二百二十八話
「お母さん!ここがクライシスくんがやっている喫茶店なの?」
「そうみたいね。もしかしたら二人で写真を撮ることはできないかもしれないけど良いの?」
「………わかっている」
母親の言葉に少し不満そうにしながら頷く子供。
どうやら、この親子はクライシスのクラスがやっている喫茶店を聞いてやって来たらしい。
もしかしたら二人で写真を撮れるかもしれないと僅かな希望にかけて来たらしい。
「いらっしゃいませ。席を案内しますね」
そして、その賭けに勝った。
出迎えたのはクライシス。
写真を撮れると歓声を上げる。
「やったーーーー!!!」
子供の上げた歓声にクラスの者たちや周りの客たちも祝福する。
全員の相手をできない中でクライシスを引き当てたのなら、それはこの中でも幸運だという証明になる。
「あの写真って、何時撮れば?」
「何時でも構いませんよ。今からでも構いませんし、中に入ってからでも大丈夫です」
「そうですか。……どうする?中に入ってから撮る?」
「うん!」
子供はそれに頷いて早く中に入ろうとクライシスと母親の腕を引っ張っていく。
母親はそれに苦笑し、クライシスは静かな表情で受け入れていた。
「わぁ……!」
中に入ると執事姿の女子やメイド姿の男子が働いていた。
普通女装なんて男子は恥ずかしがるものなのに全員が堂々としている。
男子の女装なんて恥ずかしがる姿も見て面白がるものなのに少し残念であり、格好良く見えた。
「こちらの席にお座りください」
「ありがとうございます」
クライシスの言葉に子供は早速とばかりに座り、母親はお礼を言ってから座る。
テーブルの上にはメニューが置かれている。
「決まりましたら、お呼びください」
「おぉ……」
「うわぁ……!」
一礼して去っていくクライシスの姿に親子はそれぞれ感激していた。
「お母さん……。女装しても格好良い人は格好良いんだね……」
「そうね。貴方も大きくなったら、ああなるのよ?」
「うん……」
クライシスの姿を見て感想を口にする親子。
女装している男子の中でも特にクライシスは堂々としており立ち振舞に隙がなかった。
正直女装なんて気にならず、そういう衣装なのかとさえ納得してしまう。
「そういえば写真だけどメニューを持ってきてもらって食べる前に写真を撮る?」
「えっ、うん」
「じゃあまずはメニューを選ぼうか?コーラや好きなホットドックもあるわよ?」
「じゃあ、それ!」
選ぶメニューが決まり注文する。
あとは運ばれてくるのを待つだけだ。
「お待たせしました。注文されたものです」
「あっ、はい。あと今一緒に写真を撮ることは出来ますか?」
「大丈夫ですよ。それじゃあ写真を撮りましょうか。………ごめん!写真を撮るから一人来て!」
クライシスの呼び声に男装姿の女子が近くに来る。
「それじゃあ写真を撮りますね?」
「お願いします!」
早速写真を撮るためにスマホを準備する。
事前にUSBケーブルも用意している。
撮った写真をこれで送るつもりだった。
「それじゃあ撮りますよ?」
クライシスは子供の後ろにまわり肩を組む。
その姿を親は女子生徒と一緒に写真を撮ろうとする。
「え?」
「あっ、これを撮ったら私も一緒に写真をお願いします」
つまりは子供だけのと家族のを二枚欲しいらしい。
そのぐらいなら構わないとクライシスも女子生徒も頷く。
「それでは、はいチーズ!」
親子での写真と子供とのツーショットを撮り親子の客は嬉しそうな笑顔になる。
それを見ているとこの仕事も悪くないなとクライシスたちは思っていた。
「今日は一日、お疲れさまー」
「「「「「「おつかれー」」」」」」
今日の文化祭が終わりねぎらいの言葉をかける。
まだ初日とはいえ、かなり疲れた。
クライシスのいる間はかなり忙しかったし、午後からはクライシスがいないとわかっても客が大勢きた。
「やっぱクライシスくんと同じクラスの出し物なのが理由なのかね?」
「何が?」
「いや忙しかった一番の理由」
「あー。なんかクライシスくん自身も宣伝してたみたい。来客者が学園生に挑める出し物でクライシスくんも手伝って、ついでに宣伝したって」
「なるほど……」
忙しかった原因の一部はそれだなと納得する。
どうせかなり高い実力を見せつけたのだろう。
それでクライシスを知らない人にも興味をもたせたのだと想像できる。
「明日はもしかしたら今日よりも忙しいかもな……」
「あぁ、昨日よりも情報はあるし」
「…………クライシスくんでなくても写真撮られたしな」
「わかる」
「そうか?」
クライシスでないなら写真を撮ることは無いと思ったがそんなことはなかった。
女子ならともかく男子でも全員が一度以上写真を撮ることになった。
知り合いなら女装している姿に面白がってるのなら理解できるが、完全にはじめて合う人とまで写真を撮られたのが男子は疑問であり女子は納得していた。
なぜなら女装していても男子たちは恥ずかしがらず堂々と仕事をしていたからだ。
女装というのが気にならず、むしろそういう仕事着なのだとしか思われなかった。




