六十四話
「ふっ!」
拳が目の前まで襲ってくる。
それを首を傾げて避け、後ろから剣で斬りかかってくる。
身体を横にずらして避け、今度は左右から攻撃が飛んでくる。
「今度はちゃんと連携を組んでいるのか」
最初に相手をした時より余裕がないと称賛するクライシス。
避けても避けても次の攻撃が飛んでくることに少しだけ面倒に感じる。
自分から挑んできても良いと言ったし直ぐに終わらせるのもどうかと思って少しの間、攻撃をしないようにしているがちょっとだけ後悔する。
「今だ!」
その言葉と同時に襲ってくるのは炎の魔法。
視界が炎で埋まり対処しようと水の魔法で身体の周囲を覆う。
その直後に雷が襲ってくる。
「あぶなっ」
ここ最近では一番危なく久しぶりに冷や汗も流れた。
相手を見るがまぐれではなく狙ったのだと理解できる。
そのことを認識すると頭がしっかりと目覚めてくる。
「とりあえず十分」
十分後に反撃することを決めるクライシス。
生徒や教師たちは声が聞こえているが、それが何を意味しているのかわからない。
だが何かをするつもりだということは理解できたために更に攻撃を激しくしていく。
「対多の良い訓練になる。どこまで俺の体力は持つかな?」
テンポや威力の上がった攻撃を次々と捌いていくクライシス。
息をつく暇もない連続攻撃に憧れや尊敬の念を覚える。
少なくともクライシスはこんな連携をやったことはないしできるとも思えない。
「想定よりも本気を出すか」
もしかしたらいつも通りの手加減した状態だと攻撃を防がれるかもしれないと、いつもよりクライシスは本気を出すことに決める。
「っ」
生徒たちや教師はその言葉を聞いて気を引き締める。
普段から戦うことになる際は手加減していることは知っている。
だから絶不調であっても警戒は怠らない。
「ふんっ!」
また一人が突撃してくる。
サポートのためにあらゆるところから攻撃が飛んできて避ける場所を潰されてしまう。
更に時間差で突撃してくる。
「おごっ!?……ぎゃ!?ぶっ!?……ごっ!……!!!」
だから最初に突撃してきた教師の手をつかんで振り回し攻撃を防いでいく。
また同じことをしているなと思いながらも決して手を離さずに振り回して攻撃を叩き落としていく。
叩き落とす度に聞こえていた悲鳴が聞こえなくなり意識を失ったのだと理解する。
魔法に叩きつけ、時間差で襲ってくる生徒たちにも叩きつけ終わった頃には全身が傷だらけのボロボロになっていた。
「むごい……」
全員が青ざめた顔でクライシスを見る。
おそらく攻撃を止めた理由に防具にされた先生を心配してというのもあるのかもしれない。
「なら攻撃を止めて切り替えたら良いだろ。なんで攻撃を止めないんだ。魔法はまだわかるけど武器を持って突撃した組は特に」
「げほっ!だまれよ!まさか武器にして攻撃してくるとは思わないだろ!」
「モンスターは普通に人を武器として叩きつけたりするだろ?見たことないのか?」
「それは……」
「は?」
「え?」
クライシスの言葉に先生たちは言い返すことはできず、また生徒たちも数人を除いて何も言い返せない。
まだまだ実力が足りないから見たことがないか経験したことが無いのだろう。
実際に何も言い返せない様子を見せているのは先生たちと生徒の中でも実力が優れている者たちだ。
「そもそも戦っている時点で卑怯も何もないだろ。死んだら終わりだぞ?」
そう言って投げ捨てるクライシス。
投げ捨てられた先生は何でも地面にバウンドし壁にぶつかってようやく止まる。
「死んだらって……!」
「そのぐらいの危機感を持って挑んできたほうが強くなれるんじゃね?」
「だからって……!?」
クライシスの言葉である方向に視線を向ける生徒。
その先には投げ捨てられた先生。
それでも、やり過ぎだと非難の視線を向けてしまう。
「だからって?」
「え…ぐほぉ!?」
一番目の前で非難の視線を向けてきた生徒に対しクライシスは腹に拳を叩き込む。
よだれを垂らし白目を向いて崩れ落ちる生徒を無視して次の獲物を確認する。
既に十分は経った。
そしてクライシス以外の全員もまた十分という言葉の意味を理解する。
「遅い」
次は裏拳で顔面に叩き込む。
言葉もなく崩れ落ちて意識を失う。
「文句を言う前に行動しなよ」
今度はクライシスの言葉に一番最初に反応した先生を殴り飛ばす。
次は状況を理解した数人を魔法で腹部を攻撃し意識を奪う。
その次はまだ状況を理解できていない生徒の腹や頭を殴って意識を奪っていく。
優先するのは先生たち。
積んできた経験の差もあって対応しようとしていた。
「これで終わり」
あとは烏合の衆。
だれも指示を出さず、出せないから本来の実力も引き出せない。
確実に一人一人の意識を奪って数を減らしていく。
「まだまだ!」
そして最後の一人になる。
ギラついた眼で睨みつけてくることに苦笑しながら少し相手をすることに決める。
「はっ!やっ!ふん!でやぁぁ!!」
「…………」
正拳、回し蹴り、踵落とし、連続突きと繰り出していく。
だがクライシスはそれらを全てギリギリのところで避けていく。
直ぐ目の前にいるのに全く当たる気配がないことに諦めがよぎるが頭から全力で追い出して更に激しく攻撃しようとする。
「オォォォォオォォオォ!!」
「うるさい」
雄叫びを上げて攻撃をしようとした瞬間、カウンターを叩き込まれ意識を失い膝から崩れ落ちた。




