまでは
ユーグはピタリと動きを止めて、竜舎に行こうとする自分を意識を総動員して抑え込む。
(クソっ。ここまで来て戻らないといけないのかっ。ユリエめ、ずっと寝てればいいものを……)
ユリエに悪態をつくが、ユリエが部屋に連れていかれれば当然ユーグがいないこともばれてしまう
(仕方ない。戻るか)
名残惜しそうに竜舎を見た後、ため息をつき来た道を引き返す。
閉めたドアを再び浮いて開けようとしたが、
――カチャ……
っと中から勝手に開いた。
中から服を籠に入れたフェルミが出てきた。
「にゃ?」
ユーグとフェルミの目が合う。
ユーグが当然下から見上げる形になるが、
浮いていた。
丁度ドアノブを持てるぐらいの高さほどに浮いていた。
確実に浮いていた。
ふわふわと浮いているのがフェルミにばっちり見られてしまった。
(――ッ!?マズッ!)
脱走していたのがばれるのもまずいが、浮いているのを見られるのはもっとまずい
自分の失態にしばし呆然とするユーグ
フェルミも籠を落とし、茫然
そして徐々に驚愕
フェルミの尻尾が逆立ってきている。
そして、口をわなわなと震わせ
「………にゃ、にゃ!だ、だんにゃさみゃっ!!お、お、奥さみゃっ!!ユ、ユ、ユーグさみゃがっ!!ユーグさみゃがっ!大変ですにゃ!大変なのですにゃ!!――――!!――――!」
籠も落としたまま、屋敷の中へと消えていった。
残されたユーグは、静かに地面に降りて茫然としていた。
『これってアウトかな?』
ユリエが見つかった以上にやらかしてしまったと思うユーグ
『………取りあえず部屋に帰ろ』
先ほどより格段に遅いスピードで廊下をハイハイしていく
………結局部屋に帰る前にフェルミが連れてきたマリヤに捕まったユーグだった
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――丁度その頃ユリエは
「ちゃー……(しまったなー。まさか、お父さんの執務室だとは……失敗失敗。次は気を付けないと)」
オルグに捕まって、廊下を抱っこで移動中
「ふぅー……。それにしても何故ユリエが一人で出歩いていたのだ?丁度部屋から誰かが連れ出してたのか?」
「あい!(逃亡しちゃいました!)」
「……マリヤに預けるか?いや、少しくらい私が遊び相手になっても……しかし、まだ書類が残っている……どうすればいい」
ユリエがいる原因を考えている内に子供と仕事をどちらを取るか悩みだすオルグ
「あいー?(おおーい。聞こえてる?)」
軽くユリエは服を引っ張ってみるが思考が深く気づかずにぶつぶつと呟いていて、反応がない
(お父さーん。おおーい、きづかないんですかー?)
――ユサユサユサユサ
しかしそれでも、オルグは戻ってこない
しばらく続けても反応がない
「う……ぐっ……」
とうとうユリエがぐずりだした頃にオルグが気付く
「ど、どうした!ユリエっ!?」
泣き出すユリエにオロオロとし出すオルガ
何とかしてあやそうとするが、上手くできない
迷った挙句、オルガは近くの部屋を掃除していたネマを見つけて相談しに行った。
ユリエですら、最後には何で泣いたか忘れるほど泣き続け
ユーグの念話に気づかないまま、寝ているユーグを抱いたマリヤやフェルミと双子の部屋で合流する頃にはぐっすり眠ってしまっていた。
今回は、ベッドの柵から飛び降りて、ジャンプしてドアを開けたと判断された。
人がいなくて寂しかったんだろうと言う結論に落ち着き
今後、双子の部屋にマリヤも一緒に寝起きすることになり、
ユーグがドラゴンに会う計画もユリエの探検も難しくなってしまった。
ユーグが浮いていたことはフェルミの見間違いだと、フェルミ自身が思い至った事でなかったことにされた。
話がすんだあとは、オルグはセバスに連れて行かれ、メイド二人は仕事に
マリヤは早速双子とライルとエリナと一緒に昼寝をした。
――ポカポカしたある晴れた日のことだった。
ドラゴン――と言うか飛竜は竜騎としてドラコニス国では、移動用、伝令用で重宝されています。




