回想の世界へ
首都の官庁街は賑わいが薄い。実際、この場にあるのは【扶桑】の舵取りを行なっている建物ばかりであり、煉瓦で出来上がったビル群は温かみより冷たさが目立った。
寂しいよりも冷徹。生活臭が全くないから人気も少ない。石畳の上をせかせか歩く連中は皆急いでいて、早々としていた。
「ここで仕事してると変にならねえか? 潮気が全くない」
「はあ」
「私らは海軍だぜ。こうだとどうにもさ」
「どうなんでしょうね」
田中は気のない返事だ。あんまり話したい上官とは思っていないのだろう。
海軍省は別名赤煉瓦と呼ばれる。その名の通り、鮮やかな赤い煉瓦が積み上げられて作られた三階建て荘厳さは他の官庁とは一線を画した。門も煉瓦造りで贅沢好みだ。御影には海軍の実態とあまりにかけ離れていて、初めて来る場所だが二度と来たくないと思わされた。
「なあ、田中。皺取りどうすればいいかな」
「もうお呼びしてます。軍属の方がいますので話は簡単でした」
「さすが海軍省付き。目鼻が効くじゃねえの」
「普通です」
普通ね、私には出来んが——。
そう思いながら手を振った。まあ、殴られながら覚えるやつもいれば、親からの遺伝というやつもあるのだ。
受勲しにきたぞ、と門の前で言おうとして、田中に止められた。ツルツルの顔で、目立たないが門の前では堂々と報告し、頷かれて通っていいと言われたようだ。
「大袈裟だよな。受勲なんか郵便で十分だぞ私は」
「そういうのは良くないです」
「そうでもないだろうよ」
御影はぼさついた髪を振り乱した。
「その髪も整えますよ」
「本気か?」
「本気です。いや、当然ですよ。偉い人がみんな来るんですから」
「肩凝るんだよ。やだねえ」
肩をすくめる。周りの海軍軍人たちはギョッとしながら御影を見ていた。大柄な女性でしかもボサついた肩までの髪、ギョロリとした切れ長の目と目立つ道具立てが揃っている。その隣にいるのがツルツルとした特徴のない水兵だから尚更目立った。
「真面目にしてください。戦場での功績を讃えられるんですよ。真面目に受け取らないとおかしいじゃないですか」
「まあ、おかしいのは事実だろう」
海軍省の職員なのか、御影から見ると頭の良さそうな青年が先導してくれた。その間、田中はどことなく怒っていた。その気持ちを前に出さないのは彼が水兵で御影は下士官だからだ。上下の関係を真面目に守るあたり、田中はこの後も出世の目があるだろう。
私は……どうかな。
御影の頭の中には、【綾】での凄惨な光景が目に浮かんだ。




