落し物
プロジェクト会議が終わり、お疲れ様と言いいながが会議室を出る時だった。
それは、一瞬の出来事だった。
奈々枝が翔を見つけ駆け寄ってきた。
「樋口さん」
「藤村さん?」
振り向き話をしようとする翔の手を引っ張った。
「今日こそ付き合ってくださいね」
「え?」
「約束でしょ?」
そのまま有無を言わさず、翔を連れ去った。
一瞬の出来事に残されたプロジェクトチームのメンバーは呆気にとられていたそんな中にゆりあもいた。
「あいつもてるからな~」
「けど、彼女のことあるから無理だよ。」
「そうだな。」
「彼女って?」とふと聞いたゆりあ・・・
「石原さんも、気になる?」
少し戸惑うゆりあ
「だって・・そんな話が出ると気になるものよ。」
「そうだな・・実は樋口の彼女、事故でなくなってるんだ。1年前に・・」
そのことを聞いて、驚くゆりあ
「だから、さっきの彼女に、早くあきらめるよう言ったほうがいいぞ」
「そうね・・・」
ゆりあを残し、みんなが立ち去った。
ふと足元を見るとミサンガが・・・
これ・・・樋口さんの・・・と思い拾い上げた。
いったん事務所に戻ったゆりあは、ミサンガを見ていた。
やっぱり・・・私のとおそろいだと確信した。
ふと時計を見ると、8時を回っていた。
もうこんな時間?
慌てて会社から出る準備をしていた。
無理やり食事につき合わされた翔。
「樋口さん・・・私と付き合ってください。」
奈々枝は目の前の翔に言った。しかし、翔の返事は
「妹の紹介だから、今日は付き合ったんだ。頼むからしばらくそっとしといてくれないか。」
翔はため息をついて、自分の腕を見た。
ミサンガがない・・・
どこで落としたんだろうと焦る
「じゃぁ・・・これで
店を出ようとする翔
「じゃぁ~って・・ちょっと・・」
「急用を思い出した。」
伝票をとり席をたつ。
「ちょっ・・ちょっと」
「ここは、俺が払っとくから・・」
そういい残して翔は会計を済ませ、奈々枝をおいて店を出て行った。
急いで会社の戻る翔、
そして、
ロビーでゆりあとすれ違う
「樋口さん・・」
声をかけるゆりあ
「石原さん・・」
立ち止まる翔
「どうしたんですか?」
「いや、ちょっと、忘れ物を・・・」
「忘れ物?」
「そうです。たぶん会議室に・・」
「ひょっとして、これですか?」
そう言うとゆりあがミサンガを翔に見せた。
「それ・・どこで・・」
「会議室の前に落ちてたわ。」
「ありがとうございます。」
「大事なものでしょ。手を出して。」
翔が手を出すとその手にミサンガを結びつけるゆりあ
「大事なお守りなんでしょう・・しっかり結ばないと。」
その姿・・・言葉に驚く翔、彼女の姿がゆきえと重なる
「さぁ・・できた。」
ゆりあが翔を見ると彼はぼーっとしていた。
「どうしたの?」
その言葉に気付いた翔は
「あっ・・いや・・」
言葉を詰まらせたが
「そういえば、なぜ?お守りだと?」
「ただ・・」
「ただ?」
「そう思っただけよ・・じゃあ・・」
ゆりあがロビーから出ようとすると自転車とぶつかりそうになった。
「あぶない・・」
彼女を引っ張り抱きしめる翔・・・
その光景を奈々枝は見てしまった。
抱き合うふたり・・しばらくして、
「ありがとう・・」
ゆりあの感謝の言葉に慌てて離れる翔
「あ・・」
「じゃぁ・・」
「じゃぁ」
ふたりはばつ悪そうに別れた。
帰りの電車の中・・ゆりあは、しばらく、止まらない鼓動に戸惑った。
一人歩く翔、気がつくと抱きしめた彼女を思い出していた。