七十三話
二十四話(切り忘れ)の後に掲示板回を追加しました。
「クライシス。昨日ダンジョンで血反吐を吐いて倒れた男がいるらしいけど何か知らないか?」
「ふーん」
「ふーんって」
「喧嘩を売ってきた男がどうなろうとどうでも良いよ」
「やっぱお前が原因か。喧嘩でも売られたのか?」
「そんな感じ」
ダンジョンで血反吐を倒れた男がいると情報を聞き、何となくクライシスを思い浮かべて確認する男子生徒。
誤魔化すこともなく自分がやったと明かしてきて呆れてしまう。
自分が悪い事をしたという自覚もないのかもしれない。
「お前、悪い事をした自覚ある?」
「?人目がない所で襲ってきた相手を返り討ちにしただけだろ?そもそも襲ってこなければ何もなかったんだし」
「それは………そうだが」
だからといってダンジョンに放置はやりすぎだろうと思う。
「それでもやり過ぎだろ?」
「そんなことを言っていたら抵抗できずにやられ放題になるけど?…………それを望む?」
「違う!」
クライシスの疑問に全力で否定する。
もし否定しなければ殺されていた。
そんな確信があって身体の震えが止まらない。
「?顔が青いけど大丈夫か?」
「だいじょうぶ」
優しい顔をしているが一瞬前には愉しそうに嗤っていた。
配信で戦う前に見せる笑みだったこともあり、もし否定しなければ拳が飛んできていたのが理解できてしまう。
「なら良いけど体調が悪いなら休んだほうが良いぞ」
「お……おう」
普通に心配してくれる。
それが逆に恐ろしくてたまらなかった。
こんなことを言いながら、いつでも襲う準備はできているのだから。
「どうしたの?なんかクライシスくんに脅されたの?」
「してないが!?」
「いやでも話をしてから顔が青いし」
「まぁ、たしかに原因は俺っぽいけど急に目の前で顔が青くなったし俺のせいじゃない」
「本当に?なんか怖いことでも言って脅してない?」
「脅してない。脅してない」
クラスの女子の詰問に首を横に振って答えるクライシス。
嘘は言ってない。
勝手に男子生徒がクライシスにビビって震えていただけだ。
「なら良いけど」
「クライシス!ちょっと良いか!?」
「大丈夫です!呼ばれているから離れるね」
「えぇ」
視線の先には配信者として活躍している先輩。
事務所も同じだったはずだ。
何かしら仕事の話だろうと生徒たちは想像できる。
それはそれとしてかなり助かったと思っていた。
「大丈夫?」
「大丈夫。ちょっと怖かっただけだから」
「無理せずに休んだほうが良いよ。話の内容は聞こえなかったけど途中から空気がすごく怖かったし」
「うん」
女子生徒の言葉に頷く男子生徒。
他の生徒も心配そうに見ている。
「何があったんだ?」
「ちょっと確認したら、多分敵対認定をされかけたんだと思う……」
「何を言ったんだお前……。本気で暴れるかと思ったんだが?」
「そんなつもりはなかったんだけど、多分攻撃されても無抵抗で受け入れろっていう感じで受け止めてしまったんだと思う」
「それはちょっと」
攻撃されても無抵抗でいろというのは聞いてる生徒たちも嫌な顔をする。
流石にそれは怒ると納得していた。
「本当に無抵抗でいろというつもりはないんだよ。ただもう少し手加減しろと言いたかっただけで」
「………手加減?」
「ちょっとヤバいことやりやがったの知ってな………」
「喧嘩を売ってきたのをまた半殺しにしたとか……」
思い出したのはヤーキ先輩のこと。
配信でも半殺しや怯えているところを口にしていた気がする。
「まぁ似たようなもの………」
「それはたしかにヤバい」
更に詳しいことは口にしていないが似たようなことだと頷かれて何も言えなくなる。
「それで何をやったの?」
「多分、皆も知っている。俺はもしかしてと思って聞いたら正解だったし」
「みんな知っている……?似たようなこと……。ダンジョン……、半殺し、……怪我、放置……。あっ……」
そういえばと思い出す。
ダンジョンで人が倒れていたという情報を。
あれの犯人がクライシスだと予想がつき視線を向けると頷かれる。
思った以上にヤバかった。
「やっぱ人として色々とおかしすぎる」
「クライシスくんがおかしいだけでそんなに悪くないな……」
「疑ってごめん」
「クライシスくんが言うには襲われたのを返り討ちにしただけっぽいから……」
「そこは嘘ついてなんだろうけどさぁ……」
嘘はついていないのかもしれないが、それはそれとしてヤバすぎると改めて考えるクラスメイトたち。
危険すぎて今この場にいない者たちにも詳しいことは話す気にならない。
「もう少し手加減とかして上げたら良いのに」
「死者が出たらどうするつもりなんだよ……」
「死者が出ても気にしなさそうなんだよなぁ」
「喧嘩を売ってきたほうが悪いって言って?」
「そうそう」
その様子がはっきりと脳裏に浮かんでしまうクラスメイトたち。
たとえ死んだと聞いても、どうでも良さそうに襲ってきた相手が悪いという姿が容易に想像できて嫌だった。




