四十話
「ごめんなさい。今日は男の子も一緒に夕食を頂いてもよろしいでしょうか?」
「構わないわよ。………もしかして一緒に食べるのはクライシス君だったり?」
「………そうです」
「部屋から出て二人きりにしてあげようか?」
「必要ありません!」
フレールと別れ寮に戻るとシクレは早速、同室の女の子にクライシスと一緒に夕飯を食べていいか確認する。
そして同室の女の子はニヤニヤと笑いながら頷く。
「ところでクライシスくんは?そこで待っているのも悪いし入ってもらったら?」
「そうですね。少し待っていてください」
そう言って少しすると直ぐに部屋に戻ってくる。
もしかしたら部屋の外で待っていたのかもしれない。
「あれ?その荷物は?」
「部屋の食材とか減っていたらしいので、その手伝いで運んでいました?」
「そういえば……。わざわざ、ありがとうね」
部屋に入ってきたクライシスの手にお土産かなにかと思って期待したら部屋の食材だった。
少し残念に思いながら思い出すと確かに減ってきていたことを思い出して感謝してしまう。
「もしかして夕食をご馳走するのって食材を運ぶの手伝ってくれたから?」
「それもあります。……すいません、夕食を作る前にシャワーを使いますね。ダンジョンから脱出してまだ身体も洗っていませんし」
「………もしかして、また救けられたの?」
「違いますよ!?今日はダンジョンで鍛えてもらっただけです!」
「へぇー。……最近、クライシス君は学校の生徒達も鍛えているらしいけど羨ましがれない?」
「同じ事務所に所属しているからパーティを組む機会もあるだろうし、そのときに足を引っ張らないようにしないといけないと言ったら多分?」
「まぁ、配信者だし可愛いから人気者だから案外大丈夫かな?」
「クライシス君も頑張りなよ?嫉妬で襲われるかもしれないわよ?」
「………あぁ!そういうことか!?」
「あぁ、そういうことね」
「え?」
嫉妬で襲われるかもしれないと聞いて何か納得したような声を出すクライシス。
シクレもようやく納得したとばかりに手を叩いている。
「もう襲われたの?」
「多分?」
「私を知っていましたし、クライシスくんにすごい敵意を抱いていましたよね」
「ああいうのが過剰なファンっていうんだっけ?」
「そうですね。気にいらないからと私たちの周囲を襲ってくるのは厄介ファンですね」
もう既に襲われていたのだと知ってため息を吐いてしまう。
そして襲われてしまうのなら自分は配信者になりたくないと思ってしまう。
本当なら関わることすら危険だが今更だし、何よりも女の子同士だから嫉妬で襲われることはないだろうと予想している。
「それじゃあ私はシャワーで身体で洗い流すので夕食は少し待っててくださいね」
「わかりました」
「私もいるから覗いちゃダメよ?」
「覗きません」
「何を言っているんですか!?」
そう言ってシクレはシャワーへと入っていく。
クライシスはその姿をみて追うこともなく、それまで何をしていようかと暇そうにあくびをしていた。
「ねぇ」
「何でしょうか?」
「訓練って何をしていたの?」
「フレール先輩と同じことを聞くんですね」
「えっ、ホント!?」
「はい。ダンジョンから脱出した後に会って同じことを言ってましたよ」
フレールと同じことを言っていると言われ嬉しくなる。
気遣いができイケメンな彼と同じことをしたことに笑みが出来てしまう。
「他に何を話したの?」
「話していたのはそれぐらいですね」
「そっかぁ……」
シクレの姿を見て怪我をするような訓練はしていないと判断して別れたのかもしれない。
やっぱりフレールは優しいと思ってしまう。
「それでどんな訓練をしてたの?」
「基本的に相手の攻撃を避けるための訓練です」
「それって、やっぱり彼女がヒーラーだから?」
「そうですね。彼女さえ無事ならある程度は撤退することも危機的状況から挽回することも出来る可能性が上がりますし」
「ふぅん。それって彼女だから鍛えているの?」
「同じ事務所で同じダンジョンに一緒に挑む可能性がありますので」
「そっかぁ。じゃあフレール先輩とも?」
「頼まれたら鍛えますよ?」
つまり頼んだのはシクレだけなのかもしれない。
「他の皆には頼まれて無いんですか?」
「今のところは無いような?まぁ、必要ないか自分たちの配信や学業のこともあるから時間が取れないだけかもしれないですけど」
あとは放課後の訓練にクライシスが気づいていないだけで参加している可能性もある。
「そうなんだ……」
そこで会話が途切れてしまい、シャワーの流れる音が響く。
「ところで好きな食べ物はありますか!?作って上げますよ!」
「え?」
「ほら!?いつもと同じ相手や自分よりも第三者に食べてもらって感想を教えてもらったほうが上手くなれそうですし!」
「………むしろ俺も一緒に作りましょうか?買ってきたばかりの食材も使うかもしれませんが」
「良いわよ。お客さんだし、座って待ってて」
本当はシクレが作るつもりだったのかもしれないが自分も参加させてもらえないか頼みに行こうとシャワー室へと向かった。
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