二話
「誰だ?」
朝から来客の鐘が鳴る。
平日の朝から誰かが来るなんて珍しいどころではない。
「はーい」
扉を開けるとそこには同じ学園の制服を来た先輩たちがいた。
先輩だとわかったのはつけているリボンやネクタイの色が先輩のものだったからだ。
「すいません。クライシス・グリスさんですよね?」
「はい?」
「その……昨日助けてもらった者です。お礼の品は後で渡しますが助けていただいてありがとうございます!」
「あっ、はい」
昨日助けたと聞いて思い出そうとしながらも相手の勢いに押されて返事をするクライシス。
その様子に一緒に来ていた先輩が掴みかかってくる。
「あ゛ぁ!?」
胸ぐらを掴んできた腕を手でつかみ、そのまま回転して玄関の壁に相手をぶつける。
その上で腹に蹴りをぶち込み髪を掴んで持ち上げる。
「いきなり何のようだよ」
急に攻撃をしてきて喧嘩を売ってきたのかと睨むクライシス。
髪を掴んだ男を盾のように構えて牽制する。
「えっ。えっ……」
「………強い。やっぱり、あれは事実か」
何が起きたのか理解できずに辺りを見回す謝罪してきた先輩と喧嘩を売ったせいで次は自分たちかと構える先輩。
前者は本気で理解できておらずに巻き込まれただけだと判断しつつも場合によっては人質にしようと注意を割く。
「悪いわね。本当に実力があるのか確かめて見たかったのよ。私達が通っているのはダンジョンに挑むための学園だし。学年に関わらず実力のある生徒と繋がりを持ちたいのは当然でしょ」
「あぁ、なるほど」
だから急に喧嘩を売ってきたのかと納得して髪を掴んでいた先輩を放り投げるクライシス。
喧嘩を先に売ってきたのは相手だからと自分を納得させる。
ちなみに言い訳した方はこれであっさり納得する辺りチョロ過ぎると心配になっている。
「まだ学校に行くまでに時間はあるわよね。中に入れさせてもらって良い?話したいこともあるし」
「お願いします」
二人の言葉に言われていることは事実だしと頷くクライシス。
もし嘘で襲ってきたとしても返り討ちにすれば良いと考えていた。
「はじめまして私の名前はミテラ・マーテル。君と同じ学園の四年生です。そこで倒れている男は私と同じ四年生のフレール・イルマオンです。よろしくお願いしますね?」
「はぁ?」
「あっ、私の名前はシクレッツァ・ズィッヒャーです!シクレと呼んでね?」
「えっと、はい」
取り敢えず何の用で、こんな朝早くから初対面の相手の寮の部屋に来たのか気になる。
「まずは謝罪と感謝を。あなたのお陰で先日、私達事務所のメンバーの一人が命を失うことを防げました」
「本当にありがとうございます」
深々と頭を下げる二人。
先日命を助けられたと聞いて思い出すのは昨日のこと。
そうして思い出すと一人はモンスターを擦り付けてきた相手だ。
「言い訳にはなりませんが囮にして逃げてしまって申し訳有りません」
更に二人して頭を深く下げる様子に圧倒される。
ここまでされると本当に悪意があったわけではないのだと理解して悪い印象は減っていった。
「それと図々しいのですが私達の事務所に入って欲しいのです」
「事務所?」
「はい。私達が配信活動している事務所です」
「配信?」
「はい」
まさかのスカウトに面食らうクライシス。
配信というものは知っているが見たことはないから困惑する。
「詳しい説明は後でしますし、そのための機材はこちらで用意をします。まずは考えてみてくれませんか?」
「えぇ……」
嫌そうな顔をするクライシス。
配信をするということは色々と考えて発言しないといけないし、面白いことを言ったり口にしたりして笑わせないといけない。
自分には無理だと思っている。
「命を助けてもらった恩もありますし最初は私がフォローします!」
「え?」
「良いですよね!」
「多分?」
シクレの言葉にミテラが振り返るが黙らせる。
おそらくは社長相手でも黙らせそうだ。
「それにダンジョンにただ挑むよりはお金が稼げるんですよ!好きな服やお菓子だって沢山買えます!」
「お菓子を沢山……」
「そうです!」
お菓子という言葉に心が揺れるクライシス。
好きなものを好きなだけ買えると想像してお腹が減ってくる。
「じゅるり……」
「それに配信の内容次第では授業が一部免除されたり成績に色をつけてもらえるんですよ?」
「うぅ……」
お菓子だけでなく成績も上がると聞いて更に揺れる。
聞いていると良い事だらけだ。
「それでどうします?一度事務所に来て話を聞いてみませんか?最初からフォローを入れてもらえるなんて今だけですよ?普通なら最初からフォロー無しでヤッてもらうんですから」
今だけ、そして本来の方法と聞いて頭を抱えるほど悩んでしまうクライシス。
ミテラはその様子を見て今だけという言葉に弱すぎるとため息を吐く。
もし事務所に入るなら、そこを少しでも矯正するべきだなと見ていて思う。
「とりあえず事務所に行って話しを聞かせてもらって良いでしょうか……」
「はい、もちろん!」
クライシスの絞り出した答えにシクレは両手を叩いて喜んでいた。