『いつものこと』
「というわけで、会議を始める」
「ちょっと待って下さい」
部長の会議発言に、貴也がいきなり異を唱えた。
「意見がある時は挙手するように。鏑木部員」
“議長モード”になっているらしい部長は、厳粛なものを顔に浮かべて注意する。
「…………」
貴也は納得のいかないような、どことなく不満な表情をしつつも言われたルールに則り、渋々と顔の横に腕がくるように小さく手を上げる。
「はい、鏑木部員」
指名され、ようやく発言権を得た貴也が口を開こうとしたその刹那、
「意見を言う時は立つように」
と、再び部長から注意が飛んだ。
「…………!」
貴也はこめかみがひくつくのを何とかこらえ、イスから立ち上がると今度こそはと口を開く。
「今日、会議をするなんて聞いてないですよ」
「そりゃそうだろうな」
部長はあっさりと首肯し、
「だって、言ってねーもん」
「は?」
軽く言い放たれた言葉に、貴也は間抜けな声で返す。
「さっきよぉ、生徒会長に言われたんだよなあ。『君の部って、ここ二ヶ月くらいまともに活動してないみたいじゃないか。廃部とはいかないまでも、このままじゃ予算を減らすことになるよ』だとよ。じゃあ、今日からあいつの言う『まともな活動』とやらをしてやろうじゃねーか、と思ってさ」
「だから会議を?」
「おうよ。部活っぽいだろ?」
得意気な顔をする部長に、貴也は何と言葉を返せばいいのか分からない。
「……分かりました。それで、議題は何ですか?」
「そんなもんねーよ」
「は? ないん……ですか?」
「おうよ。それっぽい雰囲気で、それっぽいこと話せばいいんだよ。なあ、冴子?」
部長は隣りに座る、髪の長いおっとりとした少女へと確認するように声をかける。
「部長のおっしゃる通りです。議題を決めないで会議をすることにより様々な意見を誘発させる。言うなればブレインストーミングと同じ効果が――」
「ないですよ! 中心となる話題も無く話すことを世間では雑談と言うんです! それからブレストはそう言うんじゃないですからね」
顔の前で指を立て、したり顔で話す冴子に貴也は思わずツッコんだ。
「お、落ち着こうよ、貴也君。みんなでお話しするのは楽しいよ?」
興奮気味に声を荒らげる貴也を、隣りに座る眼鏡をかけた気弱そうな少女がなだめる様にフォローめいたことを口にする。
「だから、会議イコール雑談じゃないんだって! てか、宮姫もそういう認識なのかよ!?」
一般的でまともな常識ある普通の感覚の持ち主だと思っていたクラスメイト(しかも委員長だ)にまでそんなことを言われ、軽くショックを受ける貴也。
「ほう。宮姫ちゃんの方がよっぽど我が『まおう部』の精神を分かってんな。これからが期待できるってもんだ。……それに比べ……」
満足げに彼女を眺めた後、部長は残念なものを見るような目で貴也を一瞥し、首を横に振る。
「ホント、鏑木くんには失望ね」
冴子も心底がっかりしたように残念そうな顔をした。
「俺がいけないんですか!? 俺が間違っているんですか!?」
まさかの四面楚歌状態だった。
「あ、安心してよ、貴也君。私はいつでも貴也君の味方だから。だからここで議題を提供するよっ」
「宮姫……」
なんかそれも違うんだけどなあ、とは思いはするものの、彼女の気持ちが少しだけ嬉しかったのでそれ以上は口にしない貴也だ。
三人の視線が自分の集まるのを感じながら、宮姫は軽く小さく息を吸い込み……言葉を放つ。
「貴也君に一番似合う格好はチャイナだと思う人は挙手を――」
「やっぱりお前は敵だぁー!」
魂の叫びが部室に木霊した。
彼らの日常は、概ねこんな感じに過ぎていく。