夢
雅人氏とオフ会で会っていましたところ、お互いに簡単な設定を相手からもらって、それを元に短編小説を書いてみないか、などという話になりまして、その時できた作品です。
どうせだし、上げたら? という雅人氏のお言葉に勇気をもらって、掲載いたします。
(……たぶん、雅人氏のページにも同じようなのが載ってるのかな?)
おおざっぱなキャラクター設定・雅人氏
製作時間・45分
推敲魔の自分としては、初となる無推敲の駄作ですが、ぜひとも読んでいただければ幸いです。
ちなみに思想は、ゲーム「水月」の受け売りです……
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よく、ませている、とは言われる。
幼稚園では、特に中核グループにいたわけでもないし、孤立していたわけでもない。
つい先日小学校に上がったわけだけど、ここでも同じ立ち位置なんだろう。
でもとにかく、僕はフツーだ。
少なくともフツーだと自覚はしている。
ある日突然、ワケわかんない謎の生物――ちょうど目の前にいる、羽の生えたぬいぐるみみたいな――がひょっこり見えるようになるほどおかしいという自覚はない。
だからきっとこれは夢なんだ。
「……んだよ、つまんねぇガキだな。 なんかしゃべれよ」
クラスの女子が喜びそうな、羽が生えたマスコットテイストのぬいぐるみみたいなソイツは、代わり映えのしない、キョトンとした表情のまま言った。
思いの外言葉遣いが悪い。
「お前、誰?」
ようやく僕は言った。
「おぅ、教えてやるよクソガキ。 人様に何者か尋ねる場合は、まず自分が何者か明かすのが基本なんだよ。 テメェこそだれだ?」
見た目と言葉遣いのギャップがひどい。
そう思いながら僕は答えた。
今更だけど、思いの外冷静な自分に驚いてる。
「ハンッ、今時のガキみてぇなチャラチャラした名前じゃねーか」
「父さんと母さんがつけたんだ。僕に責任はないよ」
「小学生の分際で、ご立派に言い訳かよ。 ――まぁいいや」
「おぃ、僕はちゃんと何者か明かしたぞ。 今度はお前の番だ」
「ったく、うるせぇガキだな…… 分かった教えてやろう」
いわゆる、上から目線ってヤツだろうか。
「オレサマは――そうだな、分かりやすく言うなら、今のところ『夢の産物』だ」
「いや、全然分かんないんだけど」
「うっせーな、これが一番適した表現なんだよ。 黙って納得しとけ」
「何ソレ? 説明放棄?」
「しつこいガキって、俺は嫌いなんだよ」
「逆ギレ? あとガキガキうるさい。 僕はガキじゃない」
「ハァ? どっからどう見てもガキじゃねぇかよ」
「うるさい。 それより、どういうこと? 『夢の産物』って。 ここは何、誰かの夢なの?」
「……」
僕の質問には答えず、毒舌ぬいぐるみはくるりと背を向けた。
羽が生えている。
「……テメェの言う夢ってのは」
ぬいぐるみは僕に背を向けたまま言った。
「リアルに対するファンシーの事を言ってるのか?」
「は?」
「夢っていう言葉自体が、スッゲー曖昧なんだよ。 大体、夢の反対ってなんだよ?」
「いや、現実じゃないの?」
「当たってるけど、ちげぇ」
「意味分かんない」
「夢ってのは、願望としての意味もあるが、同時に、現実じゃないって意味もある。 だかよ、そもそも現実ってなんだよ?」
ぬいぐるみはこっちに向き直った。
相変わらず表情はキョトンとしたままだ。
というか、全く表情が変わらないのも逆に気味悪い。
「テメェは自分がマトモだと思ってやがる。 だから、オレサマみたいなヤツはリアルにいるわけないと思ってる。 だがオレサマはここにいる。だからテメェはここを夢だと思った」
「読心術?」
「そのくらい誰でも分かるんだよクソガキ。 ――で、だ。 テメェはここを夢だと思った。 なら聞くが、テメェは今寝てんのか? 寝てるとするなら、いつ寝たんだ?」
「いや――」
起きてるけど、と答えかけて口をつぐんだ。
ここは夢。
だから僕が起きているはずがない。
でも、僕は今起きている。
少なくとも、寝たという自覚はない。
……
「何が現実か、それを明確に決定する客観的手段はねぇよ」
ソイツは言った。
「何が現実で、何が夢かを決定するのは、他でもねぇテメェ自身だ。 テメェが現実だと思いたいものだけが現実で、ソレ以外は、例えリアルであったとしても夢なんだよ」
……
言葉に詰まっていると、ソイツはふっと、明後日の方向を向いた。
「おっと、時間みてぇだな」
「えっ?」
「ほら、聞こえねぇか? お前にも」
「聞こえるって――」
耳に意識を集中する。
普通に街の喧騒だとか、そういったものしか聞こえない。
エンジン音、足音、人の話し声、金属みたいなサイレン――
サイレン――
あれ?
――リリリリリリリリリ!!
「――っ!!」
目覚めた。
いつも見る、僕の部屋の天井。
鳴っているのは、目覚まし時計。
「……夢?」
………
「……変な夢」
一番それが、しっくりきた。
目覚まし時計を黙らせ、着替える。
今日も学校だ。
買ってもらったばかりのランドセルを持って、下に降りる。
なんだか変な気持ちで朝ごはんを食べる。
ぼーっとしていたせいか、何を食べたかあんまり印章に残らない。
歯を磨いて、顔を洗って、母さんに見送られて。
いつもの儀式を経て僕は――
――家のドアを開けた。
「よぉ、クソガキ」
ソイツはそこにいた。
クラスの女子が喜びそうな、羽が生えたマスコットテイストのぬいぐるみみたいなソイツはそこにいた。
「どっちなんだろうな?」
代わり映えのしない、キョトンとした表情のまま、ソイツは言った。
水面に映った月が、なぜか僕の心に浮かんだ。
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