八十話
「さて始めるか」
腹ごなしも終わると魔法で二本の棒を作り、ある程度の距離を離して地面に突き刺す。
PK勝負に使うゴール出来上がりだ。
「俺からキーパーをやりますか?」
「好きにしろ」
クライシスの提案にハスバは頷く。
最終的に勝てば良いのだ。
ゴールポストも本来の幅より広い。
勝機は十分にあると判断する。
「そうですか。いつでもどうぞ?」
クライシスはそう言ってゴールの前に立つ。
幅も広いし端に撃てば勝てると狙う。
「っ」
そして助走をつけて狙った瞬間からクライシスの体が膨れ上がったように錯覚する。
膨れ上がった体はゴールポストを覆い、どこにも撃てる場所はないように見えてしまう。
だが落ち着いてみると体がゴールポストを覆って見えたのはクライシスの止めるという気迫だということが理解できた。
それなら自分のそれに負けない気迫をぶつければ良いだけだとハスバは考える。
「いくぞ」
「来い」
狙うのは最初に決めた通りゴールポストの端。
助走で勢いをつけて思い切りボールを蹴る。
「いけっ!!」
しっかりと足に当たり踏み抜くことが出来た。
これまでボールを蹴ったことは何度かあるが、その中でも最高の感触だ。
更に狙った場所に飛んでいく。
「勝った!」
会心の笑みを浮かべるハスバ。
「甘い」
だが次の瞬間にはクライシスがボールの真正面にいて、しっかりと止められてしまった。
それを見てハスバは笑ってしまう。
最高の一撃だったのだ。
アレを止められたら笑うしかなかった。
「もう一回やるか?」
「いいや。次はお前が撃ってくれ。交互に勝負しよう」
「わかりました」
今度はクライシスが蹴る。
ボールを置いて助走距離を取る。
「ふぅ……」
相手がどこに蹴るのかわからないからハスバはクライシスの視線がどこに向いたのかに意識を傾ける。
視線が向けた場所に飛び込んで止めるつもりだ。
「ふっ!」
「そこぉ!」
一瞬だけ確かに視線を向いた場所にハスバは飛び込む。
「ぐふっ!?」
腹に想像以上の衝撃が来たが、それで止めることが出来たことを理解する。
これで引き分けだ。
まだ勝負は決まっていない。
「次は俺がキーパーですね」
止められたことにクライシスは特に気にすることなく次は決めてやろうと決意しながらゴールの前に立つ。
サッカーに関しては素人だから止められても、こんなものだろうと気にはならない。
むしろこれで止められなかったら、つまらなくなっていた。
「ふぅ……」
ハスバはクライシスの態度に思うところはあるがそれだけだ。
今は文句を言う余裕もない。
そんなことをする暇があるのなら集中したい。
「がんばれー!」
「今度こそ決めろ!」
外野から応援の声が聞こえるがハスバはどこか他人事のように聞こえる。
ただ自分の身体の隅々まで意識が渡って集中しきっていた。
「らぁ!!」
先程のシュートは生涯最高だった。
だが今回はそれさえも超えた。
「っと」
そして当然のようにクライシスに止められる。
「くそっ」
あまりに簡単に止められたせいで悔しさよりも次こそは決めてやろうという挑戦心の方が強くなってくる。
最初は腹パンされたこともあって敵愾心があったはずなのに今は純粋に超えるべき相手としか見れない。
「次は俺ですね」
「来い」
防ぐ方法は最初と同じだ。
視線を向いた方向に飛びついて身体全てを使って防ぐ。
どこかにぶつかってゴールを防げればそれで良い。
「そこっ!」
「ダメかぁ」
「しゃぁぁぁぁぁ!!」
そして、もう一度防ぐことに成功する。
例によって当たった場所が痛いが防げたことに雄叫びを上げる。
その様子にクライシスは苦笑していた。
「じゃあ次は俺が守る番ですね」
そして今度はクライシスが守り、その次はハスバが守りと繰り返していく。
「はぁ……。はぁ……。はぁ………」
ハスバは息絶え絶えになりながらも目の鋭いまま。
それどころか時間が経つ度に鋭くなっている。
「じゃあ行くぞ」
それだけでなく動きも段々と鋭くなっていて相手をしていてクライシスは楽しかった。
「ふぅ……」
だが、これはゲームで先程からずっと自分たちしか相手をしていないことを思い出しクライシスはこれで終わらせようと意識を集中させる。
ハスバや応援していた者たちもクライシスの空気が変わったことに気づいて全員が身構える。
「墳!」
ボッという音が鳴る。
これまでのどのシュートよりも速く重い。
「そこぉ!!」
更には蹴ることに意識を集中していたため視線はボールに集中している。
そのせいで、それまで視線でどこに飛ぶのか判断することもできなくなる。
それでもと直感に任せて飛ぶ。
「ッシャァァァァァァァァ!!」
そして触れることが出来た。
これで、まだチャンスがあると笑みも浮かんでしまう。
「あ………」
だがそれも凍りつく。
段々とボールが触れた腕を押し込んで来るからだ。
いくら力を入れても押し込んできて逸らすことも弾くことも出来ない。
嘘だろと歯を食いしばる。
「俺の勝ちだ」
それでもボールはゴールへと入っていった。
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