相棒の受難。
「ディマとエイレの息子か!」
シェイディアに到着して、シェイディアのゲート管理施設に入国申請(ここはそれを提出しなくてはならない《界》だそうだ)をしたときだ。
到着地の人狼族の町、ウルムスの、入国申請窓口の係員が大きな声でそう叫んで、いきなりデュークの背中をばしばし叩き、あげく異様に親しげに肩を抱いてきたのは。
係員には黒い毛のふさふさの尻尾と耳があり、見るからに人狼族の──男性、だ。人狼族の年齢の見方はよくわからないが、見た目は20代半ばくらいと若く見える。
「は、え、えぇ!?」
いきなりそんなことをされたデュークは面白いくらい目を白黒させていた。…そりゃそうだろうな、親から関わるなとまで言われてる種族なのに、出会い頭にいきなりこの、やたらフレンドリーな態度だ。なにが起こったかと思うだろう。俺だって思う。
「た、確かにディマは親父で、母さんはエイレだけど!」
「そうだろうそうだろう!お前は声もディマそっくりだ!」
ああ、やっぱりデュークの両親の名前だったか。人狼の男はさらに嬉しそうに言いながら、デュークの匂いを嗅いで──抱きついた…っ!?
「ぎゃーっ!?」
「待て待て待て、待て!ちょっと待てぇーっ!」
慌ててデュークから男をべりっ、とはがす。
「なんだ、邪魔をするな」
睨まれたが、ひるんでいる場合じゃない。睨みかえしつつ、デュークに目をやれば…あーあー、鳥肌たててるよ。
「いや、邪魔するだろう普通。初対面で匂いを嗅ぐ…のは、人狼族の習慣かもしれんとは思うが、いきなり抱きつくのはどう考えてもおかしい」
「なにを言う。いくら我々が人狼族でも、相手の匂いを嗅ぐ習慣などないぞ!これはディマの息子だから嗅いだんだ!」
胸を張って言い返された。どんな理屈だそれは。抱きついたことについてはコメントなしか。
と、思ったら、満足そうに何度も頷きながら、人狼の男はこう続けた。
「抱き心地もディマそっくりだ!ディマの息子!エイレの息子でもあるのは癪にさわるが、お前、オレのヨメになれ!」
「「はあぁぁ!?」」
気がつけば、なにか考えるよりも先に、デュークとふたり、声をそろえて思いきり叫んでいた。どうなってんだシェイディア!!
8にもまして短いです。
人狼くんが全部もっていきました…(・・;)