そして夜、相互理解の第一歩。
日が暮れきる前に野営の準備を整えて、焚き火で少し炙ったパンと果物の夕食を終え、俺とデュークはいま、焚き火をはさんで向かい合っている。
なんとなく、お互い自身の話をぽつぽつと語り合っていた。
デュークには弟がひとりいるそうだ。デューク本人は魔法が得意ではないが、弟は魔法の才能があるとかで、今は、同じ《界》の離れた町にいる魔法使いに、魔法の基礎を習いに行っているらしい。
お前は?
そう聞かれたので、俺も自分の話をする。
一人っ子なこと。両親は魔法がからっきしだが、息子の俺に才能があるとわかると、魔法の勉強をさせてくれたこと。親は本当は医療系の魔法職に就いてほしかったらしいこと。
「あれ?でもお前、」
デュークがなにか言いかけたが、続く言葉には予想がついたので、遮って先に答えを言う。
「うん、俺自身は魔法戦士を目指してる」
入隊試験の実技で長剣を使っていたのを見ていたのだから、俺が剣の腕を磨いてきたのには気づいているはず。
「攻性魔法には適性がなかったらしくて、そっちでは役に立てないけどな。防御系の魔法はそれなりに使える」
「へえ…」
俺たちの属する蒼族という種族は、分類としては魔法族に入る。…魔法族、っていうのは、魔法に対する親和性の高い種族の総称だ。妖精とか精霊とか、そういう、大まかに「幻想種」と括られる種類の種族は、だいたい魔法族にあたる。
だから、蒼族に魔法をまったく使用できない人間は存在しないが、才能の違いはあって、指先にちいさな灯りを点ける魔法さえ苦労する者(俺の親はこのタイプだ)もいれば、たいして苦労もせずに、呼吸するより簡単に様々な魔法を使いこなす者もいたりする。
また、個人個人で適性があり、同じだけの才能があっても、それぞれ使える魔法の種類やレベルには幅がある。
俺自身は、才能はほどほど、適性は防御系と医療系にあった。
親としてはやっぱり自分の子供にはあまり危険なことはしてほしくないんだろう、戦士隊に入りたいと言ったとき、せっかく医療系に適性があるのにと、だいぶ反対されたのは、入隊試験に受かった今ではいい思い出だ。
「ふうん…。俺の親はむしろ、一丁揉まれてこい、みたいなノリで送り出してくれたけどな」
「お前の両親はどっちも剣士だっけ?」
「そう。子供のころからやたらシゴかれた」
「へぇ…」
家族のこと、戦士隊に入りたいと思ったきっかけ、得意なこと、苦手なこと──。
月が中天にさしかかり、お互いに欠伸を連発しはじめるまで、俺たちはいろいろなことを、思いつくままに話し続けた。
星がやけに綺麗だった。
───ぷち設定解説───
蒼族
ヒト型妖精種に分類される魔法族。種族全体に共通する特徴的な蒼い瞳の色から、種族名は命名されたと言われている。
髪の色は適性を持つ魔法属性に影響を受けやすく、外見によって使用魔法を推測しやすい種族であり、様々な《界》に広く分布する。
平均寿命は200〜300年。誕生から平均して20年前後で肉体の成長は停止し、以後はその姿のまま長い青年期を過ごす。寿命が迫ると急速に老化し、老化現象の開始から平均して5年から10年ほどで死期を迎える。
身体的特徴は《セ》の界を中心に広く分布するヒト型人間種に近く、同種族との交配も可能。