第2話「ゼロと隼」
――機長はミーティングルームの扉を慎重に開け、中に入った。
部屋にいたのは、学園の制服を着た4人のスカイフェアリーたち。
皆、凛々しい姿で並び、やってきた機長を迎えた。
「機長さん、はじめまして。わたしたちは第43局地戦闘機部隊『隼隊』です」
落ち着いた雰囲気の、深い緑色の髪の子が前に出て話し始める。
「私は隼隊隊長の『零式艦上戦闘機五二型』です。名前が長いので零戦五二型と呼んでもらえると嬉しいです。どうぞよろしくお願いします」
「私は機長の空見だ。駆け出しの新米機長だが、よろしく頼むよ」
ふたりは軽く挨拶を交わした。
「さて……それでは二一姉さんから順に自己紹介をお願いします!」
零戦五二型が隊員たちに勧めると、ひとりひとり自己紹介を始めた。
「こんにちは、姉の零戦二一型です。機長さん、これからよろしくお願いしますね」
「……零戦三二型だ。はぁ……自己紹介とかめんどくせぇな……」
「烈風一一型です……! 機長さんに認められるように精一杯頑張ります!」
みんなかつての日本を代表する、個性豊かな子たちだ。
しかし4人のうち3人が零戦とは思わなかったが……それに局地戦闘(迎撃戦)部隊と言っていたが、みんな局地戦闘機ではなく制空戦闘機なのも少し変だ。
「あの、ひとつ聞いていい? みんな制空戦闘機だけど……本当に局地戦闘専門なのかい?」
疑問を五二型に問いかけてみる。
「ああ、それですか? 実はこの部隊は増加するアグレッサーの脅威に対応するために急遽編成された部隊なんです」
「本来は迎撃が得意な局地戦闘機の子が適任なのですが……人手が足りないので我々が担当しているんです」
「なので名前は局長戦闘部隊ですが、実は制空戦の方が得意だったりするんです。実際色んな任務に就いてるので……」
「そうなんだ、なるほどね」
機長は納得した様子を見せた。
「では機長さん、早速訓練の方に……」
(ビーッ!ビーッ!)
五二型の言葉を遮るように基地内にサイレンが響き渡る。機長は突然の事態に動揺を隠せなかった。
「緊急! アグレッサー戦闘機編隊が市街地上空へ接近中。迎撃部隊は即座に緊急出動せよ!」
アナウンス基地全体に響き渡り、途端に騒がしくなる。
「ごーちゃん、スクランブルよ!」
先ほどまで柔らかい印象だった二一型の目が変わる。するとミーティングルームに一〇〇式司偵が駆け込んで来た。
「機長! 現在スクランブルできる部隊は隼隊のみです! いきなりの初陣ですが……飛んでください!」
「はい……! わかりました!」
「みんな! きっと、精一杯やってみせる……だから見ていてくれ、私の指揮を」
「もちろんです機長さん! 貴方が頼りです、頼みますよ!」
隼隊と機長は急いで飛行場へと駆けていった。機長はなんと、復元された実機の一〇〇式司偵に搭乗することになった。
どうやら搭乗機体はスカイフェアリーと同じ年代の飛行機でないといけないらしい。スカイフェアリーの一〇〇式司偵も機長と一緒に乗り込んだ。
「機長、司令部からの指示もあります、落ち着いて指揮をしてください」
「わかりました!」
隼隊の面々も、準備を進めた。実機の姿をした飛行ユニットを背負い、戦闘服に着替えた。4人が並んで滑走路へ向かう。
「ふっ……いい暇潰しになりそうだぜ、あのひよっこ機長の腕前も知れるしな」
「三二、油断しちゃダメよ。みんな気を引き締めて」
「はぁ……二一姉はうるせえなぁ……おい烈風、ちゃんとやれよ」
「は、はい! 私……頑張ります!」
「こちら零戦五二型、隼隊出撃準備完了。離陸許可を」
五二型が管制塔へ許可を求める。
「了解、離陸を許可する。隼隊、出撃せよ!」
「……隼隊、出撃!」
許可が降りると、全員飛行ユニットのエンジンを始動した。プロペラの風で髪が揺れる。頭上で回るプロペラの残像はまるで天使の輪のようにも見えた。
滑走路に並んでいた4人が順番に駆け出し、地面を蹴って加速していく。スピードに載ると、体がふわっと浮いて空へ舞った。
「機長、指令をお願いします」
「……一〇〇式司偵、出撃!」
機長の指示で大きな機体が動き出す。美しい翼が風を切り、徐々に空へ浮かんだ。遠ざかる基地からは、整備員たちが帽子を振って見送ってくれていた。
あっという間に、隼隊と機長を乗せた偵察機は空の彼方へ消えていった。アグレッサーの予想航路までそう遠い距離ではない。
――アグレッサーとの初戦闘、機長は高鳴る鼓動を押し殺していた。