幼馴染2
遅くなってすみません
ミーシャは隊舎の廊下を真っ直ぐ奥に進み、外に出るドアを開けると中庭に出た。
隊舎はカタカナのコの左右逆の形にになっており、真ん中が中庭、中庭の右側が訓練場だ。
剣で打ち合いをしている者や、その奥で弓矢を構えて矢を放っている者、訓練場の北には道場があり、雨の日などはそこで体術で組み手をしていたりしているらしい。
木陰で木にもたれて座って休憩しているガレオンを見つけたミーシャは息を切らしながら
「ガレオン、父さんから剣預かってきたわよ。」
目を瞑っていたガレオンは瑠璃色の瞳を輝かせて顔を上げた。
「ミーシャ、わざわざ持って来てくれたのか。重かっただろう。」
「だって早く見せたいじゃない。ちょっと重かったけど大丈夫よ」
ガレオンの瞳に甘くとろりとした色が灯り小さく笑った。
(((ガレオンが笑ってるぅー!)))
二人を遠巻きにしていた周りの隊士の心が一致した瞬間だった。
(普段はブアイソなのに。)
(無口で、無表情で単語単語しか言葉を話さないのに)
(目線もめったに合わせないのに)
(((俺たちとミーシャとでの態度が全然違うんですけどーっ)))
周りの隊士の驚愕をよそに二人の会話は弾んでいく。
「それにしても、鞘と柄の細工すごいわね~。地味なようで実は派手なような。ごめん、さっき見ちゃった」
「いいよ。持って来てくれたんだから。」
ミーシャから木箱を受け取ったガレオンはふたを開けて満足そうに微笑んだ。
木箱から剣を取り出したガレオンは鞘から刀身を抜いて一振りし重さや柄が手になじむか確かめ、また鞘に戻して鞘の模様を眺めた。隣から覗いていたミーシャが、初めて剣を見たときから気になっていたことを聞いた。
「気になってたんだけど、この石と模様の意味って何?」
「あぁ、それはね、この真ん中の石が琥珀で両脇にあるのが瑠璃って言う宝石なんだ。琥珀はミーシャの瞳の色で、瑠璃は俺の瞳の色。で、この唐草はミーシャの好きなイオスの草をモチーフにしてるんだ。綺麗だろ?」
「綺麗だけど何だって真ん中が琥珀なの?自分の瞳の色にしたら良かったのに。」
「そりゃぁ、ミーシャと同じ瞳の色だから、離れていてもちょっとは傍にいるみたいな感じがするだろう?」
さらりと何の臆面もなく言ってのけたガレオンに
「あ、そう」
頬をほんのり赤く染めたミーシャであった。
(嫌だーっこんなとこでイチャつくなーっ)
(((俺たちは何も見てない聞いてない!)))
周りの隊士の悟りの局地を開いたかのような心の内を知らず、二人は『二人の世界』をしばらく築いた。一心に訓練に集中しようとしている隊士達をよそにガレオンは、
「仕事行くんだろ。送るよ。剣、保管室に置いて行くから、食堂でジュースでも飲んでて」
「えーいいよ。近いんだから一人でも大丈夫よ」
「俺が一緒にいたいの」
「…っ、分かった。待ってる」
(臆面もなくよく言うわよねぇ。)
一切の照れも無く、堂々と言い切ったガレオンに内心照れながら、頬をちょっと赤く染めて、ミーシャは食堂に向かった。
ミーシャの後姿をしばらく眺めた後、くるりと訓練場を見渡し、感情の見えない瞳で隊士を一瞥すると保管室に向かって、歩き出した。
二人の姿が見えなくなって十分後、黙々と訓練をしていた隊士達が一斉にしゃべりだした。
「目が合わなくて良かったーっっ合ってたら、次の訓練の時、『ミーシャを見てた』って濡れ衣を着せられて、ボッコボコにされる可能性大!」
「それにしても独占欲も強いよなー。見るなって言っても無理だって。『一緒にいたいから』っていうのも護衛を兼ねてんだろ。彼女、珍しい瞳の色してるから、狙われやすしな。」
「でも彼女、隊長に鍛えられてんだろ?」
「隊長の奥さんにもな」
「えっ奥さんって食堂で賄い作ってくれてるソフィアータさん?」
「強いの?」
「「「知らないのか?」」」
「そんなハモん無くても…」
