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第六話 王の子落とし

「父上!早急に煌めきの乙女を探すべきです!」


 王城にて、王子が王に進言する。この国の第三王子、モーント・リュヌ・フェンガリ王子だ。勇者の一人で、ゲームのメインヒーローでもある。金色の髪に碧色の目という在り来りな見た目で、第三王子にしては赤く煌びやかな衣装を纏っている。

「先日の爆発、魔王の仕業であるに違いありません!このままでは人類は滅ぼされてしまいます!」

「分かっておる」

「なら!」

「落ち着けモーント」

 威厳ある王の姿にモーントは口を閉じた。刺さる様な眼光は冷たくモーントの心を抉る。

「時が来れば必ず乙女の方から現れる」

「そんな悠長な…!」

「ならばお前は誰が煌めきの乙女か分かるというのか。見つけてきた者が絶対に煌めきの乙女であると証明出来るか」

「それは…」

 文献には『百年の澱みより魔の王が出でて星を喰らう。魔王顕現せし時、天に選ばれし煌めきの乙女が十三の勇士と共に闇を祓わん』と書かれてはいるが、魔王が具体的にどういった存在なのか、煌めきの乙女の証はあるのかも分からない。百年前に勇者として選ばれた男の日記は残っているが、所詮は日記なので煌めきの乙女への恋心やら旅先で何が美味しかったという内容が主だ。有益な情報は、勇者は強力な武器『神器』を手にする権利を得られるという事くらいだろうか。せめて魔物との戦いくらいは具体的に書かれていれば良かったのだが。後世に遺す為のものでは無かったようなので贅沢は言えない。

 天に選ばれる煌めきの乙女は一人なのか。途中で亡くなった場合、新たに煌めきの乙女は選ばれるのか。十三の勇士は、天が選ぶのか煌めきの乙女が選ぶのか。何も分からないのであれば、確かに王の言う通り待つのが正解なのかも知れない。

 結局モーントはそれ以上何も言えず項垂れる。その姿を見て「第三王子とはいえ、王の器ではないな」と静かに王は落胆した。

「それよりも問題なのは、スラム街だ」

「スラム街ですか…?」

 王は大臣に目線を送り、説明するように促す。大臣は深く頷き、スラム街の現状と問題について説明を始めた。

「不衛生さからの悪臭と疫病の発生、王家に不満を持ち歯向かう反逆者共、新型薬物の流行から大規模の掃除が必要だということが決定されました」

「お前にはその掃除を指揮して貰う」

「掃除の指揮ですか…?」

 掃除など使用人や奴隷に任せればいいのではと王子は困惑し首を傾げる。正しく意味を理解していないことに王は気付いていたが「期待しているぞ」と王子に退出を促した。王子は頭を下げ、部屋から出て行った。

 王子が出て行ったことを確認し、王は大きく息を吐いて額をおさえる。王の様子に大臣は「よろしかったので?」と訊ねた。

「何がだ」

「教えて差し上げなくて」

「自力で気付く事も必要だろう。全て答えを示しては、成長せぬ」

 王なりの不器用な愛情だった。モーントの王位継承権は第三位。第一王子や第二王子よりも甘やかして育てた自覚はある。だが無能では、いつ周りに担ぎ上げられ利用されるか分からない。平等ではなくともある程度の教育を施すのは必要だと考え、今回の件をモーントに任すことにしたのだ。

 それが我が子を谷底に落とすどころか、奈落へと突き落とすことになるとは王も思ってはいなかった。

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