大晦日の定番 2
ズルズルズル‥‥。
ズルズルズル‥‥。
炬燵の中で温まりながら、年越しのカウントダウンを見ながら──年越し蕎麦をすすっていた。
何故食べているのかと言うと、まさかの兄貴が用意してくれていたのだ。
僕が自分の部屋を片付けている間に、急いで買い出しに行き、作ったとのこと。
もちろん、僕は今年はコンビニの弁当で年を越すと思っていたので、リビングに戻って年越し蕎麦があったときの衝撃は大きかった。と、同時に一気にテンションが上がり、今日一日の疲れは全部吹き飛んだ。
そのくらい、嬉しかったのだ。
年越し蕎麦。
こんなにも年越し蕎麦を、有り難く思いながら食べたのは初めてだ。
『もう少しで年越しますよっ! さっ、何か今年を振り返っての感想のほどを‥‥』
テレビの画面の向こうでは、もう少しで年を越すと言うことで2012年を振り返っている。
「‥‥お前、2012年はどーだったよ?」
兄貴が視線はテレビに向けながら、しかし言葉は僕に向けて問いかけた。
僕はちゅるちゅるちゅると、蕎麦をすすってゴクンと飲んでから答える。
「そうだなぁ。‥‥クリスマスの事しか覚えてないんだけど」
兄貴と兄貴の“お友達さん”と僕の三人で過ごしたクリスマス。
“お友達さん”の初めてのお泊まり。
初めてのケーキ作り。
初めて──家族以外の人と過ごした、クリスマス。
“初めて”が多いので、クリスマスしか思い出が残っていない。
「はぁ? ‥‥お前結構記憶力ねぇんだな」
兄貴がどこか勝ち誇ったような顔をしながら言った。
「じゃあ兄貴はどーだったのさ?」
ちょっとカチンときたが、ここは抑えて。
僕は逆に兄貴に問いかけてみた。
兄貴は箸を意味もなく、開いたり閉じたりしながら答えた。
「そーだな‥‥。あ、ハロウィンとかあったじゃん?」
「あぁ‥‥」
アレはある意味苦い思い出である。
一生懸命準備をした僕の努力は、“お友達さん”による一通のメールのせいで壊されることとなる。が、それはイタズラ心でやったもので。
それを知った瞬間の脱力感たら半端無かった。
「アイツ、結構イタズラ好きだったんだな」
「イタズラにもやっていことと、悪いことがあるよ」
心臓と精神にね。
僕は最後の麺をすすり、汁を飲んでから片付ける。
中々うまかった。
兄貴結構料理うまいね。
「うぃー、寒い寒い‥」
手をすりすりと擦り合わせて、温める。手だけしか温まらないのに、これをやったら全身に熱が行き渡りそうな感覚に陥る。
僕は茶碗を水につけたあと、急いで炬燵へと戻る。
と、すると次は兄貴が食べ終わったのか立ち上がった。
『あーあーっ、もうそろそろですっ! カウントダウンスタート!!』
テレビの中の人間どもが騒ぎだす。
あと、30秒‥‥。
「兄貴ー、もう今年終わるよー」
「待って待って」
待てねーよ。
兄貴は手をすりすりと擦り合わせてから戻ってきた。
‥‥やっぱり皆それやるよね。
『あと、20秒ですよー!!』
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
僕と兄貴は黙って、ただただ待っていた。
今年が終わるのを。
そして、新しい年になるのを。
「おい」
あと、10秒のとこで、兄貴が急に話しかけてきた。
僕はんー?と適当に返事をした。
5。
「今年は色々あったけどよ」
4。
「うん」
3。
「その‥‥」
2。
「早く言えよ」
1──。
「ありがとな」
『happy new year !!』
「‥‥‥‥」
テレビの音のせいで聞こえなかったが、──微かに聞こえた、“ありがとな”は、僕の中でずっと響き続けていた‥‥。




