大学にて
部屋を出る前に、自分の個人情報につながる物が本当にないか、もう一度部屋をうろうろしてみた。
「・・・あった」
なんと、携帯電話が出てきた。スマートフォンだった。
手に持ってみると、無意識の動作で、ロックも解除できた。使い慣れた自分の物のようだ。
しかし、オーナー登録をしていないか、ブックマークしているSNSなどに情報が残っていないかを確認しても、何の手がかりも得ることができなかった。
しかし、手がかりといえば、スマートフォンを手に入れて、インターネットを利用出来るようになったことは、大いに助かる。
早速、現在位置情報を確認して、学生証にあった大学までのアクセスを調べる。
出掛けに、度の入っていない眼鏡と、ハンチング帽を拝借した。
外に出ると、先程まで自分がいたのが、ありがちなワンルームマンションの一室だと分かった。これがいかにも高級そうなマンションだったりしたら、一気に犯罪臭が漂うところだ。
しかし、やはりというか、このマンションの外観には全く見覚えがなかった。
外に出てみると、思いの外あっさりと、目的の大学に到着した。スマートフォンの地図機能が、大いに役立った。
しかし、大学に到着してみると、同じような校舎棟が並んでいるばかりで、どこを訪ねればいいのか見当もつかない。
むやみに歩いても、学生証の顔写真しか手がかりがない以上、大した成果は望めまい。
僕は長期戦の構えで、校門の日陰に陣取った。
新宮雫に気付かなかったり、そもそも彼女が登校していない可能性もある。部屋でじっとしているより効率が悪いくらいだが、こうしてある程度能動的にしている方が、少し気が楽だ。
通り過ぎていく女子学生ばかりに食い入るような視線を向けていたので、幾度となく怪訝な表情をされたが、そんなことは気にしていられない。
そうしているうちに、男女の二人組が現れた。
「よお。奈緒人じゃん!」
女だけみていたので反応が遅れたが、男が僕に声をかけてきた。それにつられて、女もこちらをむいた。
「・・・おっす」
声のかけられ方からすると、この二人とはそれなりに親しい仲のようだった。
この出会いから、僕は自分のプロフィールをほんの少しだけ補填するのだった。