プライバシー(夏のホラー2026)
トイレが壊れた。
タンクにひびが入って危うく水が漏れる所だった。
タンクに伸びている水道のパイプに10円玉で止水栓を捻って水を止める。大家にクレームをつけたらすぐに直してくれると連絡があった。
2日後、トイレは新しくなった。
業者に説明書を受け取り、やれセンサーで自動で蓋が開くとか、自動洗浄でたまに自動で水を流してくれるとか、プライバシー音が流れるとか、一番嬉しいのはウォッシュレット機能だった。
業者が去る前に「プライバシー音は要らないので外して下さい。」とお願いすると「わかりました、機能を無効で設定しておきますね。」と言って設定した後去って行った。男の1人暮らしだ必要ないだろう。
しばらくして、トイレからシャーーコォーと音がした。
何だろう?と思って覗いてみると自動で蓋が開き、たまたま自動で洗浄の水を流している時の音だった。
その夜、ベッドに入りスマホをいじっているとまた、シャーシャーッと言う音がトイレから聞こえてきた。
自動洗浄要らないかもなーと思いながらもそのままにして寝る事にした。
シャーーコォー…
翌日会社の会議の後、思いつきで会議室を綺麗にして雑巾を給湯室で洗っていると総務の女の子に「君の仕事じゃないのに…ありがとうね」と声をかけられた。
私は手を止めようとしたが彼女は「そのままで話そうよ。」と提案してくれたので彼女の言う通りにした。
私達はジャーーーっといつまでも流れる水の音を背景にお互いの趣味の話で盛り上がった。
終業時間が来ると私は帰り支度をしてオフィスビルを出ると出口で総務の女の子に話しかけられた。
「ねぇ、これからご飯行こうよ。」
私は二つ返事で応じるが後から話を聞きつけた2人の通りすがりの先輩達AとBが「俺も俺も」と着いてきた。正直「ふざけるな!」と思ったが何も言えずに4人で居酒屋に入る。
楽しくもない突然の飲み会が終わると先輩Aが総務の女の子の肩に手を回し「俺が送って行くから任せとけ」と言って去ろうとする。私は口を開きかけた所で先輩Bが
「帰るの面倒だしお前の家に泊まるわ」と言う。私は先輩Bを睨むと「先輩の言う事が聞けねーのかよー使えねー」と言われ泣く泣く彼を家に招いた。家に着くと「トイレ借りるぜー」っとドアも閉めずに狙いも定まらない立ちションを始め「プライバシー音がなるのかー」っと勝手に設定を変えてしまった。
先輩Bの水の音を掻き消してシャーシャーシャーっとなるプライバシー音に私は後頭部が熱くなるのを感じると鼻の奥にツンと血の匂いを感じた気がした。私は先輩に歩み寄ると彼を殴り倒し馬乗りになると首を絞めた。先輩はパクパク口を動かしていたが喉を締めているのか、またはトイレから流れるプライバシー音のせいなのかシャーシャーシャーッと言う音しか私には聞こえなかった。「うるせー、しね。」そう思った。そして先輩は動かなくなった。
トイレのプライバシー音が止むと隣の部屋の住民の笑い声が聞こえた気がした。
するとトイレのプライバシー音がまたシャーシャーシャーという音出した。私は再び殺意を覚えた。
さらに別の隣の部屋から野球の実況の音が聞こえた気がした。
そして再びトイレのプライバシー音が鳴り響く。
シャーーこぉーー…
そして沸き起こり、積もるやり場のない殺意。
ドクドクと心臓の音が高鳴る。
どうするか?…
イライラする…
ふと窓を見るとポタポタと雨が降り始めていた。
ぱた…パタ…
ぽた…ぽちゃん…
サーー…タララララ…
雨水の音が居心地がいい。部屋のベトベトとまとわりつく湿った空気から抜け出して外の雨に打たれれば、私を冷たいプールの水に飛び込んだ時の爽快感へ導いてくれるような気がした。そして雨音が全てを隠してくれる、雨の中なら何でもできるという開放感を感じると台所から包丁を取り出して雨が降る街に繰り出した。
パトカーや救急車のサイレンも、街の悲鳴も、シトシト降る9月の生暖かい雨が覆い隠していた。
そして誰もいない私の部屋で私の狂気を流すかのようにトイレが一人でに自動洗浄を作動させるのだった。
しゃぁぁぁぁぁぁぁ…コォォォォォ…ゴボゴボ…
ー終ー
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。




