第3話「空の侵略者(アグレッサー)」
――透き通る青空を、妖精たちは飛んでいた。
アグレッサーの戦闘機編隊を迎撃するべく、隼隊は周りを注視して飛行していた。
「こちら機長より隼隊へ、予測接敵地点までおよそ15km。各隊員警戒されたし」
力強いエンジンの音が、空に響いた。隼隊は4人一組となって編隊を組んでいた。その後ろを機長が乗った一〇〇式司偵が追跡している。
すると機長に無線が入る。
「本部より機長へ、敵アグレッサー編隊をレーダー捕捉、目標地点より近い場所です。あと数分で接敵する模様」
「了解。機長より隼隊へ、予想接敵地点が想定よりも近くなった。直ぐに戦闘態勢へ移行できるよう警戒せよ」
「隼隊、了解」
「しかし爆撃機ではなく戦闘機が来るとはどういうことだ……? 街を襲うなら不適なはずなのだが」
二一型が思わず疑問をこぼすと烈風一一型が口を開く。
「きっと我々の戦力を削ろうとしてるんじゃないんですね……? 街中を軽く機銃掃射して、やってきた私達を倒す、みたいな」
「ふっ……バカな野郎だ、私達を舐めてかかるやつはぶっ潰してやるぜ」
三二型はやる気に満ち溢れていた。
皆、武者震いをして戦闘に備えていた。機長も管制機から彼女たちの姿をモニタリングし、指揮に備えていた。
――その時。
「11時の方向、敵機確認! 実機型戦闘機アグレッサー、6機が2編隊で飛行しています!」
黒い機影がやってきた。その形はまさに戦闘機そのものの姿であるが、コックピットにパイロットが乗っているようには見えない。
何かに引き寄せられるように、街を目指してひとりでに飛んでいた。
「これが……アグレッサー……!」
機長はモニター越しに、アグレッサーの機影を見て戦慄した。
「……F4Fワイルドキャット及びF4Uコルセアの姿をしています、最近の目撃例が多い機体ですね」
一〇〇式司偵は冷静に敵機を解析していた、機長は即座に隼隊へ迎撃命令を下す。
「隼隊! 敵機を迎撃せよ!」
機長の号令を聞くと、4人は編隊から離散し一斉に敵機へ襲いかかった。
「……落ちろ!」
五二型が手始めにF4Fのアグレッサーに20mm二号銃を撃ち込んだ、高威力の機関砲に敵機はたちまち火だるまになって撃墜される。
「やるわねごーちゃん! さて……『ゼロファイター』の力、思い知らせましょうか」
二一型も回避しようと曲がったF4Uに食らいつき、後ろを取ると7.7mm機銃でフラップを飛ばしバランスを崩してから、トドメに20mm一号銃をプロペラへ正確に射撃した。二号銃より弾道が垂れる一号銃を難なく扱う二一型の技量の高さが垣間見える。
敵機は混乱しているようにも見えたが、すぐに残りの敵機が反撃をしてきた。とてつもない数の12.7mm曳光弾が、流れ星のように空を輝いてスカイフェアリーたちに襲いかかる。
「全機回避して格闘戦に持ち込むんだ! 旋回性能ならこちらが上だ!」
機長が無線を使い、スカイフェアリーたちを指揮する。初めての戦闘指揮ながら、冷静で的確な指揮だった。
「へっ……言われなくともわかってるぜ!」
「三二型さん! 一緒に連携しましょう!」
「ふん! 好きにしろ!」
三二型と烈風が2人で弾幕を避けながら敵機の中へ突っ込むと、2人で1機を追い詰めて行く。敵機は必死に逃げ回り、近くのアグレッサーも救援しようと2人を狙うが、五二型と二一型がそれを許さなかった。
「お願い……当たって!」
烈風が20mm機関砲と13.2mm機銃を一斉に掃射する。圧倒的な火力に敵機はたちまち粉砕される。
「よし! 倒せた……!」
