妹、始動!
「‥七夕かぁ。いっちょやってみっか」
僕は開いていた携帯を閉じ、そう呟いた。
今日は7月6日。
明日は七夕とやらの日らしい。インターネットで読んだのだが、年に一度のデートをするカップルがいるらしいのだ。
それが織女と牽牛。
何て切ないことだろうか。
と、言うわけで、そんな切ないラブストーリを読んだ僕は胸が打たれ七夕をやることを決めたのだ。
「えーと、まずは‥」
「お前なにやってんだ、さっきから。両手を胸の前で握ったり、キラキラした目で天井見たりよ」
‥こんなデリカシーのない人間にはこの切なさがわからないんだ。
兄貴は僕のベッドの上で胡座をかいて、呑気に漫画を読んでいた。
僕はそんな兄貴を無視し、出掛ける準備を始める。───もちろん、敏感な兄貴は聞いてくる。
「え、ちょ、おまっ、どこ行くんだよ?」
ほらね。
僕はクローゼットの中から、紫と黒のボーダーシャツに、ジーパンを取り出す。それを履きながら、兄貴の問いに答える。
「笹買いに行くんだよ」
「何のために?」
「‥‥七夕だよ、七夕」
「ああ、明日か。‥え、やんの?」
「うん」
タンスから靴下を取って履いてから玄関へと向かう。
その間も兄貴は傍で「え、どうした、急に」とか「ちょ、まじかよ」とか何とか言っていた。
正直、ウザイ。
「だぁー、もうウザイなぁ。いいだろ、やっても」
「‥‥まぁ、な」
「──じゃ、行ってくる」
「おう。あ、今日の夕飯何にすんの?」
兄貴は思い出したかのようにそう聞いてきた。
夕飯かぁ。
そうだな、何にしよ‥。
「‥‥あー、まぁ何か適当に買ってくるよ」
「おっけー。じゃ、行ってら」
「行ってき」
そんな会話を交えてから、ガチャと玄関を開けた。
今日も空は快晴だ。
そんなことに口元を緩ませながら、足を進めた。