ケンカするほどなんとやら…?
黒毛のほうはビズ、白毛のほうはクスト、と名乗った彼らは、聞いてみればなんと、デュークの両親の知り合い、だったらしい。
ビズはこの町の出身で、もともとはデュークの父親と組んで魔物狩りなどの仕事を請け負っていた戦士職。クストのほうは北方の雪狼族の出で、ビズと仲が良かった縁でデュークの親たちともよく顔を合わせていたのだそうだ。
現在は二人で組んで案内人をしており(つまり、今回だけの即席コンビではない、ということだな)、ビズによればそれなりに評判も良い、らしい。
シェイディアで案内人として良い評判を得る、ということは、顔が広い、ということだ(と、事前資料に書いてあった)。
ウルムスを出てわかったが、ゲートがない、他のふつうの人狼たちの町は、聞いていた通りに排他的で、旅人といえども人狼以外の種族は宿さえおいそれと取れない状態だった。
実際、案内料を節約するためにか(それなりに高いからな…)、案内人をつけていない旅人グループも見かけたが、案内人の同行する俺たちには「まだ空き部屋はある」と言っていた宿屋の主人が、そいつらには別人ではないかと思うような態度で、「満室だから」と宿泊を断っていたのも目にした。
案内人がいるおかげで宿屋に断られなかった俺たちは、あたたかい食事と寝床を得てその夜をすごして、翌朝、弁当まで作ってもらって宿をあとにすることができたのだから、案内人ふたりの評判が良いというのは本当だったのだろう。
今日は港町まで移動する予定だ。
風は穏やかで、クストが言うには、この晴天は数日続くと言う。船旅を控える俺たちには朗報だろう。…当たれば、だが。
昨日の宿屋では、もうひとつ、学習できたことがあった。案内人と旅人の「仲の良さ」によって、人狼たちの態度が変化する、ということだ。
俺たちは最初のこともあって、ずいぶんくだけた感じでやり取りができていた。デュークがビズに話しかけられるたびに鳥肌をたててはいるが、会話はちゃんと成立している。それを見たほかの人狼たちの態度が、見るまえよりも見たあとのほうが、より親身というか──やわらかくなったのだ。
気のせいかと思ったが、クストに聞いてみたら、気のせいではない、と言われた。クストの言葉によれば、案内人として実績を積むためにほんとうに必要なのは、顔の広さよりもむしろ「人を見る目がある」という信用、だという。なるほど、と思う。騙されやすいヤツや人を見る目のないヤツが「コイツは大丈夫」と言っても、信用したくはならないもんな。
「まあ、けど…」
クストとの会話の途中、ななめ後ろの位置をデュークと並んで歩くビズをちらっと見た。
……あいつに「人を見る目がある」と言われても、俺なら首をかしげるだろうな、と、口には出さずに、心のなかだけで思う。だって、知り合いの息子だってだけで、初対面の相手にいきなりプロポーズするようなヤツだぞ?
「…いてっ」
ななめ後ろから、頭にチョップがきた。
「ヨメの連れ。いま、なにか失礼なことを考えただろう?」
「別になにも」
…意外と鋭いな。
そう考えた瞬間、もういちど、ななめ後ろからチョップがきた。
「お前ぜったいに何かオレに失礼なことを考えただろう!」
「なんなんだその野性の勘はっ!」
「やっぱり考えてたのか!!」
ぎゃあぎゃあと騒ぎはじめた俺とビズを見ながら、クストがデュークの耳元で囁いている。
「ああいうのも、仲良しのうちに数えていいと思わないか?」
「ああ、確かになぁ…」
……いや、数えないでくれ……。
長らくあいだが空いてしまいました…。
宿から出かけてどんだけ歩きっぱなしにさせてたんだか(^_^;)
次回は港町に到着してもらうつもり、です。