六十三話
「クライシス、おつかれー」
「………うん」
「ふわぁ。もしかして今頃眠くなったのか?徹夜で戦っていたし元気がいつもよりないな」
「……寮長に怒られた」
「あ」
クライシスの言葉にクラスメイトたちは納得する。
時限を守らずに朝帰り。
ダンジョンで配信して様子は見ていたがルールを破っていることに叱られたのだろう。
「今日はなし。寮に帰って寝る」
「わかった。ゆっくりと休んで寝てろ」
深くあくびをしながら言うクライシスに昨日も鍛えてもらったし文句はないと頷くクラスメイト。
それどころかゆっくり休めと口にする。
「そうしておく」
クライシスはその言葉に素直に甘えることにした。
「くあっ」
「あくびをしていても余裕だな……」
授業中、クライシスの足元には多くの生徒が倒れている。
徹夜をしている上に昨日はダンジョンに挑んでいて疲労が溜まっている。
なら絶好のチャンスだと挑んだ結果だ。
「…………弱いもん」
「そ、そうか……」
寝ぼけているのかハッキリと弱いと口にするクライシス。
その言葉に倒れている生徒たちの多くが震えている。
普段とは違う口調のそれに、だからこそ本音だということが分かってしまう。
「すまないがクライシス。今の授業はこのまま君に挑み続けていって良いか?」
「んー。良いですよー」
ぼんやりとした表情で身体を揺らしながら頷くクライシス。
それならと教師も含め全員でクライシスへと再度挑んでいった。
「はぁ!」
最初に攻撃を仕掛けてきたのは先生。
その後ろでは生徒たちが魔法の準備をしている。
「くらえっ!」
なんで奇襲を仕掛けるのに声を出すのかとクライシスは疑問に思う。
避けられないほど絶好の機会だと勘違いしているのか、それとも確実に仕留めるために気合を入れるためなのか。
どちらにしても察知されてしまうのは駄目だろうと考える。
そういう意味では横から挟み込むように魔法を撃ってきた生徒は優秀な方かもしれない。
それとも彼らの存在を隠すためのかと疑いたくなる。
「挟み込むのも、逃げ場がないのも正解だとは思うけどさぁ……」
思わずため息を吐くクライシス。
逃げ場はないし防具もないから防げない。
だが目の前に防具代わりになる者が近づいている。
「ちっ!………え」
近づいてきた教師の腕を掴みクライシスは自在に振り回す。
上下に左右にヌンチャクのように振り回し生徒たちの魔法を迎撃する。
先生だし生徒の魔法ぐらいは直撃しても平気だろうと考えたのもある。
「外道……」
「?味方を盾にしたのなら外道扱いも納得できるけど、今のお前らは敵でしかないだろ?」
「敵って!」
「そもそも戦っている最中に外道とか一々言うのかよ。そんなことを言う暇があるなら助けるなり色々と動いたほうが良いだろうに」
あくびをしながら呆れたように口にするクライシス。
一対多だからこそ有効な手を打っているだけで他の誰かがやらないとは限らない。
もっと言うのならモンスターや人がやって追い込まれたりした者も見たことがある。
「……………一応言っておくけどモンスターや人間も悪意を持ってやるよ。命とか身体を求める際の脅しとして」
「は……」
何を言っているのかと理解できないように自分を見つめてくるクラスメイトたちにクライシスは冷めた目を向ける。
本当に見たことがないんだと無造作に先生を投げて攻撃する。
「ぼほっ!?」
上手い具合にみぞおちに頭が突き刺さりぶっ倒れるクラスメイトの一人。
女子だったために周囲から批判の目が突き刺さる。
「なんで睨んでいるだけなんだよぉ。本当に危険な状況でもそうするつもり?ふぁ。必死に動かなきゃ死ぬぞ」
「いっ!?」
「んぎっ!」
近くにいたクラスメイトたちを蹴り飛ばすクライシス。
それを見て手にした武器を強く掴み襲いかかっていく。
クライシスはそれを受けて退屈そうな表情を浮かべていた。
「っ!……くそっ」
「そもそも攻撃そのものが遅い。掴める時点で余裕すぎる」
クライシスの言葉に歯ぎしりをし更に力を込める。
だが全く動かすことができず、それどころか腹に灼けるような痛みと浮遊感が襲ってくる。
「何をしている!?」
「せんとうくんれんー」
騒ぎを聞きつけたのか別のクラスの先生たちが入ってくる。
先生だけでなく生徒たちも野次馬のように集まってくる。
「………先生たちも戦いますか?相手しますよ?」
クライシスの言葉に顔を見合わせる生徒と先生たち。
脳裏に思い浮かぶのは昨日の配信。
まさか寝ぼけているんじゃないかと想像できてしまう。
「今度からは配信をしている生徒には徹夜した場合、眠るように指示を出すかあらかじめ事前報告と許可書を書かせるか………」
「そうですね。面倒かもしれませんが、こんなことがある以上は」
「合意の上で先生やクラスメイトと戦っていますよー。実力差がありすぎるせいでボコボコになっているだけで」
責任や元凶にされそうでクライシスは寝ぼけているのは否定する。
そして、そのままお前たちも戦わないかと手を伸ばして誘う。
先生や生徒たちはクライシスは徹夜でコンディションが悪く、こちらには多くの人数がいる。
その上でクライシスは既に戦っていて疲労しているはずだ。
勝てるのかもしれないとクライシスへと挑んでいった。




