第5話「制空戦模擬戦闘」
ついに2つの部隊の戦いが始まった。
制空戦模擬戦闘。迎撃戦とは異なり、領空を制圧して確保することを重視している。
隼隊のメンバーは零戦五二型・二一型・三二型、として烈風。対する64部隊は一式戦、橋本ki44(二式戦)本田ki61(三式戦)佐藤ki100(五式戦)である。
訓練では本体へのダメージが少ない専用の演習弾を使用。相手チームの敵機を先に全滅させたチームの勝利である。ステージは飛行場からほど近い海上だった。
「セカンドエアフレームの子が多いけど油断しないで! 相手は手慣れよ!」
「わかってるって二一姉! あのガキンチョは意外とやりそうだしな……!」
64部隊に接近する隼隊に空見が地上から無線で指揮をする。
「みんな! 二人一組で戦ってくれ! 互いにフォローし合って1機ずつ確実に撃破するんだ!」
「二一型と三二型さん、五二型と烈風で編隊を組んで襲撃せよ!」
「ロッテ戦術ですね? 了解しました! 烈風ちゃん、行きましょう!」
「は、はい! 援護は任せてください!」
空見機長の判断は的確だった。二機一組を最小単位とするロッテ戦術なら一対一の格闘戦に持ち込むより、確実に安定して戦闘ができるからだ。
「しゃあ……ガキンチョ! お手並み拝見だ!」
三二型が一式戦に向かってヘッドオンを仕掛けた。圧倒的な弾幕を一式戦に浴びせる。
――しかし
「ふん! 甘いわ!」
「っ……クソ!」
一式戦は弾が届く前に急旋回し、正面勝負を回避した。そしてすぐさま格闘戦に持ち込む。
「バガが……私に格闘戦を挑むなんて命知らずな野郎だぜ!」
三二型は自分の格闘性能について絶対的な自身を持っていた。こんなチビに負けるはずがない、と自信満々に勝負に乗った。
「みーちゃん!? ダメよ! その子に格闘戦は……!」
二一型が三二型を止めようと叫ぶ。――だが既に遅かった。
「バガはそっちよ!」
「なっ……!?」
「嘘だろ……!?」
三二型と空見機長は驚愕した。三二型の視界から一式戦が消える。気がつけば一式戦は三二型の背後にいた。
そう、一式戦は三二型をまるで弄ぶようなとてつもない旋回を見せたのだ。三二型は振りほどこうと必死に喰らいつくも一式戦の曲がりには追いつけない。
「そこっ!」
「ぐっ……!」
一式戦の機銃掃射に三二型の飛行ユニットの翼に風穴が空いた。かろうじて持ちこたえたが、体にも被弾し体力を削られてしまった。
「離れなさい!」
「危なっ!?」
二一型が一式戦に攻撃を加えたことで三二型は間一髪撃墜を免れた。
「もう! いっつも邪魔が入るんだから! 7.7mm機銃二丁だけじゃ威力が足りないわ!」
「まあ……いいわ。このくらいのハンデの方が、もっと長く遊べるし?」
一式戦の想像以上の実力に、いつも強気な三二型の顔が青ざめる。まさか一番得意の格闘戦で負けてしまうなんて。
「みーちゃん! 大丈夫!?」
「二一姉……アイツやべぇよ……なんなんだあの旋回性能は……!」
「隼ちゃんの格闘性能は私達より上よ。私でも単独で後ろを取るのは難しいわ……」
「いい? 真っ向勝負はダメ、一旦後方に離脱してチャンスを伺うのよ」
「ああ……わかったよ……」
「っ……また……まただ……こんな翼じゃ……」
地上から見ていた空見は愕然とし続けていた。まさかあの三二型が単独で負けるなんて思ってもいなかったからだ。
「空見さん、私達のチームを舐めてもらっては困ります。今回は勝たせてもらいますよ」
あれほどフランクな様子だった加藤機長の目は真剣そのものだった。その変貌ぶりは、まるで他人ではないかと思ってしまうほどだ。
――さらに隼隊の劣勢は続く。
「食らえ!」
五二型が本田ki61に攻撃を仕掛ける。20mm二号銃で攻撃を仕掛けようとした、その時。
「っ!? しまった!」
本田に集中しすぎて、カバーに入った橋本ki44と佐藤ki100に気づかなかった。二人の強力な12.7mm弾と、20mm弾が五二型を襲う。
「くぅぅっ……!」
空戦フラップが飛び、エンジンを撃ち抜かれ、燃料タンクに引火して火が出た。防弾装備によって辛うじて耐えていたが、どう見ても大破寸前だった。
「隊長さん! 大丈夫ですか!?」
「ううっ……なんとか……消火装置は作動した……!」
自動消火装置によってなんとか撃墜を免れた五二型。だか依然として追撃の手が迫っていた。
「リーダーを落として指揮を混乱させるよ!」
「了解!」
セカンドエアフレームとは思えない実力に、烈風の翼が恐怖で動かない。
「た……戦わなきゃ……隊長さんが……! でも……でも……」
部隊の窮地に空見機長は苦い顔をして空を見ていた。
(どうする……? 早く指揮を出さなくては……だがどうやってこのフェアリーたちを攻略すればいいんだ……!)
