二十七話
「なぁ、あれ」
「うん、パトカーだよな……」
「何のようなんだ?」
「さっきクライシスくんの部屋の中に入っていったけど」
「そういえば、さっきの動画で……」
「動画?」
「うん、これ……」
寮の前でパトカーが停まっていることに生徒たちは困惑の声を上げる。
その中に原因であろう動画を思い出し近くの人に見せる者もいる。
「………これが原因か?」
「原因を知っているのか?」
「多分、これだと思う」
皆が集まり、見れない者にどの動画か教えあい見せていく。
そして全員が同じ気持ちを抱く。
「「「「「「「これはしょうがない」」」」」」」
思わず出てきた言葉が皆と同じで笑いが込み上げてしまった。
そして同時に背筋が冷えてしまう。
以前の配信の言葉を思い出したせいだ。
『楽しみだなぁ。同じ学園。つまりは闇討ちされ放題。俺も警戒しないと。あぁ早く来ないかなぁ!』
『大丈夫。暴力を振るうのは楽しいですもんね!俺も大好きです!それとも誰がヤッたかわからないように地味に嫌がらせをしてきますか?あぁ、それも楽しみだ。怪しい奴ら全員に攻撃していけば良い!』
『そんなことはどうでも良いだろう?そもそも攻撃されたから俺は反撃するだけ。逆に攻撃さえしてこなければ俺も何もしないんだから。……きっと止めようとする奴らもいるんだろうなぁ。ふふっ』
これらの言葉通りに挑発に対して報復をしたクライシス。
本当にしたことにも、そして予想よりも過激だったことにも恐ろしく思ってしまう。
言葉通りに喧嘩を売らなければ買わないのなら絶対に喧嘩を売らないことを心に決める。
そして警察が来たのは報復が過剰すぎたのが問題なのだろう。
それほどの攻撃は誰もが受けたくないと思ってしまう。
「あっ」
クライシスの部屋から警察が出てきて、その後にクライシスも部屋から出て鍵を閉める。
よくテレビで見る逃げられないように囲んで連れて行くようには見えないどころか自分の意志でしっかりと後をついて行っているようにしか見えない。
「………あの様子だと捕まえに来たわけじゃないのかな?」
その言葉に有り得そうだと皆が納得していた。
おそらくは厳重注意とかその辺りだろう。
それでもわざわざパトカーに乗ってどこかに行くのは疑問だった。
それだけなら寮の部屋でも十分なはずだからだ。
「クライシスくん、大丈夫ですよね………」
シクレは思わず寮の部屋で呟いてしまう。
本当はこんなことを聞くつもりはなかったのに、それでも同意をしてもらって安心したかった。
「どうなんだろ……。警察が直接来るなんてそれほどのことだし。それに………」
動画を見たが挑発されたとはいえ反撃が過剰としか思えなかった。
今まで配信で見てきた中でも手加減できたはずだと思う。
「それに?」
「やっぱり、やり過ぎだと思う?」
「……ですよね」
深くため息を吐くシクレ。
そもそも過剰な攻撃さえしなければ警察も来ることはなかった。
「まぁ、多分大丈夫だとは思うわよ?」
「そうでしょうか?」
「警察もクライシス君本人も物々しい雰囲気じゃなかったし。それどころかクライシス君は何か目を輝かせてたように見えなかった?」
「………そういえば」
自分の見間違いじゃないか確認の質問にシクレも確かにと頷く。
そう考えると考えすぎだったかもしれないと自らを安心させようとする。
「ところで一緒にいて大丈夫なの?急に殴られたりしない?」
「………大丈夫だと思います。この動画でも結局喧嘩を売られたから買った形ですし。先輩相手にやらかしたのも奇襲かつ結構本気だったから反射的に行動した感じでしたし」
シクレが思い出すのは始めて会った日と部室に来てもらった日のこと。
どちらも反撃で結構なダメージを与えていた。
「やっぱり反撃だとしても手加減は覚えさせるべきですね。やり過ぎで捕まったら意味ないですし、もしかしたら活動にも悪影響がでるかもしれませんし」
「それで本当に話しを聞いてくれる?」
「多分。そもそも事務所に所属したのもお金と学園での成績を上げることが出来るからですし。もらえなくなると聞いたら手加減するようになるかもしれません」
「まって」
「?」
「お金はわかる。成績も?」
「?はい。学園の施設を使ったり、普段の雰囲気を配信したりすると成績に色をつけてもらえますよ。どうやら、それで学園への希望者も増えたみたいですし」
シクレの言葉にそういえば自分も入学前に学園での配信を見て良さそうだなと思ったことを思い出す。
自分もその一人だと思うとたしかに効果はあると実感する。
「………だから学園で配信することもあるのね」
「はい。でも変なところを紹介してしまったり不良たちが映ると逆に下がったりしそうですけどね」
「あぁ……」
この学園にも不良はいる。
そしてそんな者達がいると知られたら逆に入学する学校の選択肢から除外する可能性があるのはわかる。
「それでもちょっと羨ましい……」
「そうでしょうか?」
それでも配信をするだけで成績を上げてもらえるのは羨ましくてしょうがない。




