三十七話
「………さてと」
ダンジョンの中で適当にくつろげるところを探しながらクライシスは燃えそうな物を拾っていく。
途中でモンスターが襲ってこないことに幸運に思う。
モンスターが多いと聞いていたダンジョンでも偶にこういう時があるからクライシスは特に疑問に思うことはなかった。
「…………モンスターが襲ってこないですね?」
「偶にあることです。それよりもこことか広いと思いますけど大丈夫ですか?」
「偶にって………」
今までダンジョンに挑んできてモンスターに襲われたことは何度もあった。
それも確実にだ。
それなのにクライシスは偶に一度もモンスターに襲われたことがない日もあると言い、そんなことがあるのかとシクレは驚く。
「ここなら広くて奇襲されても気づけますし、ある程度はゆっくりできると思いますよ」
「………そうですね」
いくつか気になるところはあるがお腹も減ったし、先程まで戦っていたから疲れていて直ぐに休みたくてシクレは頷いた。
「それじゃあ」
それを確認するとクライシスは拾っていた燃えそうなものを一箇所にまとまるように投げる。
そして炎の魔法をそれらに放って焚き火を作る。
シクレは水に濡れて冷めた身体を暖めるように、それに近づいて暖を取る。
「ふぅ。あったかい………」
「今日はこれで終わりにしますか?一点だけにとはいえ、かなり集中していましたし」
「…………お願いします。それと一点ってどういうことですか?」
「武器にだけ避けるために意識を割いていましたから」
「はい?」
「タイマンならともかく。それだと奇襲されたら終わりですし。ダンジョンなんてモンスターに戦っている横から襲われるのも普通にありますからね。周囲にも意識を割けないと危険ですし」
「………そうですね」
「まぁ、そこは少しずつ出来るようになれば良いと思いますよ」
水で出来た武器を見せながらクライシスはフォローする。
シクレはたしかにと思いながら水でできた武器だけに意識を向けていたことを思い出したし言われたことにも納得していた。
「はい。………それとお弁当です」
「ありがとうございます。早速、開けても良いでしょうか?」
「はい、大丈夫ですよ」
戦いについての話はここまでと弁当を差し出す。
それを受け取り、クライシスは早速開ける。
「おぉ」
開けた箱の中には色彩豊かなおかずの数々。
漂ってくる匂いも食欲を誘う。
「すげぇ、美味しそう……」
「ふふふっ。ありがとうございます」
「!?」
心の中の感想に返事を返されたことにクライシスは酷く驚く。
心を読めるのかと視線を向けるが首を傾げられてしまう。
「ふふふっ」
そしてシクレは何度もクライシスの言葉を思い出して笑ってしまう。
作った料理が美味しそうと言われるのはやはり嬉しい。
後は味を確認してほしい。
「美味しそうと言われるのは嬉しいですけど、味も確かめてくれませんか?」
「………もしかして口に出してましたか?」
「はいっ」
確認の言葉を肯定されて無自覚に言葉にしてしまったかと思わず顔を赤くするクライシス。
その姿に本気で言っていたのだと理解して更に嬉しくなる。
「………いただきます」
「ふふふっ」
赤くした顔を隠すように食べ始めるクライシスにシクレは楽しそうに笑う。
まさか年下らしい姿が見れるとは思っていなかった。
「………おいしい」
そう言って勢いよく食べ始める姿は見ていて嬉しい。
嫌な顔をせずに夢中になるということは美味しいと思ってくれていることがわかるからだ。
こんな美味しそうに食べてくれるのなら、また作ってあげようと思ってしまう。
「私も食べないと」
シクレも自分の分の弁当を取り出して食べ始める。
自分で作ったものだが美味しそうに食べているのを見ると腹が減って自分も食べたくなる。
そして食べ終わってダンジョンから脱出したら買い物に付き合ってもらえるか確認してみることにする。
もし頷いてくれたら、とても楽しみだ。
「あの、クライシスくん」
「どうしました?」
「美味しい?」
「とても」
「ふふふっ。そう言ってくれると嬉しいです。また作ってきますね?」
「!ありがとうございますっ」
嬉しそうにシクレの提案に感謝するクライシス。
それがまたシクレの心を掴む。
今までも何度か美味しいやまた作ってくれと言われたこともある。
嬉しいと感じたこともあるが、ここまで心を掴まれたことはない。
「じゃあ、また買い物に手伝ってくれませんか?荷物を持ってくれたりしてくれると嬉しいのですが………」
「えー」
「私も料理の腕を鍛えたいですし。それに料理が美味しいと食べた後やその前からやる気が上がったりしませんか?」
「まぁ……」
美味しい料理よりも自分の時間が大切だから難色を示しているのかもしれないとシクレは予想する。
自分の時間が減るくらいなら美味しい料理も食べれなくても良いのだろう。
「…………それに私もクライシスくんと一緒にいたいですし」
「………そうですか」
「聞こえてましたか!?」
「はい」
シクレは聞こえてしまったことに顔を赤くして頭を抱え、クライシスはなんで聞こえたことに頭を抱えているのか疑問に思っていた。




