三十八話
絶望させた登場人物がいるけど描写はすごいあっさり。
「おい」
「ん?」
「きゃっ!?」
弁当を食べ終わり、ゆっくりしていると後ろから声を掛けられる。
そして同時に感じる複数の視線の強さと何かが勢いよく迫ってくる音。
クライシスはシクレの身体を抱き寄せて前へと回避する。
「な……なに……を?」
急に抱き寄せられたことにシクレは顔を赤くして抗議するが、すぐに元の板場所に見知らぬ誰かが剣を振り下ろしている姿に気づく。
そして助けて貰わなければ、もしかしたら惨殺されていたかもしれないと気づいて背筋を凍らせて更に強くクライシスへと抱きつく。
「てめぇ!」
「へぇ?」
後ろから襲ってきた男はその姿を見て怒る。
そしてクライシスはその様子を見て珍しそうに笑っていた。
「なんでシクレちゃんを抱きかかえている!?」
「後ろから攻撃してきて危険だと感じたからだろう?何人もいて人質にされたら大変にきまっているじゃあないか?」
「え?」
「なんで知っている!?」
「視線。でも一番強そうなのはお前かな?」
信じられない顔で色んなところから視線が飛んでくる。
あまりにもわかりやすくて苦笑が浮かんでしまうクライシス。
「あっ」
「ちゃんと捕まっていろ」
運が良いと思ってしまうクライシス。
もし直ぐに助けられる距離にいなくて複数人だったら動けなかった。
「さて……と」
「死ね!!」
その一瞬後にクライシスは隠れて視線を向けていた一人へと近づきボディを叩き込む。
そして同時にクライシスのいた場所には剣を振り下ろしている男がいる。
「ほうら?」
「ちっ!?なっ……!?すまん大丈夫か!?」
「次」
「がっ!?」
それを見てクライシスは気絶した男の仲間の一人を投げつける。
男は飛んできたものをクライシスの攻撃だと判断して叩き落とすが、投げられたのが仲間だと気づいて叩き落したことに動揺する。
更に続けて飛んできたものを確認すると、それもお互いに好きなものが同じ同士だったこともあって剣を投げ捨てて受け止める。
それを見てクライシスは仲間思いだなと笑う。
その上で更に男の仲間たちを投げ捨てる。
見ていて楽しいのだ。
仲間のために全力で受け止めようとする姿が。
急に襲ってきた奴らが苦しんでいるのは見ていて楽しい。
「…………」
そしてシクレは腕の中でクライシスの匂いと身体の感触を覚えていた。
なにせあまりにも凄まじい速度で動いているせいで何が起きているのか、ほとんど理解できていない。
ただ理解っていることは襲われていることとクライシスがそれから救けてくれること。
予想以上に強い力で自分が何をしなくても大丈夫だと身を委ねることができ、他にやることもない。
「うわぁ」
自分を護ってくれているのだと理解しているのに硬い感触に思わず動かせるぶんだけ腕を動かして軽く叩いたり撫で擦っていたりする。
「何をしているんですか?」
「あっ、ごめんなさい。男の子に触れる機会なんて無いですし珍しくて。それにクライシスくんなら多少のことなら問題なく救けてくれると甘えてしまって。もしかして邪魔になっていました?それならごめんなさい」
「……。いえ問題は有りませんけど気になっただけなので」
「それなら良かったです!」
「あぁ…………」
全員を男に投げ飛ばした後に、その光景を男の目の前で見せる。
クライシスの意図したことではないが絶望に顔を染めているのが見えて気が良くなる。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!???」
血走った目でこちらを睨む男。
もはや何が何でも殺しに来ている目だ。
今の状況が現実だと認めたくなくて必死に否定しようと何もかもを壊そうとしている。
よく見る目だ。
「ひっ」
「死ね!死ね!死ね!死ねぇぇぇ!!」
近づいてくるとがむしゃらに剣を振ってくる。
剣風や声に怯えてシクレは更に強く抱きついてくる。
「技の冴えも鋭さも無いなぁ」
「あぁぁぁぁ!!?」
つまらなさそうに避け続けるクライシス。
大振りで予備動作もわかりやすく避けやすい。
しかも更に大振りになった。
「無意識レベルまで技を身体に染み込ませていればこんなにあっさりと避けられないのになぁ?」
可哀想にと頬を撫でるクライシス。
更に苛立ちを覚える男。
一歩間違えば自分だけではなくシクレも死ぬ可能性があるほど危険なのに挑発するような行動をするのは試したいことがあるからだ。
「当たれ!死ね!お前なんていなくなれば良いんだよぉ!!」
相手の武器の間合いを計り見極めた上で近づく。
剣を避け、剣風に怯えるシクレの声を聞き、そして頬をゆっくりと触れる。
「ふざけるなぁぁぁ!!」
決して攻撃はしない。
「なんで……攻撃しない!?」
ただ笑いながら繰り返す。
「ふざけるな!!」
近づいたら何ふり構わず武器を捨てて触れようとしても、それを避ける。
そしてまた頬に触れる。
「………あぁ」
転んだところに油断せずに近づいて、また頬に触れる。
「なんで………」
「予想以上に弱いなぁ。それで俺を殺そうとしたのかぁ。どうやって殺すつもりだったんだ?」
「−−−−−−−−−−−−!!!!」
仲間を武器として扱われ、何をしても攻撃を当てれなくて、逆に相手は攻撃もせずに頬を触れてくるだけ。
更に目の前で好きな女性が抱き抱えられて絶望が強くなる。
そして最後に言われた言葉に絶叫を上げた。




