ゲットだぜ!お得…?な案内人
俺はいま、衝撃の発言を耳にして、アタマが真っ白になっていた。
排他的だって聞いてたけど人狼族って異種族婚OKなんだ?とか、いやそもそもなんで初対面でいきなりプロポーズ、とか、いろいろと言いたいことや聞きたいことは頭の中でぐるぐる回ってはいたけれど、なんというか、衝撃的すぎて言葉が出てこない。
初対面の相手からいきなりヨメになれと言われた相棒にいたっては、石化したように固まったままだ。
しかし俺たちが固まっているのも、目の前の人狼の男にとっては関係なかったらしい。
「そうと決まれば善は急げだ!ヨメ!さっそく神殿に行って誓いを立てるぞ!ヨメの連れは立会人だ、さあ、行くぞ!」
大声でそう叫んで、俺とデュークの腕をつかんで引きずろうとしはじめたからだ。
これには、さすがにそのまま硬直し続けているわけにもいかなくなった。
「待っ「こォんのバカ犬がーっ!!」…た、て、…え?」
抗議の声をあげようとしたら、いきなり視界の左端から飛んできたなにか白っぽいものが、俺とデュークの腕をつかんでいた人狼の男を右端に向かって吹きとばしていった。
腕をつかまれていたせいで、つられてたたらを踏みそうになったが、なんとか転ばずに踏みとどまる。…なんだ今の。
「言葉に出すまえにまず脳みその中でちゃんと考えてからしゃべれって、いつも言ってるだろうこの駄犬がっ!人狼族全体がお前みたいな脳筋しかいないって誤解を受けたらどうすんだ!!」
ここまでを息継ぎなしで言い切って、その白っぽいもの──に見えたのは、走ってきて豪快な飛び蹴りをかました男の、雪のような白くて毛足の長いふさふさの尻尾だった──が、自分の吹き飛ばした相手の首根っこをつかんで引きずり起こす。
そのまま、俺たちのほうへ向きなおって、
「旅人さんたち、悪かった!こいつはアタマがちょっと残念なだけで、いちおう無害だ…ったんだ、今までは!とりあえず二度と迷惑はかけさせないから、今回の件は水に流してもらえないだろうか?」
言いながら、そんな勢いで押さえたら首が取れるんじゃないかと思うほどの勢いで、ヨメ発言をした黒毛の人狼の男の頭をぐいぐいと、力まかせに押さえて、俺たちにむかって下げさせる。痛いとかもげるとか、いろいろ喚いているが、それらは華麗にスルー。…妙に手慣れている感じを見るに、まあ、いつもこんな感じなのだろう。
隣で石化していたデュークのようすをうかがうと、石化状態からは復活できていたようで、白毛の人狼族を見ながら(ちなみに黒毛のほうは見ないようにしていた。たぶんわざとだろう)ちょっと緊張したような硬い愛想笑いを浮かべていた。
「あー…。まあちょっと、というかかなりびっくりしましたけど、それだけですから。お気になさらず」
なんでもないことのように言ってのけたデュークだが、隣の俺からは、二の腕に鳥肌がまだ立ったままなのがよく見えた。……つまりアレか。自分がいきなり初対面の男からプロポーズされた事実は忘れたいんだな、きっと……。
「そう言ってもらえるのはありがたいが、この脳筋が騒いだせいで、手続きが途中で止まってるんじゃないか?その荷物の感じからして、目的地はシェイディアじゃないだろう。次のゲートまでの案内人は申請したか?」
「いえ、申請はまだ。華属 領行きのゲートを目指したいんですが…」
「華属領か」
白毛の人狼族が、なにか思いついたような表情になる。…あ、微妙にイヤな予感が。
「どうだろう。詫びといっては何だが、俺とコレに、君らの案内人をさせてもらえないだろうか」
コレ、のところで頭を押さえつけていた黒毛を示したので、目の前の白黒ふたりを、ということ、なんだろうけども、
「コレはこんなだが、案内人としての腕は確かなんだ。オレもそれなりの腕は持ってる。むろん、こちらが先に迷惑をかけたわけだから、案内料は格安にさせてもらう。どうだ?」
「「お願いします」」
案内料は格安に、のところで、寸分たがわず同時に、俺とデュークは同じ言葉を発していた。
…変態は警戒してれば被害を予防できるんだし、出費は抑えるにこしたことはない、うん。
節約家らしいデュークと貧乏性の俺には、格安、という言葉の威力はすさまじかった。習慣っておそろしい…。