七十一話
「今日からお前ら同士で適当に戦わせるので。戦う相手はくじ引きで決めます。終わったら感想回を開いてください。最低でも三十分はお願いします」
「「「「「「「急にどうした!?」」」」」」」
「先輩後輩と関わる機会がサークルでしか無いと聞いたので。この際、関わる機会を増やしてください」
「「「「「「「えぇ……」」」」」」
それはお前がやることかと困惑する生徒たち。
本来なら先生たちが考え実行することなのにクライシスがやっていることに同情と尊敬の念を抱く。
「とりあえず最初はいつものように精神鍛錬。戦うのはその後。やりたくなかきゃ帰っても大丈夫」
「「「「「「……………」」」」」
帰っても良いと言われたが、そんなことを言われても生徒たちで顔を見合わせてしまい戸惑ってしまう。
おそらくは誰も動かずに帰らないから、誰も帰ることは無いだろう。
「とりあえず全員座禅でも組め。精神鍛錬を始めるぞ」
「えっ。……あっ、はい」
クライシスの開始の言葉にどうするか悩んだりしていた者も現実に戻って集中し始める。
まずはこの訓練を終わってから考えれば良いし、もしかしたら良い考えが思い浮かぶかもしれかった。
「はい、終わり。全員よく集中できました。その状態で帰るか組手をするか直感で決めてください。帰る人はくじを引かずに帰って良いですよ」
精神鍛錬中にクライシスが作ったくじを見て全員がためらいもなく引くために並んでくる。
その様子に強くなりたいという想いとそのために必要なことを直感で理解しているなと満足げな笑みを見せる。
本当に正しいのかはクライシスにも分からないが、実戦は大切だと考えている。
「全員、引いたな?なら同じ数字を引いている人は二人いるから、その二人で組手を開始して」
「「「「「「「はい!」」」」」」」
それぞれが自分の数字を叫んだり、数字を見せあって探していく。
そして見つけた者同士で集団から離れて組手を始めていく。
「さてと、どのくらいかかるかな?」
全員が組手を始め、そして終わるまでどのくらい時間がかかるのか時計を使って計ろうと考えながら失敗したと後悔するクライシス。
怪我した時の治療要員を忘れていた。
一人で回復させるのは流石にキツイ。
「今度からは治療要員を忘れなようにしないとな。出来る奴らも戦っているし」
治癒魔法を使える者たちも組手をしているから自分しか出来る者がいない。
全員に戦わせるのではなくハズレも準備して、それを引いた者たちに手伝ってもらおうと決める。
「…………今日も終わったらダンジョンに行こうかな」
そこまで考えて組手をしている生徒たちに視線を向けるクライシス。
多くの生徒が必死の表情を浮かべて全力で戦っている。
少数の生徒は片方が必死だが、もう片方は余裕を持って戦っていた。
必然的に実力差がある者たちでの組手が発生してしまったのだろう。
その姿を見て自分も強くなるために必死にならなきゃと初心を思い出す。
「やっぱり実戦が一番強くなる近道だよな……」
それを考えると強者との戦いは良い経験になるから、そこは運だと思って諦めてほしいと思うし手を加えて調整する気にもならない。
「それにしてもやるなぁ……。格下相手なのに全然油断しないし警戒もしている。俺なら油断しそうだ」
その上で実力差のある者たちを見るが全然油断していない。
相手の一挙一足を見逃すことなく警戒している。
自分が同じことを出来るかと言われたら厳しいんじゃないかと考えてしまう。
流石は先輩だと尊敬する。
「それはそれとして何で終わらせないんだ?組手だからといって相手の実力を引き出さなきゃいけないわけじゃないのに?」
自分なら既に終わらせているし、そこまでの実力差があるなら先輩たちも出来るはずだと考える。
先輩として相手をしているつもりなのかと想像する。
「まぁ、終わったら反省会する必要があるし直ぐに終わったら内容も何もないか……。それで早く終わらせてもやることがないしな」
「ごめん。ちょっと良いか?」
「どうしました?」
そんなことを考えている最中、横から声をかけられる。
二人でいることから組手をするはずの二人だろう。
何の用かと振り返る。
「二人でクライシスくんに挑んでよいか?」
「駄目です。二人で組手してください。一度でも許すと他にも増えますので。それに組手をさせる意味がないし」
「どうしても?」
「どうしてもです」
二人で挑んでも良いかと疑問をぶつけられるが即座に否定するクライシス。
即答されたことに疑問をぶつけた二人も黙らされてしまう。
「実力差があるって分かりきっていても戦ってください。他の人もやっているので」
「わかりました………」
組手をする前から聞いてくるということはお互いの実力をよく知っている関係かなと想像するクライシス。
だが関係ないと二人の嘆願を切り捨て組手をさせる。
今後も似たような組み合わせは出てくるだろうし、その度に代わりに相手をするのは面倒でしかなかった。




