七十七話
「よっ。今日はよろしく」
「はい。よろしくおねがいします」
バーベキューの当日、先に集まっていたフレールたちの前に大人の人とフレールたちと同じぐらいの年齢の人たちが馬車から降りてくる。
軽く数えて十人以上はいる。
「思った以上に多くね?」
「参加してくれる人も道具とか材料とか買ってきてもらったり持ってきているから大丈夫だろ」
想像していた以上の人数が来て思わず出てきた言葉にフレールは冷静に返す。
良く見たら食材や道具の他にもミニゲームに使うような道具も持ってきている。
「よぉ。今日はよろしくな。それでクライシスくんはどこだ?」
「何でしょうか?」
名前を呼ばれたから反応を返すクライシス。
その瞬間にフレールたちは何時でも取り押さえられるように身構える。
「……………」
「どうしましたか?」
「実際に見ると弱そうだな。本当に強いのかおっ!?」
「試してみますか?」
だが隣りにいたシクレでも止められずにクライシスは弱そうと言った大人の腹を殴る。
シクレは掴んでいただけだとしても一瞬で離されたことに少しだけ悲しくなり今度はもっと力を込めようと決意する。
「それ以上は何をするつもりだ!?」
「殴る蹴るを続けるに決まっているだろう?大人なんだ。この程度で………。白目向いているな。うわっ。泡吹いてる」
「どけっ!」
クライシスは自分たちに向けて手を伸ばしてくる男たちに大人を投げながら、その手を避ける。
大人を受け取った配信者たちは泡を吹いた男を横にしながら魔法や色んな方法を使って回復させようとしている。
その中でも大人の女性が涙目で手を握っているのを見て恋人かなとニヤニヤしてしまう。
「何をニヤニヤしてんだお前……」
「人としてどうなんだよ」
「謝罪もしないのか」
怒りの視線を向けてくる配信者たち。
手を握っている女性も特に強い目で睨んでくる。
「喧嘩を売ってくる方が人としてどうなんだろうなぁ?それでも俺が悪いと?」
「手を先に出したほうが悪いだろうが!」
「?先に喧嘩を売ったのはそいつだろう?口だろうが手だろうが相手を傷つけるのは変わらないしなぁ?そもそも弱いのが悪いのに俺のせいかぁ?どんな形であろうと喧嘩を先に売ったほうが悪いだろう?」
「………殺す」
「一々口にしないと行動できないのかお前は?」
殺すと言った女の顔を思い切り裏拳で殴る。
綺麗に血がアーチを流れて吹いたので、もう一度やってみたいと思ってしまう。
「クライシス!!?」
「喧嘩を売られたのを放置するとまた売ってくるだろう?どっちが格上なのかわからせて二度と喧嘩を売らないようにしないとなぁ?」
「うぁっ」
吐き出すヤーキ。
過去にクライシスにやられた過去を思い出したのだろう。
そしてこの場には喧嘩を売ったことを止めなかったことを後悔する者もいれば、喧嘩を売ったことに倒れた大人たちを睨む者もいる。
楽しいバーベキューがそんな雰囲気じゃなくなってしまった。
「さぁて」
クライシスの言葉に全員が肩を震わせる。
次は誰に暴力を振るわれるのか、もしかしたら自分じゃないかと恐怖を抱く。
「配信の準備を始めないとなぁ?ここまで来て嘘をついたとなったら炎上するだろうし。あぁ、喧嘩を売ってきて買ったせいで遅れたとか人数が減ったとか好きに口にして良いぞ?事前に注意をしていたしなぁ?」
そういえば確かに喧嘩を売るなと注意があったことを思い出す。
だからと言ってやりすぎじゃないかと思う。
「「「「「「「「「「……………」」」」」」」」」
だが何も言えない。
もし口にして殴られたら嫌だ。
ただでさえ大の大人でも一撃で泡を吹くのを喰らいたくない。
「それよりも自己紹介をしませんか?」
「私の名前はバーデです!」
「私の名前はハスバだ!」
「ナーグスだ!」
「レコイスよ!」
涙目になりながら、それぞれ答える配信者たち。
「「「「彼はクラウンで彼女はアンジーです!!」」」」
答えなきゃ何をされるかわからないと完全に怯えて教える四人。
気持ちはわかると頷くフレールたち。
後で喧嘩さえ売らなければ、どちらかという優しいとフォローをするべきだろうなと考える。
更に言えばクライシスもクライシスだが、せっかく注意したのに無視したクラウンに結構フレールたちもキレていた。
そこを考えると積極的にどちらかというと悪いのはクラウンにしたくなる。
それにクライシスの方が悪いと言って敵視されたくない気持ちも少しある。
「はぁ……」
「……どうしましたか!?」
「事前に注意はされたんですよね?」
「………はい」
「それなのに喧嘩を売ってきて期待していたのに一撃とか………」
深くため息を吐くクライシス。
その様子に何も悪くないのに罪悪感を抱いてしまうハスバたち。
何人かは喧嘩を売るなと注意されたのに止めもしなかった自分たちが悪いんじゃないかと考えてしまう者もいた。




