三十四話
「クライシス君」
「はい?」
配信が終わり一息ついているとシクレが名前を呼ぶ。
それに反応して視線を向けると、そこには顔を赤くしているシクレがいる。
「今度の日曜は私が弁当を作ってきますので期待してください!」
「えっ、はい」
クライシスは作ってくれるのなら有り難いとうなずく。
料理の本を買い、どれがオススメなのか判断できるところからも趣味か特技だろうから期待はできる。
「どこのダンジョンに行くかは明日にでも伝えるので待っていてください」
「わかりました」
それだけを行って部屋から出ようとするクライシス。
どこのダンジョンに行くのか調べ直すつもりだ。
もともと行くつもりだったダンジョンはシクレには危険だと考えているのもある。
「わかりましたけど、どこに行くんですか?もう少し一緒にいませんか?」
「どこのダンジョンに行くか調べないといけませんし」
「もともと行く予定だったんじゃなかったのでしょうか?」
「シクレ先輩にはかなり危険な場所ですので」
「………そこに一人で行こうとしたのですか?」
「はい」
クライシスの答えに少しイラッとする。
実力は確実にクライシスの方が上だし、おそらくはマジでシクレが行くのは危険だろうからだ。
問題はそんな危険なところで本当にクライシス一人で大丈夫なのかだ。
いくら実力があっても不安だし心配だ。
「いくら強くてもそんな危険な場所に行くのは不安だし心配になります。誰かと挑んでくれませんか?」
「すいませんけど一人のほうが楽なので」
「楽とかではなく安全を重視しましょう?私とダンジョンに行くときは安全を考えてくれているのですし」
「そりゃ誰かと挑むなら安全性を考えますけど」
「何でそれをソロで挑むとやらないんですか」
「ソロだと自分で全部決められますからね。逃げると決めたら逃げられますし。逆にパーティを組むと逃げるべきときに逃げられなくなる場合がありますよ」
「………経験があるんですか?」
「臨時で組んだときにありますよ?」
ソロで挑むのはクライシスが実力を認める相手が少ない他にトラウマだからじゃないかと想像するシクレ。
だけど退くか進むかの判断は難しいのだろうと予想は出来てしまう。
「今度行くダンジョンは退くと決めたら従ったほうが良いですよね?」
「そうですけど。………ついでに鍛えますか?」
「…お願いします」
鍛えるかと聞かれて少し悩んでからシクレはうなずく。
少なくとも強くならなければ隣に立つことすら認めてくれないだろうなと思っていた。
「それじゃあ、また明日」
「はい。また明日」
今度こそクライシスは丁度よいダンジョンを探すために部屋を出る。
行き先はギルドだ。
「あらクライシス君。最近、どう?」
「………普通?」
ギルドに向かうと受付のお姉さんが話しかけてくる。
「そう?配信も見てるけどパーティ仲間も増えそうで良かったわ」
「…………」
「おい、こら」
クライシスの反応に叱る受付。
ダンジョンにパーティを組んで挑む気がないことを理解したせいだ。
そしてクライシスは視線を逸してダンジョンの情報を探し始める。
「…………これらかな」
ギルドではダンジョンの情報の他にダンジョンに関係する依頼を受けることが出来る。
ダンジョンでの依頼にはモンスターの討伐や採取、そして相手を鍛えることもある。
それらの依頼をこなしてお小遣いを稼ぐこともできる。
「はぁ……。何か依頼を探しているのですか?」
「いや。鍛えるのに丁度よいダンジョンが無いかなって」
「もしかして、さっきの配信に出ていた少女をですか?」
「………そうですけど。見てたんだ?」
配信を見ているとは言っていたが社交辞令だと思っていたし、つい先程の配信を見ていたのは予想外で驚くクライシス。
その様子に更にため息を吐く。
受付からすれば昔から知っている子なのだ。
しかも実力が高くソロなこともあって目を掛けてきた。
他にも同じような者はいるが、クライシスぐらいの年頃の者はいない。
「一応言っておくけど、君のことを心配している者はいっぱいいますからね」
クライシスに関して心配している者は多いのだと告げる。
たとえ気まぐれだとしても助けられた者もたしかにいる。
助けを求められたら力を貸すのを心に決めている者もいるのだ。
「………覚えておきます」
「そうしておきなさい」
クライシスも理解できないなりに頷く。
それが本当なら何か依頼でも出そうかなと思っていた。
そして解決した速度次第では信じても良いかもしれないと考えていた。




