二百一話
「クライシスくん」
「………。なんでしょうか?」
朝、教室へと向かう途中クライシスは教師から呼び止められる。
何かしてしまったかと少し緊張しながら振り返ると、そこには真剣な表情をしている教師がいた。
「すまないが時間があるときに私達と戦ってくれないか?」
真剣な表情で生徒相手に頭を下げる教師。
よく見ると目の前にいる教師だけでなく少し離れた場所にいる教師も小走りで近づいて頭を下げる。
そして更には生徒たちも緊張した面持ちでクライシスたちを見ていた。
「良いですよ。なら今週末はどうですか?」
「良いのか!?」
「はい。それで今週末は大丈夫なんですか?」
「安心しろ。もし用事があっても、こっちを優先させる」
「………そうですか」
用事があるならそっちを優先すればよいと思うが、そこは教師に任せて何も言わないことにするクライシス。
それよりも教師たちの真剣な表情に今週末が楽しみだとしか思えなかった。
「なぁ、クライシスくん?」
「どうした?」
「先生たち、何かあったのか?」
「さぁ?」
教室へと入ると教師たちのことで早速話しかけてくるクラスメイトたち。
皆が興味津々だ。
「さぁ、って……」
「ただ戦ってくれないかって頼まれただけだし。真剣な表情はしていたけど何があったかは知らないしな」
「そっかぁ」
興味ないんだろなぁ、とため息を吐くクラスメイトたち。
それに教師も生徒に話すようなことじゃないと言わなかったかもしれない。
そう考えと仕方ないかとなる。
「それにしても教師が戦うのか……。観戦しても良い?」
「そこは先生に直接聞いたら?俺はどうでも良いし」
「どうでも良いって……。配信の良いネタじゃねぇの?」
「いや。今回はそうする気になれないかな。まぁ、向こうから動画のネタにして良いなら、そうするけど」
そうか、と少し残念そうにするクラスメイトたち。
クライシスから言うなら受け入れると思うが、教師に頼めというのなら諦めるしかなくて残念だった。
「みんないるかー。SHR始めるぞー」
「あ、せんせーい。週末クライシスくんに挑むみたいですけど観戦してよいですかー?」
「なんで…って。まぁ、見られてたしな。とりあえず他の先生にも聞いてみるわ」
生徒がなんでそのことを知っているのかと考えたが、廊下でクライシスと出会った瞬間に頼んだと考えればそりゃ知っているかと考え直す担任の教師。
あとは観戦したいとのことだったが、これは他の教師にも確認しなきゃなと考える。
「というか、そんなに先生の戦っているところを見たいのか?」
「「「「「「見たいでーす」」」」」」
生徒たちに見たいと声を揃えて返される。
そんな面白いものじゃないと思うのに物好きだなと担任は考える。
「そういえば」
「どうしたクライシスくん?」
珍しくクライシスから声が上がったため視線を向けてしまう。
それは生徒たちも同じなのか皆一斉に視線を向けてしまう。
「っ。はぁ、一人一人戦うんですか?それとも一斉に挑んでくるんですか?」
視線による数の暴力に一瞬気圧されるが、そのまま質問してくるクライシス。
そして担任もその質問の内容にそういえば、どうするんだと考える。
「……そういえば先生も知らないな」
「は?」
「ちなみにクライシスくんはどっちが良いんだ?」
「どうでも良いです。そっちで考えてください」
少しクライシスがキレたような気がしたが、クライシスはどっちで戦いたいのか確認する。
クライシスと戦うことばかり意識していて、どういうふうに戦うのか考えてもいなかった。
それならいっそクライシスの希望する形で戦おうかと考えるが、それもクライシスは任せてくる。
「いやクライシスくんも要望出しても良いんだぞ?挑戦を受ける側とはいえ、こちらは複数人だし」
担任の言葉にそれはそうと頷く生徒たち。
話の流れからしてもクライシス一人に対し教師は複数人が挑むのだ。
一対一を繰り返すだろうにしても複数人で一斉に挑むにしても、相手するクライシスが一人である以上不利なのはどちらなのかわかりきっている。
「お前ら程度が?」
なのだがクライシスはどちらにしても問題ないと返す。
しかも実力的には格下なのはそちらだと見下してだ。
「そうかも知れないが、それはあくまで戦闘に関する実力に関してだよなぁ?」
「だから、そう言ってますが?勉強や社会的な経験はそちらが上でも………戦闘に関してはこちらが上に決まっているだろう?少しは俺を楽しませてみたらどうだ?」
「…………そうだな!全力で挑むから楽しみにしてくれ!」
流石に教師を見下してくるのは問題だと怒りを抱くがクライシス自身もあくまでは戦闘面に関しては自分が格上だといい、その上で社会的な部分や勉強面はそちらのほうが上だと認めての発言だとわかって担任も矛先を収める。
そして同時にたしかにクライシスのほうが戦闘に関しては格上だから全力で挑まなきゃいけないと決意を新たにする。
そうでもしなきゃ一瞬で終わらせてきそうで気を引き締める必要があった。