緊張していた烈風は少し安心し、気が緩んだ。
――その時。
「烈風! 危ねえ!」
「え? きゃぁぁぁ!」
F4U型アグレッサーが隙をつき、烈風に向かって機関銃を射撃した。飛行ユニットの翼に数発被弾してしまい、体勢を崩してしまう。
幸いまだ飛べそうだが、さらなる追撃が迫っていた。
「やりやがったなこの野郎! うちの仲間に何しやがる!」
激怒した三二型は烈風を攻撃したアグレッサーを猟犬の如く追いかけ、疲弊した瞬間を見逃さずに機関砲で射撃する。
敵機の翼がもげ、火を吹いて落ちていった。
「おい! 大丈夫か烈風!」
「ぅ……大丈夫です! まだ飛べます!」
「ったく油断するんじゃねえよ! 気を抜くな!」
「うぅ……ごめんなさい……!」
三二型の言葉は厳しかったが、その裏には仲間を想う優しさが垣間見えた。
「残り半分! このまま押し切るんだ!」
機長の声に隼隊の闘志が燃える。
「烈風は牽制しつつ隙を見て援護射撃、残りはそのまま格闘戦でねじ伏せろ!」
指揮を受けて最後のトドメと言わんばかりに、スカイフェアリーたちは総攻撃を仕掛けた。
負傷した烈風を除き、零戦三姉妹がひとり1機ずつ後ろを取ろうとする。
「っ……」
しかし乱戦によりF4Uに背後に着かれてしまう五二型、だが彼女は焦らず冷静に対象した。
「甘い!」
五二型はいきなり急上昇すると、失速寸前で体を反転させ旋回した。すると、ついてきたF4Uの後ろを取ることに成功する。
「あれは……『捻り混み』か!」
第二次世界大戦中の零戦のパイロットが多用した戦法である捻り込み。それを簡単に成功させる五二型の抜群の格闘戦スキルに、機長は思わず見惚れてしまった。
「これで……終わり!」
後ろを取った五二型は、敵機をいとも簡単に調理した。
「よくやった五二型!」
思わず機長はガッツポーズを取る。まるで、自分も共に戦闘しているような気分すら感じられた。
「バッチリ撃破しましたよ、機長さん」
「こっちも片付いたぞ!」
二一型と三二型も敵機を撃墜し、敵部隊を全滅することに成功した。
「隼隊、実機型アグレッサー編隊を全滅! 戦闘終了!」
「了解! 全機帰投せよ!」
「機長さん、素晴らしい指揮でしたね!」
皆ほっとした様子で基地に向かって舵を切った。しばらく飛行し、スカイフェアリーたちが滑走路に着陸する。
「ランディングギア展開! 着陸する!」
足の辺りに格納されていたランディングギアを展開し、滑走路を滑走して着陸した。
すぐに整備員が駆けつけ、ひとりひとりのユニット状態を把握する。
「烈風さん、ユニットの損傷は?」
「翼に被弾しましたが……軽く穴が空いた程度ですね。エンジンも無事ですし軽い修理で済むと思います」
「よかった……すぐに作業に取りかかりますね!」
「おーい! 司令偵察機が着陸するぞ!」
機長を乗せた一〇〇式司令偵察機が少し遅れて滑走路に着陸した。司偵が停止すると、機長が降りてくる。
「みんな、お疲れ様。すごい戦いぶりだったよ! 聞いてた通り、真のエース部隊だ」
「そ、そうですかね? ありがとうございます……!」
52型は少し照れくさそうに頭をかいて笑った。
「ごーちゃんもみんなも、よく頑張ったわ。流石ね」
21型も、ベテランとしてみんなの頑張りを褒めていた。
「まぁ……アンタの指揮もそんなに悪くなかったぜ」
「ええ、機長さんの指揮のおかでてすごく戦いやすかったです!」
三二型と烈風が口を揃えて話す。
「はは……そうかな? そう言ってもらえると嬉しいよ」
――初陣を見事に飾った機長。これから、どんな物語が彼を待っているのだろうか。