頭の中で必死に打開策を模索する。今このチームにある強みを、どう活かすか。
すると、空見機長はハッとした表情をしたと思いきや、すぐに無線で全員に指揮を下した。
「みんな! 高度と速度優位を取って『一撃離脱』を心がけろ! 格闘戦は相手の思うつぼだ!」
「五二型と三二型は互いにサポートして敵の注意を引け! 無事な二一型と烈風は速度と高度優位を取った後一撃離脱戦術で敵を各個撃破せよ!」
「……了解!」
「……わかった……お前を信じるぞ機長!」
機長の指示で五二型と三二型が固まって飛行する。弱った敵を狙う絶好のチャンスとばかりに64部隊のスカイフェアリーたちは二人に向かっていった。
「チャンスよ! 仕留めなさい!」
一式戦も二人を撃墜しようと背後を狙う。エンジンに被弾した五二型は速度が落ちて追いつかれそうになっている。
「……これで終わりよ!」
一式戦が機銃を撃とうとした、その時――
「こっちのセリフだ!」
(ガガガッ!)
「きゃーっ!?」
どこからともなく飛んできた機関砲に、一式戦の飛行ユニットが粉砕された。一式戦は撃墜され、パラシュートで脱出する。
「嘘……やられた……!? この私が……!?」
唖然とする一式戦。それは加藤機長も同じだった。
「みんな! 落ち着いて! 自分の得意な状況に持ち込んで!」
加藤機長が必死に指揮を取る。しかし一撃離脱に徹した二一型と烈風は格闘戦には乗らなかった。
「こうなったら……追いついて落とすしか!」
佐藤ki100が二一型を追いかける。五式戦闘機のユニットを装備する彼女なら、二一型に追いつける。その判断は正しかった。
――だが烈風がそれを許さない。
「しめた!」
「なっ……!?」
二一型を追っていた佐藤ki100の背後を烈風が取る。すぐさま20mm機関砲と13.2mm機銃を掃射した。
「ぐわぁーっ!」
翼がもげ、佐藤ki100は撃墜された。海に落ちたユニットが大きな水飛沫を上げる。
「シャーッ! やってやる!」
残る本田ki61と橋本ki44に三二型が襲いかかる。二人はヘッドオンしてくる三二型目掛けてありったけの弾幕を形成した。
「っ……おりゃぁぁぁ!!!」
三二型も負けじと機関砲を射撃する。両者の弾が交差し合い――勝敗を決した。
「……ここ……までか……」
三二型は本田ki61を撃墜したものの、橋本ki44を撃ち漏らして撃墜されてしまった。
――だが
「後は頼んだぜ……五二!」
「はあああああっ!」
「嘘でしょ!?」
橋本ki44にボロボロの五二型が集中砲火を浴びせる。たちまち飛行ユニットは火だるまになり、橋本ki44はパラシュートでユニットと分離した。
「そんな……逆転された……!?」
「開いた口が塞がらない加藤機長に、空見機長が歩み寄る」
「……加藤機長、対戦ありがとうございました。私たちの勝利です」
「ふっ……面白いわ。不思議ね……」
「目指すべき機長の姿が、見えたの。やっぱりあなたが……運命のライバルってことかしら?」
「さあ? どうでしょうね」
隼隊の五二型、二一型、烈風が滑走路に着地した。五二型はすぐに訓練用飛行ユニットの整備を整備士に頼んだ。
一方、海上に待機していた救助隊は撃墜されたスカイフェアリーたちを回収していた。
「くそ~悔しい! あんなやつらに負けるなんて恥だわ!」
「あんなってなんだよあんなって!」
「うへぇ……先輩すみませんでした……」
三二型と一式戦が言い争っているのが、なんだか微笑ましく感じられた。
――辛くも勝利を収めた隼隊と空見機長。ただ同時に、皆は自分の実力不足を痛感していた。