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第4話:転生の天使、初配信する

 

 『では、改めて自己紹介をさせていただきます』


 青紫色の天使は配信画面の右下、Vtuberの定位置と言っていい場所へ移動して画面を切り替える。

 画面は弊社の天使、月屑(つきくず)リインのプロフィールを映し出す。


 名前:月屑リイン 

 役職:Vtuber転生支援サイト正社員 広報担当

 種族:天使

 年齢:1071歳  身長:159cm 体重:社外秘

 出身:バーチャル天道




 こうして実際に配信で立ち絵を出してみると、三日月型の光輪や白い羽は綺麗だがこういう時背景の邪魔になってしますうことが分かった。時間もなく今回は最初の設定画そのままデビューしたが、光輪と羽は格納できる設定にして差分を実装してもらった方がいいかもしれないな。




 『わたくし、月屑リインはVtuber転生支援サイトに所属しておりまして、広報の担当になります。弊社は名前の通り、Vtuberさんの転生、皆様で言うところの転職をサポートしております』


 コメント欄では「最近○○が転生したのも裏で糸引いてる?」「諸悪の根源」「推しを返せ」等好き勝手にコメントされている。その他あまりに目に余るコメントはモデレーターの俺や彼末さんで処理していく。

 月屑リインはコメントの中から無難なモノ、配信を進めるにあたり都合のいいコメントを拾っていく。流石に経験者なだけあってスムーズだ。


 『あ、月屑(ガチクズ)ではなく、月屑(つきくず)です。よろしくお願いいたしますね』


 誰だそんな読み方思いつてしまった奴!どうする、消すか!?

 俺は中の人、来生さんの様子を確認する。表情は少し硬く緊張がうかがえるが、あえて自ら話題にしたくらいには平気そうだ。PC画面に視線を戻そうとして、同じく来生さんの様子を見ていた彼末さんと一瞬目が合う。彼も同じ判断のようだ。


 『そうです、Vtuber転生支援サイトというのが正式な社名でして、Vtuber転生支援サイトのホニャララ……というわけではないんです。そのまんまですね』


 覚えやすくていいだろう?「それ正式名称だったのか」「通称だと思ってた」などコメント欄は困惑気味だが。



 『好きなものと、苦手なものです。こういう仕事に就いているくらいですから、やっぱりVtuberさんの配信を見るのが好きですね』


 画面は切り替わり、好きなものや嫌いなものなどを紹介する。無理なくキャラを演じられるようにほぼほぼ来生さんの趣味趣向から外れたものはない。

 意外だったのはスプラッター映画を見ることが好きだったことだな。「ストレス溜まると残酷な映像見たくならない?」と言われても、人によるんじゃないか……?グロ耐性ない人だって多いだろ。「媚びた設定よりはいい」と名付け親の順世(のぶよ)ママの了承も降りてしまった。



 『私の普段の業務内容の紹介です。広報担当ですので、当然弊社の宣伝となります。これまでは弊社のサイトにて姿だけは皆様にお見せする機会がありましたが、このように、そちらの世界の皆様の前でも動いて話せる体を受肉しましたので、今後は配信が業務の中心になるでしょう』


 月屑リインは来生六果をトラッキングし画面右下で揺れてみせ、表情をコロコロと変える。来生さんがこんなに表情を作っているのなんてじかに見たことがない。ちょっと気になるが、モデレーターの仕事に集中し見損ねてしまった。


 『これまではバーチャル世界での業務が主でした。バーチャル世界の方々に向けて宣伝をしておりました』


 画面を切り替え、ほぼ満場一致で決まった月屑リインの設定をお披露目する。転生と言えばこれしかない!といった勢いだった。


 『こちらの、転生広告宣伝車両(てんせいアドトラック)に乗って!』


 画面には荷台部分にでかでかと”Vtuber転生支援サイト”の社名と、月屑リインを描いたアドトラックが映し出される。

 転生と言えば、そう、トラック!Vtuberと言えば、それもトラックなのだ!なんでだよと思う人もいるだろうけど、どちらも通る道なんだよトラックは。

 サブカルに疎い味田はなぜトラックなのかとポカンとしていたが、今どきは女性ドライバーもいるし、時代に合っているとのことで可決された。そして広告担当のトラックなのだから、アドトラックが相応しいと決まった。

 

 コメント欄では「それで轢き殺して転生させんのかwww」「転生トラックじゃねーか!」「高収入!?」などリアクション多数。ほら見ろ味田!やっぱり皆トラック好きだよ!!


 『滅相もございません。決して、轢き殺して無理やり転生させるようなマネは致しません。誓って違います。安全運転です』


 立ち絵を調節してアドトラックに乗り込みながらコメントを拾う。

 

 『この転生広告宣伝車両(てんせいアドトラック)に乗って、新たな地で・新たな姿・新たな名前、何もかも一新して配信をしてみたい、そんなバーチャル世界の方々のお力になるべく呼び込みをしているのです』


 『今後は配信を通して、画面を見ているそちらの世界の方々への宣伝を強化していきたいと考えています。弊社は現在、初めてVtuberになってみたい方々への支援に力を入れています』


 広告担当Vtuberは本題に入る。配信開始して暫く経った今、ここらが同時接続のピークだろう。良くも悪くも注目を集めたこの配信には五桁の視聴者が集まった。ありがてえこった。何はともあれ見つけてもらわないことにはVtuberは始まらない。


 『そうなんです。そちらの世界でいう転職活動のみならず、いわばVtuberへの就活もサポートしているのです。社名が社名なので、意外と思った方もいるでしょう』


 コメント欄では「初めて知った」「転職サイトっていうより、Vtuber用の職業斡旋?」と関心を示すものも現れた。

 

