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My Nightmare~Last Loaring~  作者: Avi
奪われた御伽噺
3/21

金色の影

〈ドシャァッ!!〉


重傷をおし、背にベイカーを背負っての飛行


何度もぐらつきながらも耐え

痛々しい羽音をたてながら数十分ののち、とうとうロワールは墜落するように地に落ちた


背に乗っていたベイカーに配慮してくれたのか、地面に衝突寸前、力を振り絞り速度を緩め数メートルの高さから放り出されたもののベイカーが傷を負うことはなかった


「ロワールッ!!」


慌てて、ロワールに駆け寄りその羽毛に手を当てると弱々しい拍動が小さく伝わってきた


ちらと南を見ると、もう港町サウス・リームは視界に入っている


「こんな身体で…こんな速度でよく、俺を運んでくれたね…」


巨体から元の鷲のサイズに戻った、というより大型の悪魔のサイズを維持できなくなったロワールを抱え上げるとそのまま港町へと駆け出した


そして、数分駆け

港町サウス・リームに入るとベイカーは巡回していた衛兵の1人に声を掛けた


「なぁ!奏国行きの船は!?」


息を弾ませているベイカーに多少驚きながらも衛兵は


「あ、ああ、ほら、あれだよ。間もなく出港のはずだから急いだ方がいい」


と指さし教えてくれた


「それと、この鷲預かっててくれないか。ルベリオ国王の友達なんだ、すぐに王都から迎えが来るからそれまででいい」


ルベリオから預かった皮袋の中から、ルベリオの署名入の書状を取り出し見せながら言った


そこにはベイカーの公国内での行動に協力を促す旨が綴られている


「国王の!かしこまりました!責任を持って保護させて頂きます」


「頼むよ、あとできるなら治療できるよう手配もしてやってくれないか」


ロワールを手渡し、去り際にもう一度羽毛に手を添えた


「ほんとに助かった、また改めてお礼させてくれ!」


〈…ギィ〉


とか細い返事を聞くとベイカーは振り返り貨物船へと向かった。



________________



同刻 ルグリッド公国 王都内 王城


ルベリオは王室にてリーダ、イグダーツと共に思索を巡らしていた


王都内の様子を見て回っていた元右大臣 現在は大臣となり職を果たしているイグダーツも王城に戻って事の情報を整理しているところでもあった


「王都内は一区から四区まで目立った人的被害は見られませんでした、兵士含め数人が軽傷ではありますがこの規模の悪魔の襲撃からすると善処できたのではないかと思われます。また、周辺の地域への被害状況も現在兵を派遣して調査中です。」


「それならばひとまずは安心していいのでしょうけど、ミザリーが攫われては…」


ルベリオは一瞬安堵したものの、やはり家族への心配を押し隠すほどには取り繕えない


幼い頃から仕えてきたイグダーツにも、それは充分に伝わっている


イグダーツにとっても亡き友ハーディンの娘である。その気持ちを計り知ることはできる


「ベイカーが必ず連れ帰ってくれます。3年前も、彼は約束を果たしたし…充分力を備えても来たでしょう」


リーダが落ち着いた声でルベリオを励ます


皆が皆、ミザリーを心配しているのだ

その気持ちをお互いに分け合いながら、それぞれが冷静になり始める


「しかし、ミザリーさんが危機的状況であることは間違いないが彼女も只者ではない。不慮の事件で目覚めたりする可能性はあるのでは?」


イグダーツがリーダに意見を求める


そもそもが公国や武国、護国での事件をその戦闘力で打開してきたミザリーが、おとなしく捕まったままでいるはずがないのでは


という疑問をイグダーツが持ったのはもっともである。


「ベイカーが言うには、ミザリーはいま命と魂が繋がっていない状態なんです。

〈魔女の檻〉〈ナベリウス〉の強烈な悪意を帯びた魔力と生きている状態で繋がることがどんな悪影響を及ぼすか分からない。

だから生命活動を止め、魂が…アリスがその魔力を濾過している最中。だからミザリーには外の世界の状況は全く届いていないんだと。


そして、魂と命を再度リンクさせるスイッチとして定めたのが「ベイカーが起こす」ということ。」


「…つまり、それが成されるまではミザリーさんが目覚めることはないと。しかしそれではやはり敵の目的が見える見えない関わらず危険な状態だということですね」


イグダーツも顎に手をやり、今後の展開を読もうと思索する


「魂と命が繋がってこそ居ませんが、ミザリーの中にはフェンリルが…アリスの意思があります。万が一の時は、防御行動を取ってくれるはずだとも、ベイカーが言っていました」