「彼女、月三つの傭兵だよ。」
「…!!知らなかった。じゃぁ太陽一つの隊長と月三つのソフィアータさんの間に生まれたガレオンは二人からこれでもかっって言うほど鍛えられたんだね…」
想像してふるりと体を振るわせた隊士は、ふと気づいて
「あれ、じゃあ、護衛いらないんじゃ…」
「「「虫除けだろ(男除け)」」」
「あ、そっかー」
素直に納得した隊士であった。
「それにしても、鞘の模様がイオスって、イオスは毒草じゃなかったけ。まぁ、薄めて使ったら薬にもなるけど、普通は猛毒だよなぁ、あれ」
鞘の柄にイオスを選んだ男とイオスが大好きと公言する女と似たもの同士だなと隊士達は確信した。
【豆知識】
この世界にはたくさんの組合がある。
商人組合、職人組合などと職種ごとにあり、その中でも冒険者組合は最大規模で、加盟人口も最大である。
冒険者のランク
星、月、太陽、世界の4種。
【星】・・・一つ~三つ。形は六亡星。
星一つが初心者のランク。簡単な修理や片付けなど、ちょっと困っていることがあれば星ランクに依頼されることが多い。二つで浮気調査だったり、情報の入手、荷物の配送など。三つで比較的危険の少ない遺跡発掘や宝探し、商人の護衛など。
【月】・・・一つ~三つ。形は三日月。
一つは中程度の遺跡発掘や宝探し。高価な商品の配達や調達。このあたりから盗賊や海賊退治などが出来るようになる。二つは危険度の高い遺跡発掘や宝探し、爵位の低い貴族の護衛など。三つは大貴族や王族の護衛もすることが出来る。危険な商品(毒薬や重要書類など)も運んだり。
太陽・・・一つ・二つ
一つは依頼を受けることが出来る。国の騎士で例えるなら、団長クラス。二つは騎士で例えると将軍。
【世界】・・・一つ。形は公表されていない。
今まで認定された人数は数えるほどしかおらず、依頼内容レベル等極秘。現在もいるのかいないのか不明。
ちなみに冒険者には手のひらサイズの冒険者カード・親指の爪ほどの大きさの冒険者の証である聖石・手の甲に刻印された紋章の三つが与えられる。
冒険者カードは手のひらサイズで安易に複製されないように特殊な樹脂が使われている。依頼された内容を組合に報告し、カードを係に渡すと登録者のレベルが更新される。身分証明書の代わりにもなる。
紋章は登録の時、カード・聖石の両方を紛失した場合を考えて、右手、あるいは左手の甲にランクの印が浮かび上がるようになっている。この色も聖石と同じ色になる。
聖石は色は漆黒、形は丸くカボションカット(半球体)され、その石の中に星・月・太陽・世界が浮かび上がる。一つ目の時は白く、二つ目になると二つとも赤く、三つ目の時は三つとも金色に輝く。太陽は赤と金だけである。世界は色も形も不明。
ちなみに聖石には迷子防止機能が付加されている。盗難防止・紛失防止でもあり、持ち主から一定の距離を離れると光が空に向かって輝く。さらに壁や天井も越えてしまうので、バレバレである。この迷子防止機能、外すことも出来る。紛失・盗難・破損などにより、聖石が戻ってこない場合、費用の全額負担。けっこうな金額になるので、迷子防止機能を外す人は少ないらしい。ちなみに落とした聖石を拾った場合、組合に届け出ると褒賞金がでる。引退した後も、カード・聖石は冒険者本人が保管することが出来るし、組合に預けることも出来る。紋章もつけたままにできる。また、引退した冒険者が自分の聖石を譲渡する場合、譲渡書類を組合に提出しないと罰せられる。さらに譲渡した後、復帰する場合、新しく聖石を作るので、費用の半額負担。この規則に対して、改正の要望があがっている。
イオスはギリシャ語で毒という意味です。
ソフィアータはイタリア語でソッフィアータ・デッレスプロジオーネという言葉からとりました。意味は爆風です。なのでガレオンのお母さんは爆風のような人だと思ってください。
6/8 豆知識追加。それによって隊士達の会話文を修正。