二十六話
クライシスは部屋に戻るとコンビニで買った飯を食べ始める。
買うのに使ったお金は当然、奪ったものだ。
それらを使うのに全く戸惑いはなかった。
「すみません。今大丈夫でしょうか?」
「…………誰だ?」
そんな中、クライシスの部屋に客が訪れる。
こんな時間に誰だろうと思いながらも口の中に含んでいたものを飲み込み玄関へと向かう。
「すいません。こういうものですが」
玄関の先には警察が手帳を持って待ち構えている。
急なことに驚き何も悪いことはしていないのに何かしてしまったのかと焦るが直ぐに落ち着き中へ入れることに決める。
「何で来たのか、わかりませんがとりあえず中に入りますか?」
「………いいだろう」
クライシスの言葉と行動に何か言いたげになりながら頷く警察官。
後ろに手招きをして更に人数を増やす。
何があっても複数人でなら、ある程度は戦えるはずだと考えもある。
「…………え、何人いるんですか?そんなに飲み物とか出せませんよ?コップも足りないでしょうし」
「………いや、必要はない」
警察官たちはクライシスの行動にやる気が削がれながらも中に入っていく。
どんな発言や行動をしようとしても過剰な暴行を振るっていたことを思い出して気を引き締めていた。
「それで何のようでしょうか?」
「これのことだ」
早速とばかりに要件を聞いてくるクライシスに警察官はスマホを取り出す。
そして何やら操作をしたと思ったら画面を見せて動画を流す。
『なぁ。そんなに弱い癖になんで俺に喧嘩を売ってきたんだ?俺の攻撃にも全く反応できていないし暇つぶしにならないだろう?』
『で……。ふざ…ごぽっ!?』
それにはついさっきまでクライシスの行動が動画に流れていた。
あれは動画を撮っていたのではなくライブ配信だったんだなと理解するクライシス。
なら壊しても無駄だったと思い、そして壊れたから買い直す必要がありその分の被害はあるから無駄ではなかったと考え直す。
「これについてどう思う?」
「先にやらなきゃ俺が暴行をされていましたよ?」
実際はどうか分からないが有り得ることを反論として口にする。
どうせ問題は自分が暴行を加えたことに対してだろうとクライシスは判断していた。
「それは……」
そして警察官もそのことはわかっている。
あの手の相手は後のことは考えずに自分が楽しければそれで良いと笑って迷惑をかけてくる。
何もしなければ逆に暴行を受けていた可能性はたしかにあった。
あったが。
「君なら攻撃されても無傷で終わらせることが出来たんじゃないのか?」
「一方的に迷惑を掛けてきようとした相手に何で配慮しないといけないんですか?それで調子に乗って繰り返されたら面倒なんですが?」
「それでもだ!」
「大人だからクソガキを従わせようと大声を急に出さないでくれま………あいつら何歳だ?俺より年上に見えたけど」
「………成人しているらしい」
「………そうですか」
成人している相手が未成年相手をバカにしてボコボコにされたのかぁ、と思い遠い目をするクライシス。
警察官たちも冷静に考えて遠い目になる。
「………同年齢か年下相手。いえ年下相手ならすごく反省していましたけど成人相手は無理です。というか成人が何をしているの?」
「………それはそう。そうだけど暴行に関しては過剰すぎるから注意はさせてもらう。あと私達警察が来ないギリギリのラインも教えさせてもらう」
「お願いします」
警察が来ないギリギリのラインを教えてくれると聞いて頭を下げるクライシス。
互いに暴行を加えられた相手の年齢のお陰で何かもうバカバカしくなってきた。
「この部屋では狭いですし一度、署に来ませんか?そこなら広い場所もありますから」
「………わかりました」
ちょっと気になるところがあるが、別にいいかと頷くクライシス。
どうせなら直ぐに覚えたい。
今日みたいな奴らにまた絡まれたら面倒だ。
「では早速行きましょう」
警察官が立ち上がり一人ずつ部屋から出ていったのを確認してクライシスも外に出る。
そして鍵を閉めて寮の前にあるパトカーへと歩いていく。
当然だが始めてパトカーに乗ることになって少しだけ興奮していた。
こんな機会は滅多にないから目を輝かせてしまう。
「あー。普通の車と大差はほとんど無いからな?ちょっと色々な機能があるだけで」
「色々な機能!?」
目の色を輝かせるクライシスに男の子だなと思うし、気持ちはわかると頷く警察官たち。
どうせなら特別に警察のことを教えるから興味を持ってほしいと思っていた。
仕事の仲間は多ければ多いほど多くの人を守れるはずなのだから。




