二十四話(切り忘れ)
「………帰るか」
【あれ】
【配信は終わったよな】
【サブライズとかじゃないよな】
【もしかしてわざと?】
【これ気づいてないの?】
「ふぅ」
【ため息を吐いてる】
【どうしたんだ?】
【先程までは走っていたのに今は歩いている】
先程まで通っていた道に振り返って歩き始めるクライシス。
配信は切ったと思っているので切り忘れには当然気づいていない。
【あっ、モンスター】
【真横から襲ってきたな】
【もしかして気づいていない!?】
【完璧な奇襲のタイミングじゃん!やばいって!】
【気づいて!!】
「…………」
【え?】
【今、何が起きた?】
【振り下ろして直撃したと思ったら武器が横にそれたんだけど】
【よく見ろ!手をかざしている!】
「グォォォ!!」
【もう一度来た!】
【避けろって!】
【コメント気づいて!】
「…………うるさい」
雄叫びがうるさいと呟いてクライシスは腕を振った。
それだけでモンスターの持っていた武器は壊れ、その勢いのままモンスター自身の身体も叩き潰される。
【うっわぁ】
【グシャッっていった!】
【ビース「本当にここまで強くなれるか心配になってきた」】
【わかる】
【強くなれると言ったけど同じくらいとは言ってないだろ】
【そうだっけ】
「……………めんどうだな」
【急にどうした!?】
【なんか壁を蹴り始めたんだけど】
【こっわ】
【壊れないのに何をしてんだ?】
ダンジョンは壁を壊すのが、かなり難しく。
もし壊せたとしても一瞬で再生されてしまう。
そうでなくても壊れたままだと今度は壊れた道で進めなくなったり道が変わってしまうせいで推奨されない。
「………再生するのか」
そしてクライシスにとっては再生するほうが好都合だった。
【まぁ、無理だよ……ね!?】
【何をしてんの!?】
【なぜ壁に突撃!?】
【もしかして毒の影響を受けてる!?】
「グギャ!?」
「ギュガッ!?」
「邪魔」
【奇襲してやろうと準備していたのに逆に襲われちゃったね】
【ちょっとかわいそう】
【というか、そんなのあり!?】
【そんな方法があったのか】
壁に思い切り突撃し壊しながら突き進むクライシス。
壁が壊れたのと同時に通り抜けたために進むことが出来る。
それに再生するから壊しても問題にならない。
「このまま真っすぐ行けば直ぐかな」
【再生するからダンジョンを壊しても問題にはならない】
【これはかしこい】
【かしこいか?これ?】
ダンジョンの壁を破壊して進むが、よく壁に近づくと罠が襲ってくる。
槍が突き出てきたり、矢が襲ってきたり、毒が吹いたりもした。
突撃して通り抜けたら落とし穴だったりと割りと危険な場面もあって視聴者たちも目を離せない。
【こっわ】
【えっ、これ死なない?】
【今直ぐに救援を出すべきでは?】
【未だに怪我一つ無いのがバグる】
【姉御も見てなかった?】
【ビース「シクレたちをつれて今から向かうところ」】
【シクレ「クライシスくんはまだ生きてますか!?」】
【フレール「保護したら説教だ」】
【姉御たち!?】
【フレール「他にもいるがコメントするのは俺たちだけだ。今どこにいる?」】
【コメント欄だし人数が多すぎても情報が把握できなくなるしな】
【一分おきに場所だけでもコメントする?】
【それが最善かな ちなみに今は一階層に上がりそうって早いな!】
【早っ】
【えっ、もう?】
「……………」
【なんか真剣な表情をしていない?】
【ホントだ。何かあったのか?】
【クライシスが真剣な表情って……。もしかして何か異変でもあったんじゃ】
「帰ったら何を食べよう」
【は?】
【フレール「何を考えてるんだ、お前」】
【シクレ「ダンジョンの中にいるのに余裕ですね」】
【ビース「さすがクライシス……」】
【一人を除いて怒っているなぁ】
【妥当ではある】
【まぁ皆心配しているのに好き勝手してたら多少わね?】
「ラーメンは最近奢ってもらったばかりだから違うの食べたいしなぁ。今度は俺がお返しに奢りたいし美味しい店とかあるかな。あっても先輩たちの方が知ってそうだし」
【フレール「別に気にしなくても良いのに」】
【シクレ「二人で食べに言ってたんですか?」】
【フレール「ヤーキ先輩も一緒だから!」】
【ヤーキ「巻き込むな!」】
【草】
【男子連中で仲良くなって何より】
【女子がいないとは言ってないだろぉ!】
【シクレ「ビース先輩?」】
【ビース「知らないわよ!?」】
【フレール「男子だけだから」】
【そんなこと言っている間にクライシスも半分を超えてきているけど……】
【マジじゃん】
【もう、そろそろ合流しそうじゃない?】
【そういえば事務所のメンバーは今どこにいるの?】
【フレール「今からダンジョンに着いたばかりだ」】
【もうそこで待ってたら】
【すれ違ったら意味が無いしクライシスなら無事だろ】
【それはそう】
「………飯のこと考えたら腹が減ってきた。少し急ぐか」
【あっ、速度が上がっ
【本当に待ってたほうが良いな、これ】
【探しに行ったら絶対にすれ違う】
【フレール「確かに待ってたほうが良いか」】
【シクレ「来たら説教しないと」】
【やっぱダンジョンで壁破壊はダメだな 下手したら死ぬ】
【全くだ あと配信の切れ忘れも注意しないと】
「……先輩たち?」
【ホントに速いな!】
【切り忘れは見てて面白いけど気をつけるべきことだしな】
「配信切り忘れているから、まずは切れ」
「はい?」
【やっと気づいたか】
【あっ】
【真っ暗になった】
【今度こそ乙】
【多分このあと怒られるんだろうなぁ】