「そうか、ベイカーが追いつくまでにその防御行動で持ちこたえてくれさえしたら…よし!」


憂うよりも行動を起こす

ルベリオは机中に紙を広げると、ペンを手に取る


「ベイカーの行動をサポートできるように奏国に書面での協力要請を行いましょう。…まだ敵の正体も分かりませんが、公国のベイカーが奏国で動きやすいように…」


「敵が奏国の人間だとしても、その書面への反応で多少は何かを読み取れるかも知れないということですね。早急に届くよう、手配して参ります」


イグダーツが足早に王室を出ていくと、ルベリオは書面の内容を考えながら少しずつ綴り出す


「国王はバリオール奏国の関与に関してはどうお考えですか?」


「そうですね…2年前にお会いした印象では、奏国王はなんて言うか、強さも知恵もあり何処か掴み所のない感じもありますけど、良くも悪くも表裏のない…それでも悪事に関与するような人物ではないと思います」


「であるならば良いのですが…万が一敵であるとすれば…」


「ええ、恐らく彼女は…女帝ナルスダリア・エルリオンは非常に手強い存在になります。」



________________



その2時間後、ベイカーは船の甲板でその行先をじっと見つめていた


ルベリオの書状により問題なく船に乗り込むことができ、多少ではあるが予定より早くの出港を果たすことができた


それでも数時間程度の時間差は埋めがたい


バリオール奏国に向かったのが分かってはいても、着港した後の行先は想像だにできない


あの黒い馬車が人目に触れる事はもちろんあるだろうが、それでもできるならば記憶の新しい内に聞き込みをしたい


焦りという感情はどうしてもベイカーへ張り付いて離れない


ミザリーを奪い還すまでは


「…」


ちらとベイカーは肩に背負った剣を見る


ダイバーエース


刀身にもその名が刻まれている


Diver A


そのAという一文字には友の、想いと約束を載せて刻み込んだ


「わかってる…俺が奪い還す…俺が守るよ、アーサー…」


ベイカーは自身に言い聞かすように

今はただ堪えるようにもどかしい船の進みに身を任せるしかなかった


バリオール奏国へはまだ一日半以上はかかる。今後どうなるかわからない以上、今休息を取っておこう。

ベイカーは逸る気持ちに言い聞かせながら船室に戻り休むことにした


すれ違った船員に、奏国が見えたとき起きて居なかったら叩き起こしてくれ、と頼み

ベイカーは船室に入るやいなやベッドに身体を投げ出し目を閉じた


「(やっと…守れると思ったのに…)」


息を一つ二つして呼吸を整えると、程なくしてベイカーは眠りにおちた


__________________



夢の中、ベイカーは17年の前の記憶を辿っていた


幼いベイカーが、ミザリーというお転婆の少女と遊ぶようになりひと月ほどが立った日の事


ベイカーはその先日の約束通り、ミザリーの家へと向かっていた


今日は雨が降りそうだと、ならば家の中で遊ぶしかないというミザリーの提案だった


遊ぶ舞台にベイカーの家ではなく自宅を選んだのは、ベイカーの祖母への気遣いだろう


そんな訳でベイカーはどんより曇った空を見上げながらミザリー宅へと歩いていた


数分歩いて辿り着いたミザリーの家の庭先では、金髪をゆるく編んだ女性が薪を抱え上げていたところだった


「あ、アリスさん。おはようございますっ」


小走りで駆け寄るとミザリーの母であるアリスは笑顔で迎えてくれた


「おはようベイカー、降り出す前に着いて良かった。入って入って」


と片手で扉を開けベイカーを中に促す


ミザリーと同じく稀有な金髪を揺らす姿はしなやかで柔和な、まさしく大人の女性


アリスを見る度ベイカーは


「(ミザもこんな風になるんかな…想像つかないや)」


と思っていた


挨拶をしようと、扉をくぐった瞬間に声を出そうとしたが見渡してもミザリーの姿は無い


「あれ?…ミザは?」


薪を暖炉の傍らに下ろしていたアリスが奥の扉を目で示す


「朝ご飯食べ終わって着替えに戻ったっきり、天気が悪いといつもこうなの」


「寝てるの?自分が呼んだくせにミザってば」


やれやれと奥に進むとベイカーはミザリーの部屋の扉を開ける


そこにはベッドの上で猫のように身体を丸めて寝ているミザリーの姿があった


