六十五話
「もう……。何をしているんですか。戦うのは来週と言ってましたよね?」
「配信するのが来週であって戦わないとは言ってません」
「だからって。みんな挑みたがっていましたよ?放課後も戦うんですか?」
「帰って寝る」
「あっ、はい」
昼休み、食堂で食べているクライシスを見つけシクレは話しかける。
組手は配信するんじゃないかと疑問に思い質問するが、たしかに嘘はついていないとシクレは納得する。
そして放課後も組手をするのかと聞くが否定された。
しかも絶対に放課後は帰って寝るという意思を感じて何も言えなくなる。
周りで話しを盗み聞きしていた者たちも絶対にそうするという意思の強さに何も言えない。
せっかくだし頼もうとした者たちも圧倒されて口を出せない。
「そんなに寮長に怒られたのが辛かったんですか?」
「それもあるし眠い」
「あぁ!徹夜でしたもんね。でも終わるまで、ずっとそんな様子は無かった気がするのですが?」
「終わって寮の部屋に戻る直前に一気に眠くなった。ちょっと余裕ない」
「…………そうですか」
これは放課後は無理だなと納得する生徒たち。
聞けば授業中に戦うことになった人たちもいつもより怪我がひどいと聞いている。
今日は遠慮しておこうかと腰が引けてしまっている者もいた。
「…………部屋にお邪魔しても良いでしょうか?」
「はぁ?」
シクレの提案に女子や男子たちは色めき立ち、それを頭がおかしいのかと言いたげな答えを返すクライシスに否定的な視線を向ける。
「駄目でしょうか?もしかして誰かが近くにいると眠れないとか?」
「部屋に戻ったら寝ると言っているのに?何もできないし逆に何をするつもりなの?」
「そうですね。部屋の片付けとか起きた時のご飯の準備でしょうか?」
「………たしかに助かるけど」
「料理の感想を聞くのに丁度よいですし。新しい掃除方法も確かめてみたいですし」
「………なるほど。じゃあお願いします」
そういうことならとお願いするクライシス。
話しを聞いていた者たちはシクレの行動に感心する。
あくまでも自分にとっても都合が良いからと言って相手にとっても受け入れやすくする。
女子たちは自分たちも好きな相手には同じことをして部屋にお邪魔しようかなと考える。
「じゃあ放課後、クライシスくんの部屋に一緒に行きましょう。放課後になったら教室まで行くので、ちゃんと教室で待っていてくださいね?」
「わかりました」
あくびをしながら頷くクライシス。
本当に眠そうなそれに話半分で聞いているんじゃないかと盗み聞きをしている生徒たちは思う。
そして同時にもう休んで帰って寝ろと思った。
だけど怒られたらしいし、この状態で学校に行くこと自体が罰なのかもしれない。
「クライシスくん、いますか?」
「きた」
放課後、教室にシクレの声に反応して顔を向けて立ち上がる。
「何?デート?」
「………似たようなもん」
「え!?」
「え………」
からかい混じりの質問の答えにクラスメイトたちは興味津々な眼を向け、シクレは顔を赤くする。
「それじゃあ行きましょう。……ふわっ」
「あっ、はい」
「どちらかの部屋に?」
「そう」
何となく質問した答えに女子たちは黄色い悲鳴を上げる。
部屋で二人きりになるなんて、そうこともするんじゃないかと考えていた。
そして男子たちは少しの嫉妬と感心の視線を向ける。
「ふぅん。まぁ、ゆっくり休めよ」
「うん………」
深くあくびをするクライシス。
その様子に今日は一日中眠そうだったことをクラスメイトたちは思い出し、そういうことはしないというよりはできないんじゃないかと考え直す。
部屋に戻ったらクライシスは直ぐに寝てしまいそうだ。
そうなるとシクレは何もすることがない。
「もしかしてクライシスくんが寝た後に部屋の片付けとかご飯の準備とかするのかな?」
「なにそれ!?もう恋人通り越してない!?」
「うわっ。ありそう!」
「しかも寝顔も間近で見れるのよね………」
「隠している物とかも探せそうじゃない!」
「あぁー!好みの髪型とか服装とか調べれそう!」
女子たちの楽しそうな会話に男子たちは肝が冷える。
部屋に招いたら、下手したら隠していたエロ本とか探されそうだ。
そのことを考慮するとクライシスが哀れに感じてしまう。
「ちょっと可哀想になってきた」
「わかる……」
「あんなこと言っているけどエロ本とか見つけたら、すごい不機嫌になるんだよな」
「なんで知っている」
「まさかお前……」
彼女がいる男へと独り身の男たちが羨ましさで詰問していく。
いつから彼女がいたのか、どうやって知り合ったのか情報を得ていく。
「え?彼女がいるの!?」
そんな中、話が聞こえていたのか女子たちも詰問に参加する。
更に詰問されている男子に女の子の幼なじみがいて同じクラスにいることも知っている女子もいる。
当然、みんなが視線を向けると顔を真っ赤にする女の子がいた。
彼女が恋人なのだと理解したクラスメイトたちは男女を囲んで更に詳しい話を聞こうとする。
顔を真っ赤にして慌てているのは男女関係なくからかい甲斐があって楽しかった。
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