太陽の瞳
大変お待たせしました。待ってくれていた方、すみません。
亀更新ですが、頑張ります。
頬をまだ赤く染めながらてくてくと歩いて食堂に着くと数人の隊士達が椅子に座ってコーヒーやジュースを飲みながら休憩していた。
(ソフィアータさん、いるのかな)
カウンターを覗き込むと見覚えのある女性が一心不乱に食器を洗っていた。
「おはようございます、ソフィアータさん」
顔を上げて、女性がミーシャに気づいた。
「あら、おはよう、ミーシャ。今日はどうしたの?」
ソフィアータは淡い栗色のふわふわの髪と瞳で、ぱっと見てもかつては、大陸でも指折りの傭兵をやっていたとは思えないほど、優しげな風貌の二十代後半ぐらいに見える外見をしていた。
かつて言い寄ってきた猛者たちはソフィアータの外見に騙され…コホン、油断して(?)、強烈な先制攻撃を受けてあっさり撃沈されたというのは、冒険者たちの間でも有名な話だった。
洗い終えた食器を拭きながら、ソフィアータは満面の笑みで挨拶をした。
「今日は、ガレオンの剣が出来上がったんで持ってきたんです。今、ガレオンに見せて保管庫に持っていってますよ」
「じゃぁ、後で見せてもらおうかしら、待ってる間何か飲む?」
「お言葉に甘えて、ブランゼのジュースを」
「いいわよー、ちょっと待ってて」
ソフィアータは奥から丸い果実を持ってくると、皮を剥き搾り器に入れて果汁を出すとグラスに小さな氷を入れて搾り出した果汁を入れた。
果汁の入ったグラスをカウンター越しからミーシャに差し出して
「おまたせ~」
「ありがとうございます」
グラスを受け取ったミーシャはカウンター近くの席に座って早速一口飲んだ。
「ふぅ、搾りたてはおいしいなぁ」
「ちょっといい?」
尋ねながら、ソフィアータが隣の席に座った。
「いいですよ」
「最近、近々戦争が起こるかもって噂が流れてるの、知ってる?」
声をひそめて話すソフィアータに
「商店街の人達が話してました。隣国のエリシオンの動きが怪しいって」
「そうなの、この国はここ五年、不作でエリシオンから援助してもらってるでしょ。この町は比較的不作どころか豊作だけど、他の地域はだいぶ日照りやら洪水やらで税が納められないって。まぁ、いくらか免除されてるみたいだけど、いつまでも免除は出来ないでしょ。で、エリシオンから援助を受けてるけど、どうもエリシオンよりもこの国の上層部の動きが怪しいのよ。まぁ、つまり、この国で税が取れないなら、隣国の肥沃な土地を奪っちゃおうっていうアホタレがいるらしいの。」
「え、わたしが聞いてたのは逆です。エリシオンが攻めてくるっていう話でしたよ。」
「あ~一般的にはね。どうやらお偉いさんが情報をいじってるみたいよ。どーせ、すぐばれるのに。小賢しい真似するわよねぇ。小物のくせに。」
いつに無く自国の王族・貴族に対して毒舌のオンパレードに、ミーシャはちらっと『この国の上層部とやと何かあったのかな』と思ったが、賢明にも気づかなかった振りをして、話を振った。
「じゃあ、どっちにしろ戦争は起こるんですか?」
「今の状態じゃ、冬が来る前にやるか、雪が融けてからか、どっちかね。時期的に来年の春かしら。多分、その時はこの町からも隊士が何人か徴兵されるでしょうね。っち、無能者が。」
だんだん口が悪くなるソフィアータより発言の内容にサッと顔色を変えたミーシャに、
「ふぅ、本当なら隊士になりたてのヒヨッコなら問題外なんだろうけど、なまじあたしと主人の子で顔も名前もそこそこ知られてるからね、あの子は。今のうちに覚悟を決めてたほうがいいわ。まぁ、ガレオンはあたしたちがビシバシ鍛えたんだから、大丈夫よ。それに徴兵とは言っても、国の騎士じゃないんだから、前線真っ只中に放り込まれることは無いわ。(…多分)」
ソフィアータの言葉に少し安心したミーシャは少し力を抜いてホッとしたが、続くソフィアータの言葉に体を強張らせた。
「ただ、徴兵の時か、兵士視察の時かにもしかしたら騎士団が来るかもしれない。くれぐれも、あんたの瞳は見られないように。気をつけて」
戦争の話の時よりも幾分力を込めてソフィアータがそう言うと
「はい、気をつけます。…やっぱりこの瞳の色はまずいですか?」
「かなり。珍しいだけでなく、精霊の加護の印だからね。よりにもよって太陽の。」
「はぁ、あんまり実感無いんですけど…」
「この町の人間はやたらとお人好しが多いせいか精霊に愛されてる。ジャックスもそうだし、鍛冶師であるあんたの父親もね。花屋の娘もそうだし、そこらじゅうにいるのよ。この町の人間なら、加護があろうーがなかろーが気にはしない。せいぜい『綺麗な瞳の色ね』『変わった色ね』で済ませるから。ただこの加護持ちの彼らは色が薄いからよそ者がちらっと見ても全然分からない。まぁ精霊使いがいたら速攻でバレるけど、もうこの世界には精霊使いはいないから、そこからバレる心配は無い。が、ミーシャあんたは違う。やたらと色濃いし、挙句に色は金だし。黄色系はめったにいないのに、金って。あたしも傭兵の端くれだから、あっちこっち国内外行ったことあるけど、その瞳の色を持った人間はいなかったよ。話にもあがらなかった。もしくはひた隠しにしてるか。あたしの知る限り、今んところ、ミーシャただ1人っ。」
びしっと指でミーシャを指したソフィアータに、ミーシャは
「加護って言っても何の心当たりも無いんですけどね」
ソフィアータはいまいち反応の薄いミーシャの両肩を両手でがしぃっと掴んで
「いいっ?珍しいってだけで人っ子ひとり攫っちゃうようなおバカなヤツもいるんだから、①よそ者には気をつける②1人で夜遅く出歩かない③人気の無いところは昼間でも行かない③知らない人にはついていかない④何かされそうになったらソフィアータ直伝急所潰しを即実行、思いっきりやっていいから。分かった?」
だんだん小さな子どもに言い聞かせるような、痴漢撃退法のような台詞になってきたのにミーシャはソフィアータの迫力と勢いに負けて、素直に承諾の返事をした。
ソフィアータの名前の由来が爆風なのにちっとも爆風じゃない。
そのうち爆風らしさが出せるかなぁ。