着替えこそ終わっているようだが、ベッドのど真ん中に位置しているあたり寝るべくしてそこにいるのだ


「…寝かしとくほうがいいのかな?」


小声でアリスに尋ねると、アリスは顔を横に振った


「起こさないと文句いうわよこの子は、朝ごはん食べてる時から今日はなにしよっかなーってうるさかったんだから」


なんとなくそうなんだろうなというイメージは浮かぶ


ベイカーは向き直ると


「起きてよミザ、来たよー」


と声をかける。が反応はない、スーッという寝息が返事の代わりに聞こえてきただけだ


「ベイカー、ミザリーは触れなきゃ起きないの。ほっぺたに手を添えて声かけてみて」


「えー?ホントかな…」


仕方なくベイカーはミザリーに近寄るとミザリーの白い頬に手を添えた


「ミザ…うわぁっ?」


起きてよ、と言葉を続けようとすると急にミザリーの目がパッと開いたのでベイカーは思わず驚いてしまった


お構い無しにミザリーの開いた瞳がベイカーの姿を捉えるとミザリーはむくりと身体を起こした


『やっとお出ましね!待ちわびて寝るとこだったわよ』


「寝てただろきみ…驚きの目覚めの良さだよ」


『なんか天気悪いと嫌んなるわよね…そういうことよ』


頭の中に疑問符が浮かび、後ろを振り返りアリスに説明を求めるもアリスも笑って首を傾げるだけだった


「…まいっか、で?なにするんだよ、ミザ」


『それを考えるのよ』


「あぁ…そうかい」


とミザリーにせっつかれながら居間に戻るとき、ポタポタと雨音が聞こえ始めた


『あちゃー…ホントに降ってんの』


いざ雨が降ると悔しそうにベイカーの背を指先で叩き始める


「まったく、寝起きの割に元気だね。」


『ん?まぁ天気悪い割には良い目覚めだったわね!』


_________________


と幼い頃の記憶も一段落ついた頃

ちょうどベイカーは船の揺れで目を覚ました


船室の中は真っ暗闇で、時間感覚が正確には掴めないがまだ目的の港には着いてないようだった


「だいぶ寝たような…気がすんだけどな。」


身体を起こすとすぐに部屋を出て甲板へと向かった


部屋を出るとほの暗い

だが通路から見えた空が白けて来ていることから朝方だということが分かる


ちょうど寝る前に言付けた船員とすれ違った


「ああ、起きられましたか。あと1時間ほどで着きますよ」


ということは丸1日と何時間も寝ていたのか、と呑気な時分に驚きつつも


寝れる時に寝る、気力を持つべき時に持てるように、という三年間の修行中散々聞いた言葉をふとと思い返した


「(よし、港町ポーリーについてからが本番だ)」


ベイカーは甲板の端に座り込むと、ゆっくりと身体を伸ばし始め徐々に身体を起こし始めた



そして、みっちりと準備運動に時間を取り船員が用意してくれた簡易ながらも量のある食事を腹に詰め込んでいると


ついに港町が目と鼻の先にまで船と接近する


「ありがとうございます、世話になりました!」


逸るベイカーは船員が船と港を渡し板で繋ぐ前に船のヘリから港へと飛び移った


〈ザッ〉


と着地と同時に辺りを見回す

公国の港町サウス・リームに雰囲気は似ているが早朝ということもあり人影はまばら、それも船員などの姿しか見当たらない


「(人が居なさすぎるな…)」


港では聞き込みできる可能性は薄そうだと感じたベイカーは、宿屋や商店の並ぶ町並みの方へと歩き出した


しかし、やはり人影は見えない

予定より早く船が着いたことが逆に仇となったかと


それでも人を探そうと路地のほうにまで足を伸ばした時、なにか物音が聞こえた


角を曲がった先からだ


「やっと話が…」


と足を向けたとき、物音の異質さに気づいた


すぐに走り出し角を曲がると

女性の後ろ姿が見えた


だが一人ではない


その目の前、魚人のような悪魔と向かい合うような形で立っていたのだ。


今にも飛びかかりそうに足で地面をかいている悪魔に襲われそうになっている


そんな時だと言うのにベイカーはほんの一瞬、その女性のバンダナのような布を巻いた頭

その後ろでくくられている金色の長い髪に目を奪われた


正確には目を奪われた、というよりは思い出したではあるが


「なんだ…来るなら来いよ…」


不意にその女性は悪魔に対して声を発した

よく見ると悪魔に向けた手には30cmほどのナイフのような刃物を握っていた


