六十話
「クライシス、聞いたか?」
「…………?何が?」
「ギルドの近くの横道で複数人の男女が暴行されたらしい。何があったのか警察が確認しようとしたが誰も詳しいことを話すのを拒絶しているらしい。無理に聞こうとしても何があったのか思い出してしまったのか話しを聞ける状態じゃなくなっている」
「ふぅん………」
ギルドの近くの横道と聞いて、もしかして昨日襲ってきた者たちかなと想像する。
たしかに逆らえなようにしようとは思ったが、まさか自主的に黙ってくれるのはありがたいと思っていた。
「ギルドに結構な頻度で行くんだろ?強いからって油断するなよ?」
「わかっている。それよりも多分それの犯人は俺」
「は?」
「だからその犯人は俺だって。なんか急に複数人で襲ってきたから返り討ちにしただけだだけど」
「返り討ちって」
襲われたからだとしてもやりすぎじゃないかと思う。
それに、なんで未だにクライシスへと喧嘩を売るのか疑問を覚える。
「警察に出頭したりするのか?」
「何で?」
「悪いことをしたのだと思わないのか?」
「喧嘩を売ってきたのは向こうなのに?」
「…………」
暴行した犯人だと自白したり悪びれる姿がなく、本当に分かっていないんだなと理解して言葉がなくなる。
たしかに喧嘩を売ってきたのは向こうかもしれないが、やりすぎだとは思わないのだろうが。
「…………そうか」
そして話しを聞いたクラスメイトも警察に伝えるつもりはない。
クライシスの話しを信じるのなら喧嘩を売ってきたのは相手の方で暴行されたのは返り討ちの結果だ。
それに何よりも警察に伝えたことで報復される可能性のほうが怖い。
「なぁ、もし警察に伝えたらどうする?」
「別に?」
何となく興味本位でした質問。
だがクライシスはどうでも良さそうに答える。
それが本音だとわかり、そして警察に伝えてももしかしたら注意だけで終わりそうだなと予感する。
なにせ人数の差があるからだ。
それに知らない相手の実力がわかるはずがないから、そこまで強く注意されることもないだろう。
「ん?そういえばギルドの近くなんだよな?」
「それが?」
「もしかして、終わった後にギルドに行ったのか?」
「ダンジョンに挑むための情報や依頼を受けたかったから行ったな。予定では配信するつもりだし」
「マジか!?いつ配信するんだ?」
「今日の放課後」
「今日の放課後!?」
訓練の後、ダンジョンに挑んだのかと思ったら配信するための情報集めだと聞いて一息つく。
ほとんど動いていなかったから退屈だと言われても否定できないし、それが原因で訓練を見てくれなくなるのは嫌だった。
「そうそう。ギルドに行ったら今日はもう遅いのでダンジョンに挑むのは禁止って言われたんだよ。お前も外が暗くなったらダンジョンに挑めなくなるから諦めたほうが良いぞ」
「え、あっうん。それよりも今日配信するの?」
「そのつもり」
もしかしたら配信する内容はダンジョンに挑むことも含めて考えれば戦う姿が見れるかもしれない。
「もしかしてダンジョンでモンスター相手に挑んだりするのか?」
「そうだけど?」
それ以外の何があるんだと言わんばかりの表情を向けるクライシス。
クラスメイトはそれを見て参考にすることができるとガッツポーズを作った。
「なんだったんだ、あれは………」
昼休みになりクライシスは教室から離れて一息をつく。
何を話しているのかと聞かれて今日はダンジョンで戦っている姿を配信するつもりだと言ったら歓声を上げられて、その声の大きさに思わず耳を塞ぎ圧倒された。
「楽しみにしてくれるのは嬉しいけど……」
あそこまで楽しみにされると、そんなに面白いかとプレッシャーがかかる。
そして少しだけ嬉しい。
「どうした、クライシス?」
「フレール先輩。配信を楽しみにしていると言われて嬉しさとプレッシャーで戸惑っています。それよりも組手の話はどうなりましたか?」
「配信に関しては俺もそうだったからわかるが直ぐに慣れる。あと組手の方は既に何人か決まっているし来週だと聞いて納得してもらった。あとは準備だけだ」
「そうですか……。配信でそのことを話しても大丈夫ですか?」
「………そうだな。大丈夫だと思う」
なら今日の配信で組手が決まったことを報告しようとクライシスは考える。
事前に伝えたほうが興味のあるリスナーが集まるだろう。
「ところで今のところ何人ぐらい集まりました?」
「まだ四人ほどだな。全員それなり以上にやれるから期待しとけよ」
「わかりました」
自信満々のフレールにそこまで言うのならと頷くクライシス。
実力を知っていて、そこまで言うのなら期待できそうだ。
きっと実力自体は低くても楽しめる相手なのだろう。
「それじゃあ来週楽しみにしてますね?」
「あぁ、わかっている」
自身があるのだろう。
クライシスの言葉に力強く頷くフレール。
その様子にクライシスは大丈夫そうだと安心していた。
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