 『Vtuberやってみたかったけど、どうしたらいいかいまいちよく分からなかった方。この配信でVtuberやってみたいと興味を持ってくれた方。ぜひ一度弊社のサイトをご覧になってみてください』


 配信の概要欄に記載したウチの会社のURLを案内する。


 『ただしご注意いただきたいのは、実際に弊社の転生支援をご利用の際はサイトへの登録料と転生した際の仲介料を頂戴いたします』


 後でトラブルになることを避けるためにも、まずは有料であることを周知させる。


 『こちらが大まかな料金表になります。もちろんサイトの閲覧は無料でございますが、なんとなく登録だけでも……とお考えの方はご留意いただいたうえで、お願いいたします』


 金額に関しては「高い」「思ったよりは安いか?」「周りに相談できる人いないし、ありかも」と捉え方はそれぞれだった。今日配信に訪れた中から零コンマ数パーセントでも登録してくれれば万々歳だろう。

 

 『もちろんお代金をいただく分、社員一同が誠心誠意Vtuberの方々やこれからなる方々へのサポートをしてまいります』


 コメント欄のお前ら! 俺も精一杯サポートするぞ! くすぶってたけどなんとなく勇気がない、機会がない、何していいかわからないお前ら! どうだ!? 転生してみないか!

 

 『今後は弊社の宣伝はもちろんなのですが、一般的なVtuberさんたちがやっていらっしゃるような配信もやってみたいなと考えていますので、よかったら見に来ていただけると嬉しいです』


 弊社の宣伝をひとしきり終えて、最後に月屑リインはトラックに乗車していた画面を切り替え、画面中央に立ち絵を移し配信の締めに入る。


 『皆様たくさんのコメント、ありがとうございました。誠に名残惜しいですが、時間になりましたので、今夜の配信はここまでとさせて頂きます。今後ともVtuber転生支援サイトを、よろしければ月屑リインをどうぞご贔屓に。ご利用ありがとうございました』



 こうして月屑リインの初配信は終了した。











 俺たちは事務所を閉めてそれぞれの帰路に着いた。初回ということもあり皆緊張感から解放されどっと疲れがきたため、打ち上げは満場一致でまた今度……ということになった。


 俺は最寄りの駅まで来生さんと歩いていた。さっきから無言でずっとスマホを熱心に眺めている。当然さっきの配信のネットでの反応が気になるのだろう。

 モデレーターとしてコメント欄を追っていたが、やはりアンチコメントはそれなりにあった。はっきり言ってただの誹謗中傷だ。そんなの見つけても気にするな、というか探さない方がいい、など声をかけようかと視線を向けた。


 スマホの画面の光で照らされた彼女の顔は濡れていた。静かで全く気が付かなかったが、来生さんはずっと泣いていたのだ。


 「来生さん! やめましょう、エゴサしてるなら! 見るだけ損です!」


 来生さんは俺といることすら忘れていたかのように、ハッとして涙をぬぐった。


 「なんなら、社長に言って配信もこれっきりってことに……」


 「違う、違うの。あのね、配信、勇気出してやってよかったなって思って」


 「じゃあ、なんで泣いて……」


 来生さんは一呼吸おいて、見ていたスマホの画面を俺に見せる。


 「えっと、”元気そうでよかった”……"久しぶりに声聞けて安心した"。これって……」


 「この人たち、私が以前Vtuberやってた時のリスナーさんなの。きっとネットで情報が出回って、私が月屑リインとして配信したのを知ったんだよ」


 「相変わらずの名探偵っぷりっスね。どこの誰が見つけてくるんだか」


 「私ね、前の活動でアンチの荒らしとか、仲間だと思ってた配信者に裏で誹謗中傷されてたりとかあってね。それで嫌になってVtuber止めたの。よくあることよ」


 「……よくあって欲しくねえっスけど」


 「ともあれその時に就活して、今の会社に入ったの。もう自分がVtuberやることはないかなって思ってたけど、この前此川君言ってたじゃない?””って」


 「ああ、そのまま週の目標にされちゃったやつ」


 「私の以前のリスナーさん達も、もしかしたらそんな風に私のこと考えてくれてないかなって。どんな形でも私の声を届けたら、喜んでくれるかなって思えたの。それで、今回勇気を出せた。実際、また私のこと見つけてくれて、喜んでくれてる」


 界隈のオタクであるつもりだが、全ての配信者を見つける、追うなんて出来ない。俺は来生さんがどんな配信をしていて、どんなふうにファンと別れたのか知らない。だから配信者にとって、ファンにとって、どの選択がベストだったかかは分からない。

 でも俺も、来生さんのファンと同感だ。推しが元気でいること、無事でいることが一番だ。


 「だから、ありがとう此川君」


 来生さんは、そりゃあ天使のようなお声で俺に礼なんか言ってくれた。すまんファンの皆。だがこれは役得というものなんだ。これからウチの天使さまを全力でサポートするから、許しておくれ。










 

 それからの弊社の宣伝担当Vtuber月屑リインは毎週金曜日に定期配信を行い、動画の配信も行った。再びVtuberとして配信するのに慣れてきた来生さんはありのまま、奔放に配信できているようだ。

 有志により切り抜き動画なんかも作られるようになり、バズっているようだ。どんな内容かって?


 美しい声とはギャップの激しい罵詈雑言を放つ”月屑リイン、ガチクズムーブ集”だよ。

 前世でアンチがいたの、これのせいじゃないか? 俺たちはとんでもない堕天使を再臨させたのか?

 


 

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