だが、その気概には似つかわしくないようにその手は小さく震えている


〈ジャァァッ!!〉


砂を擦り合わせるような声を発しながら悪魔が飛びかかってくる


女性は気圧され一歩後ずさった


同時に女性の背後からベイカーが飛び出し、剣を振り上げカウンターよろしく弾き飛ばす


〈ジャァッ!?ジャ…〉


何が起こったか分からないように悪魔は慌てて体勢を立て直しこちらを睨む


「睨まれたってな…邪魔してんのはそっちだろ」


ベイカーの言葉に更に激怒したのか


〈ザッザッ!〉


と激しく砂を足で擦ったかと思うと、四足で飛びかかってくる


スっと落ち着いた素振りで剣を構えると


〈ドシャッ!!!〉


と飛び込んできた悪魔の頭部目掛けて剣を振り下ろした


勢いそのままに地面に突っ伏した魚人の悪魔は、すぐに黒ずみ結晶化し始め


そして爆ぜた


「ふぅ」


とベイカーは剣を担ぎ直す


「怪我は………?ってあれ?」


悪魔と対峙していた女性へと振り向くと

何故かこちらに背を向け、走り出しているところだった


「怖がらせたかな…ん?んん!?」


ベイカーが目を懲らす

走り出した彼女の手には何やら見覚えのある皮袋が握られている


ベイカーは自分の腰にぶら下げた鞄に手を伸ばすと、その箱型の鞄は留め具が外され、中に収められていたものが忽然と消えていた


「おい!それって!」


慌てて後を追い走り出したベイカー


その鞄に入っていたもの

今や助けたはずの女性にスられ、奪われたのはルベリオに用意して貰った当面の活動資金だ


ミザリーの行方を探るに当たって何かしらで入り用になる可能性は高い、持っていると持っていないでは捜索にも雲泥の差が生まれてしまう


つまり、どう考えても奪われる訳にはいかない


「逃がすかっ…!」


猛然と追いかけるベイカー

ここ三年の修行により運動能力には随分と自信がついている、十分な睡眠もとれ疲労はないも同然の状態だ


すぐに追いつけると思っていたが


「…っ!すばしっこいな!」


走力自体は彼女も中々のものだが、恐らくベイカーのほうが上


しかし、地の利を活かされたり体格の差を利用したルートの選定をされたりでなかなか追いつけない


早朝ゆえに人がいないことがせめてもの救いだったがどうにも埒があかない


「ん?」


と視界に捉えていた女性の速度が途端に落ち始めた


「(体力が尽きたか…よし)」


と思ったがどうやら様子がおかしい


胸を抑えて足はふらつき、なにより10mほど離れた距離からでも分かるほどに呼吸が荒い


「…おい、大丈夫かよ…?」


と声をかけたと同時にその女性は倒れた


「なぁ!どうしたんだよ!?」


すぐに駆け寄るベイカー


倒れた女性の顔は汗が浮き出ており、呼吸さえ辛そうに見えた


「くそ…ちょっと辛抱してくれよ!」


ベイカーはその女性を抱えあげると来た道を戻るルートで走り出した


追跡中に宿屋を見かけていたので

そこを目指すことにしたのだ


そして

数分後には


ベイカーは宿屋の一室で椅子に座っていた


ベッドには女性を寝かせ、とりあえずは安静にさせている


呼吸はまだ荒いがそれでも先程よりは落ち着いて来ているような気がする


〈コンコンッ〉


と扉がノックされる


ベイカーが扉を開けると宿屋の女将さんが水を張った桶と手ぬぐいを持ってきてくれていた


しかし、それを手渡しながら


「お兄さん…知り合いってわけじゃないんだろ?あんまり…関わらない方がいいと思うよ?」


と小声で囁いてきた


「どういうことです?…それより医者が居たら手配してくれませんか?」


「まぁ…お兄さんがそれでいいならいいんだけど…ちょっと呼んでくるから少し待っとくれ」


とどこか歯切れ悪く女将が部屋を後にした


疑問はあるが、とりあえずベイカーは桶の水に布を浸し絞るとそれを女性の額に乗せた


少し邪魔だったのでバンダナをズラす

橙色のバンダナに両耳には羽飾りのようなものが先に付いたピアス


整った顔立ちの女性


年頃はベイカーと似たようなところかもしれない


だがそれよりもベイカーの目を惹くのはやはり


「…金色の髪…か」


椅子に座り直すとベイカーはぼんやりと彼女の金色の髪を見つめた


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