四話
スカウトを受けたら早速配信することになり、少しだけ緊張して喉が乾いた。
最後の方は本音で話してしまったが悪くは無いだろうと思う。
「ねぇ。あれはキャラ作りだよね?」
「?」
配信でのキャラは作っているのかと聞かれ首を傾げるクライシス。
それで確認してきた相手もあのキャラはマジだと理解して顔が青くなる。
「クライシスくん!?」
「はい?」
「襲ったりしないよね!?」
「自分からは襲いませんよ?理由が無いですし」
それはつまり理由があるのなら襲うということで顔を引き攣らせてしまうシクレ。
思っている以上に危険人物で目を離しているとヤバいと思わせてしまう。
「ふふふっ」
「急に笑ってどうしたの?」
「いえ。襲ってくるのが楽しみで……」
心底、その未来が来るのが楽しみだと笑うクライシス。
そんな未来が来ないように、そして誘導されないように気を引き締めるシクレ。
「それでは、また」
「あっ、うん」
それだけを言って事務所から外へと出ていくクライシス。
想像以上の危険人物だとわかって、どうやって制御するか考えていて流してしまった。
「あっ!?」
他の二人も説得に来るはずなのに先に帰してしまったことを後悔するが、もう遅い。
既に外に出ていて、どこに行ったのかわからなくなった。
「ふふふっ」
クライシスは事務所から出てダンジョンに向かって歩いていく。
いつもと違い周囲から視線を向けられている気がするが、そんなことはどうでも良い。
ただただ楽しみで我慢できなくなり発散したかった。
「あれって…」
「だよね…」
「後を追ってみない?」
シクレ達の所属する事務所は有名で多くの者が見てる。
だからそこに新しく所属する新人なんて興味があるし、あんな配信をした後だし追ってみたくなる。
そういうキャラだとしても素が知れるのなら楽しみだ。
「ふふっ」
上機嫌に笑うクライシス。
後ろに誰かが追ってきているのがわかり、襲ってくるのかと期待しているのもある。
女の子たちだけのようだし、きっとモンスターよりは柔らかいんだろうなと想像してニヤけてしまう。
「ひっ……。やっぱ後を追うの止めよう?」
「うん。なんかすごく怖い……」
ニヤケ顔に気持ち悪がるよりも、何かを察しまい後を追うと決めたはずの女の子たちは身体を震わせ後を追うのを止めようとする。
まるでこれ以上は命の危険があると本能が察してしまっているようだ。
「あ………やばっ」
だがクライシスがそう呟いた瞬間、身体の震えが収まる。
その声は女の子たちには聞こえなかったが身体の震えも止まり風か気の所為だと思ってしまった。
「待て!」
「え?」
そして後を追うのを再開しようと思ったら後ろから肩を掴まれて止められる。
何人かの男性と女性の集まりだった。
「何をしようとしているんだ。あんな危険人物の後を追っているように見ただぞ!?」
「え?」
「途中から見ていたけど彼は相当ヤバイわ。後を追うのは止めなさい」
彼らが身につけているのはダンジョンに挑むために装備。
しかも見る限りかなり使い込んでいて実力者だと想像するのも容易い。
だからクライシスの危険度も経験から見ただけでわかるのだろうと納得させられる。
「ああいう奴は自分を弱いと認識させたり良い人のように見せかけて相手を罠にはめて殺すような奴らだ。もしかしたら君たちが獲物になっていたぞ」
「でも……」
目の前の人たちの言葉が信じられないと否定する。
あんなに楽しそうに浮かれている姿が罠だとは思えない。
「なら一緒に後を追うか?俺たちもあんな奴がいたなんて知らなかったし」
「え?今日のシクレちゃんたちの事務所の新人として配信してましたよ」
「………すまない。先程までダンジョンに挑んでいたから配信は見てないんだ。それでも今まで気づかなかったのか」
深く頷き合う男女達。
彼女たちと一緒に行動するのは止めても無視して後を追うだろうと判断したからだ。
とりあえずどんな人物なのか知るために例の配信を見せてもらう。
「………どう思う?」
「少なくとも本気で言ってそうだとは思う」
「口だけではないというか暴れるチャンスを狙ってそう」
「でも理由を求めている辺り、そこまで警戒する必要は無い気もしない?」
「あぁ……」
たしかに何も理由もなしに暴れるやつの方が遥かに危険だ。
それと比べれば危険度は低そうだ。
「取り敢えず後を追おう。理由が無いと暴れないだろうけど逆に言えば理由さえあれば暴れるんだ。他にも後を追っている奴が居て、もし暴れたら止める必要がある」
その言葉に頷いて集団で後を追い始める。
「……………」
そしてクライシスは会話を聞いていなくても集団で後を追ってきたのは知覚しているから浮かれていた気分から微妙な感情になる。
だってあんなに増えたら直ぐに分かってしまう。
奇襲する気はないんだなと判断して残念に思っていた。
「はぁ……」
本当はこのままダンジョンに行ってモンスター相手に暴れる気分だったのが萎えてしまう。
だけど、まだ奇襲してこないとは限らない。
わずかな可能性に賭けてダンジョンに向かうことに決めていた。